第4話 再会-2

「な、名前知られててもさ、俺のことどこの誰かとかは分かんないだろ」



そうだよ。最近じゃあ、すぐにやれ個人情報だのとうるさいんだから、きっと名前がわかったところで探し出すことはそんなに簡単ではないだろう。

それを自分の口に出してみると、どこからかふつふつと自信が湧いてきた。

そうだ、探偵じゃあないんだから、たぶん俺のことなんて探し出す前に忘れてしまうんじゃあないか?

そんな都合のいいことを考えていると、目の前の彼から大仰なため息が聞こえてきた。



「…恭弥、お前ってさ、学校から家に帰るのに何着て帰ってるんだよ」

「はあ?何って…制服に決まってるだろ」

「…ここらで俺らの制服みたら、山高の生徒ってバレバレなんじゃねーの?」

「あ」



あの不良様がこの地域には初めて来ました、の観光客なら問題は一切なかっただろう。だがそうそう都合のいい話があるものではない。


俺はようやく事の重大さを知ることになり、みるみるうちに青ざめていった。



「や…っべぇ…俺ってすぐ特定されるじゃん」

「…今更?」



頭を抱えてこの世の終わりとばかりに嘆く俺とは打って変わって、悪友は呆れ顔である。

くそぉ、他人事だと思って!!…まあ、他人事、なんだろうけど。もうちょっとこう…心配してくれないかなぁ、まじで。



「でさ、その不良様の名前、聞いたんだろ?なんていうの」

「…記憶を抹消したくて忘れた」

「…はぁ?」



もう馬鹿とののしられてもいいさ。そうさ、あの時のこと、怖すぎて名前なんて覚えてないよ。だって二度と会いたくないし、俺は覚えたくないんだから。

あ、でも一つ覚えていたことはある。



「名前は忘れたけど、顔は超綺麗だった。かっこよかったよ」



恭弥はたいそう真面目にそう言ったのだが、どこか抜けている恭弥に、またため息をつく太一。


「やっぱ恭弥って、あほで面白い」

「…褒めてるつもりか?」


こくこくと頷く彼には、なにか言ってやりたくなったが、俺はその言葉を飲み込んだ。

だって…正直俺、ピンチだしね?




するとその時。

俺たちの教室の扉が勢いよく開いて、キラキラと派手な色の長身が入ってきた。



すらりとした長身にゆるゆるとした金髪のパーマ、小さなやたら整った顔を装備した…つまり超イケメンはおしゃれに着崩した制服と不思議なオーラをまとって、にこにことしながらずかずかと俺たちの教室に入ってきた。


クラスメイトたちは、一体何が始まるのかわけがわからないようで、皆一様に唖然としている。

一部の女子たちは黄色い歓声をあげているけど。

たぶん…先輩だよな?他人がそこまで気にならない俺は、知らない人だけど。

あれだけの容姿だ、きっと有名なんだろう。

教卓の前に立ったイケメンは、にこ~っと微笑んで、想像通りの美声で第一声を発した。



「こんにちわ~!このクラスに須永恭弥って子、いる~?いたら手~挙げて~」



すなが、きょうや。

確かにそう言ったね?


…お、おれ?!!


え、ちょっと待ってください。

俺のこと…?



太一から鈍い、とよく言われる俺だけども、さっきの話があったところだから、嫌でも感づいてしまう。



特定さ れ た !!!




横で太一が「おい、超かっこよかった不良様ってあいつか?」と耳打ちしてくるけど、首を振るしかできなかった。


確かに美形は美形だけど、この人は違う。



俺が手を挙げないんだから、誰も挙げるはずがない。当たり前だ。

けれどここで手を挙げることは即ち、俺の死を意味するのでできるはずもない。




「あれれ~?いないのかな~?それとも~嘘、ついてるのかな~~?」



こ…わあああああ!!!!

笑顔なだけに怖すぎる。

口調はあれだけ柔らかいのに、目が笑っていないような気がしてとても「俺です☆はじめまして!」と言える雰囲気ではないのだ。



「嘘つく人は、俺、きら~い。あとでここにいる誰かが須永恭弥だったら~俺、そいつをぼっこぼこにしちゃいたいかも~~」

「俺ですすいませんでした!!」



あ、しまった。

今のイケメンさんがあまりに怖いから自己申告してしまった。


隣の太一が「…あほ」とつぶやいたのは甘んじて受け入れよう。俺はあほでヘタレなんだよ!



イケメンさんは俺の存在を認めると、にっこ~と綺麗な顔で笑い、俺の方に近づいてきた。



「うん~俺正直な子、好きだよ~きょーやちゃん」

「え」


その呼び方はなんなんだ。とヘタレの俺が突っ込めるはずもなく。



「じゃあ今から~屋上へレッツゴー!」

「は」

「あいつが待ってるからね~」



急がなきゃ~というイケメンさんに意外にも強い力で腕をがっしりホールドされた俺は、驚く太一を尻目に…拉致されたのでした。

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