第10話 王子-1

先輩とゆっくりと歩き始めても、いまだに会話はそこまで弾まないのだが、さっきよりは少し空気が違うような気がした。

まあ、あくまで、気がしたってレベルなんだけど。



先輩は少し俺に合わせて歩幅を狭めて歩いてくれているので、俺は早足にならなくて済む。

それにしても…先輩脚長い…

少し前を歩く先輩の横顔はやっぱり不良チックな強面だけれど、それでもかっこいいものはかっこいい。

ぼーっと見惚れていると、先輩と目が合ってしまった。


「須永、どうした」

「いや、なんでもないですっ」



恥ずかしい…まさかかっこよくて見惚れてました、だなんて。

オエー…絶対気持ち悪がられる。男に見つめられるとかまずないよな…ナイナイ。


先輩はぶんぶんと否定する俺を不思議そうにみて、少し微笑んで…また前を向いた。


な、なんだそれ!イケメンにもほどがあるんですけど。

そんな些細な所作も、かっこいい先輩は絵になるんだ、と感心していたその時だった。





「オイ、にーちゃんたち」

「ヒッ」



俺たちの行く手を阻む者がいた。

今の絡み方で察してくれたであろうが…そう、不良である。まあ、俺たち男に絡むのは不良だろうなとは思ってるけど。

あ!でも先輩なら可愛い女の子から逆ナンとかは結構あるのかも…



て、そんなこと考えてる場合じゃない!


明らかに先輩に絡んでいる不良A、Bさんはいかにもチンピラです、っていうような感じだった。




「せ、先輩どうしま…え?」

「「は?」」



崇先輩は不良の2人組には見向きもせず、すっと素通りしたのだ。しかも結構早足ですたすたと歩いていく。その歩みには一切の迷いがなかった。


…て、…え、えええ?!シカト!?この距離で!?



俺は当然驚いたけど、それは不良さん方も同じだったようだ。不良さんは俺よりも背の高い人で、二人がシンクロして驚いていた。てか、この人たち顔そっくりだな、双子かよ。どうでもいいけど。



でも俺は先輩についていくしかないので、不良さんたちの横を抜けて、先輩に駆け寄る…つもりだった。


「「ちょい待ち」」

「…う、わっ!」



クンッ、と向かう方向とは逆に引っ張られた俺は、不良さん方二人の腕の中にダイブした。

だって急に引っ張られたら、誰だって慣性の法則、だっけか?それでバランス崩しますよ。


「おっけ~まず君からお小遣いもーらお!」

「中学生でもオカネ、もってるでしょ~?」

「はぁ?!中学生じゃないですけど!」



好き勝手言う双子は俺の顔を面白そうに覗き込んでいる。く、くそおおお!こいつら俺よりちょっと背が高いからって馬鹿にして!


俺は文句を言ってやろうと思ったその瞬間。



「…っ!」


なんだかうすら寒いオーラを感じ取った俺は、ギギギ、と音が出るくらいぎこちなく、先輩の方に向き直った。



「…ひ、ひぃぃ!!」



俺の感想を述べてしんぜよう。

そこには…鬼がいました。

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