第5話 再会-3
俺の手を引くのが女の子だったらなあ、なんて思うのくらいは許してほしい。
というか男にエスコートされたところで何も嬉しいはずはない。特に今のこの状況は決して喜べるようなものではなかったからだ。
「…」
ひたすらに無言を通す俺を、イケメンさんは気にもとめないようだった。
というか、平平凡凡な俺に興味がないのかもしれない。ならばそれで一向に構わないので、帰らせてほしい。
「えらくおとなしくな~い?きょーやちゃん」
「…俺には選択肢がないようなので…」
い、言えたー! 若干声が緊張で上擦ったかもしれないが、ちゃんということができた。
分かりにくいけど、精一杯の俺の抵抗である。
拗ねている、と言われればそこまでだろうが。
「ぶっ! 拗ねてるの~?おもしろい~」
「…拗ねてません」
俺に遠慮する素振りも一切見せずに、堂々と噴き出した。おい、人に指さすなって習わなかったのかよ!…とは言えるはずもない。
「きょーやちゃんて、面白いね~、あいつがはまるわけだ~」
「? どういう…」
「と~ちゃ~~く!」
「…」
どうやらイケメンさんの話したいことはそこで終了したらしい。そして俺にとって恐怖の時間がやってきたようだった。
正直一刻も早く帰りたい。
「きょーやちゃん、ささ、遠慮せずに~」
遠慮とか関係ないだろ!とは突っ込めない俺は、腕を引かれるがままに、屋上へと招かれたのだった。
ご機嫌なイケメンさんとは対照的に、まったくもってテンションの上がらない俺でも、屋上に出た時の解放感は少し気持ちがよかった。澄み渡る青い空である。まさに、青春の一言に尽きる。いいなぁ、いつかこの場で俺も可愛い女の子に告白されるとかそういうイベントがあるかもしれない。夢はでっかく持った方がいい。
恭弥自身、屋上に来るのは初めてだった。なぜなら屋上は不良がしょっちゅう出入りしているという噂があったからである。
…ん? ふりょう…
!!
そうだ、俺は超絶イケメンさんに拉致されてここへ…
「きょーやちゃん~起きてる~?」
イケメンさんのゆる~っとしたしゃべり方が俺を現実に引き戻そうとする。
嫌だ!俺はここで可愛い幼馴染に告白される運命にあるのに、ここで不良にリンチされてミンチになるフラグは全力で叩き折りたいんだ!!
「お、起きてましゅ! あ」
「ぶっ!なに今の~、ねえねえ崇聞いた~?超かわいいよきょーやちゃん~」
はっずかしい…
俺はいたたまれない気持ちにならざるを得なかった。
可愛くもない俺が大層残念な噛み方をしたおかげで余計に死にたくなった。なのにこのイケメンは可愛いなどと言ってさらに俺を辱めようとするのか…鬼畜…!
ただでさえ屋上に足を踏み入れただけでも膝ががくがくするのに…さすがヘタレ。条件反射が冴えわたっているな…
……て、たかし、って言った?
少しばかり冷静になりつつある頭で必死に考えをめぐらす。たかし、というのはおそらくこのイケメンさんではないのだろう。
ならば…
それは誰を指しているのか、と周りを見渡すと…
「千夏、お前もう黙れ…」
「! あ、ああああああなたはあの時の!!」
「…チッ」
「あはは~崇、顔真っ赤~」
やはり俺の想像していた通り。
あの時俺が粗相を働いた、俺に恨みを持っているであろう不良様が、あの時のような怒りに顔を赤くしてそこに立っていたのであった。
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