第13話 噴水

「「先程は失礼いたしました!」」


「いやぁ…もう別に全然いいですけど」

「…」



場所はうってかわって近くのファミレス。絡んできた二人と一緒にお茶会というのもおかしな話だが、おごるのでお話だけでも!お詫びさせてください!なんて公共の往来ですがり付かれて大声で叫ばれたら着いていくしかない。あれは完全にいやがらせだった。


そしてファミレスで注文をしたすぐあとに、不良ツインズに平凡な俺が頭を下げられている奇妙な光景があった。


いや、実際は俺に対して頭を下げてるんじゃあないと思うけれど。正しくは俺の隣に座っている崇先輩に頭下げてるんだと確信してるけどね!

どうでもいいけど、崇先輩なんか俺と距離取ってない?双子の席とは違って、俺たちが座っているのはソファ席なんだけど、3人がけのようで、俺と先輩の間には綺麗に一人座れるくらいのスペースがある。あえて先輩が離れて座っているんだなぁ、ということがみてとれるわざとらしいスペースなのだ。隣に座るのそんなにいやなのかなぁ…少し傷ついてしまう。



「俺は兄の黒崎金次郎です」

「俺は弟の黒崎銀次郎といいます」

「はぁ…」


不良ツインズはなんともファンキーな見た目をしてるけど、名前は案外古風なようだ。先程俺たち、むしろ崇先輩に絡んできたときに比べれば、今のしおらしさというか、飼い主になつく犬のような従順さが半端なく違和感がありまくりで、俺は戸惑わずにいられない。

まあ、崇先輩はコーラをひたすら飲んでるから双子の話を聞いてるかわからないけど。


「まさか須永さんが師匠の大事な方とは思いもよらなかったので」


ブッ!!


「ちょ、え、先輩?!」


金次郎…と思われる方がそう発言するやいなや、俺の隣の男前が漫画のようにコーラを目の前の…えーっと、銀次郎の方かな?に、コーラをぶちまけたのだ。噴水みたいに。ちなみに俺の席からは光の具合で虹が見えたよ、どうでもいいけど。


「ど、どうかされましたか?師匠!」

「な、なんでもねえよ」

「「「いやいやいやなんでもなくないでしょう」」」



思わず三人でハモってしまったじゃないか、きもち悪い。

でもハモってしまうくらい、今の先輩の焦りようが不自然だったのだ。


今日だけでフルコースが一気に運ばれこんできたみたいに、先輩の色々な顔が見れた。怖い人だってことが再確認できたけど、それと同じくらいに優しい面もあるということも分かった。


口調こそ慌てているけど、ぶちまけたコーラを俺たちも一緒に拭いているのを、申し訳なさそうにしている様子は、なんだか可愛らしかった。

先輩に対して可愛いとか失礼かもしれないけれど、本当にそう思ったのだ。まあ、とんでもないことだから本人には到底言えっこないけど。



「須永…すまん…」

「え?!大丈夫ですよ。先輩体調悪いんですか?」


突然横から聞こえたイイ声に俺はびくっとしてしまった。幼馴染の太一にこんな姿見られたら75日は絶対にいじられまくる。ネチネチとな。


先程のコーラ噴水事件をあまり触れてはいけないのかもしれないけれど…心配なことは心配だから聞いてみる。



「いや、体調悪くはねぇよ」

「本当ですか?無理はしないでくださいね…」

「…ああ」

「…っ」


び…っくりした。

だって先輩があまりに綺麗に微笑むから。

強面の先輩だけど、ベースがイケメンだから不覚にもどきりとしてしまう。あれ、俺男なのに…



「「うわ~…師匠と須永さんのこと、なんとなく分かりました」」

「ああ?」

「ひっ…!」



双子が納得した風にまたハモって頷く。

なんとなく分かった、ってどういうことなの。

俺は先輩のことあんまりわからないですけど。というかいい人なんだろうけど…いまいち謎が多くてなんとなく、は分からない。

それに対して崇先輩は思い切りどすの利いた声で双子たちを睨み付ける。絶対濁点ついてたよ、今の凄み方は。

だが双子はその迫力をもろともせずに先輩の手を取り、キラキラとした目で先輩に食いつく。その度胸はさすが不良だなと思う。



「「俺たち、師匠のこと、全力で応援します!!」」

「応援…?崇先輩何か試合とか出るんですか?」

「…もう…どうでもよくなってきた…」



応援、って何だ?今の話の流れが全くつかめない。

どうやらわかっていないのは俺だけらしく、首を傾げる俺と尚も憧憬の眼差しを向ける双子を交互に見て、崇先輩は深く深くため息をつくのだった。

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