第11話 王子-2

鬼。そう形容するのは無理がないと思う。

だって禍々しいまでの凶悪な顔をした先輩は、もはや鬼と表すしかないのだから。


俺は恐ろしさに声が出なかった。



「な、なんだよ…」

「や、やるのか…?」



双子の不良A、Bは口調こそビビっているのがバレバレだが、どうにか不良としてのメンツは保ちたいのだろう。あの鬼のように怖い崇先輩をあろうことか挑発しやがった。

頼むからやめていただきたい。ほんと怖いから…俺チビりそうなんだけど…



「おい、」

「ひあああああごめんなさい先輩!」



地を這うような声で先輩が言葉を発したので、俺は反射的に全力で謝った。

先輩の恐ろしさに俺は恥ずかしいことに、腰が抜けてしまって、ガクン、と倒れこみそうになった。



「お、おい?!」

「大丈夫かよお前」

「…は、はい…ありがとうございます…」



俺が倒れそうになると、双子不良は二人して俺をがっしりと支えてくれた。くそ…顔は無駄にいいからなんだか俺が余計情けなくなる。

さっきまで俺から金をせびっていたくせに、この不良たちは俺の腰を支えてくれた。きっと双子は俺のことを先輩にビビる哀れなパシリだとでも思ったんだろう。まあ、それは正直近からず遠からず、といったところだろうか。




だがそのことが余計、崇の機嫌を悪くさせることに、恭弥は気づかなかった。

見知らぬ不良二人が恭弥を近距離で支えて体に触れていることが崇の機嫌を急降下させたのだった。





「てめえら須永に触れるな」

「「は」」



不良たちが先輩にに向き直ると、次の瞬間、俺の身体はそれよりも強い力で支えられた。


「せ、先輩…?」


何が起こったのだろう。

強い力で俺を支えているのは…崇先輩だ。

不良たちは鈍い音をさせて後方に消えたのだ。

まあ、…崇先輩が殴ったからなんだけど。

めっちゃすごい音したから絶対痛い…先輩が本気なのがオーラで分かってしまった。

次は俺か、と本気で死を覚悟したけれど、あるのは力強い腕と、温かい体温だった。


「大丈夫か」

「…崇、先輩」


恐る恐る声の方を向くと、俺をじっと見つめる先輩と目が合った。目が合うのは正直怖かったけれど、先輩は先ほどの顔つきとは打って変わって、優しい眼差しを俺に向けてくれていた。

その目がすごく優しくて、とてもさっき鬼のような顔をしていたとは思えない。

さっきのが鬼なら、今は仏、とでもいったところか。

でも先輩のビジュアルなら、王子様でも十分通じる。眉間にしわを寄せてガンつけることをしなければ、柔らかい眼差しで、まさに王子様と形容できるイケメンなのだから。



「せ、先輩って、王子様みたい、ですね」

「な、なんでだよ」

「だって…あ」



う、わあああああああああああああやばいやばいまずいやばい!!!

王子様みたいだとかアホみたいなことを抜かす俺が心底恥ずかしい!

てか心の声がそのまま出ていただなんて恥ずかしすぎて先輩の顔が見れない。

どうしよう…俺はそれっきり言えず、俯いてしまった。

さっきまでの恐怖は、どこか遠くにいってしまった。



すると、先輩は俺の腰に回した手を更に強くし、俺をしっかりと立たせると、ぐっと先輩の方に身体を引き寄せた。

んん? なぜ…?



「須永…こっち、向けよ…」

「え?」

「なあ、俺に顔見せてくれ」



ちょ、っとなんでそんな甘い声になってるんですか。

まるで女の子に睦言をかけるような口調で先輩が俺の耳元でささやく。ちょ、相手間違ってませんか。どういうタイミングでその武器を使っているんですか先輩!


軽くパニックになった俺は、先輩の顔を見ることなんて到底できやしない。


「須永」



熱っぽく囁く先輩に、もうやめてください、と言おうとしたその時。






「「師匠!!!!」」


「「は?」」





満面のキラキラスマイルで俺たちを見つめる双子不良がそこにいた。




そういえば…忘れてた。吹っ飛ばされた不良たちのこと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る