第2話 遭遇-2

俺は須永恭弥。いたって平凡な高校生2年生。平平凡凡といった言葉がよく似合うフツーの男。


高校が少し遠いからという理由で、俺はすでに社会人として働く兄ちゃんの家に居候させてもらっている。

兄ちゃんは23歳で大学を出てからすぐに名の知れた企業に就職した。俺と違って優秀な上にイケメンな兄ちゃんは、家族の誇りだ。俺はそんな兄ちゃんに憧れていて、兄ちゃんと同じ大学進学を目指している。


帰りの遅い兄ちゃんに、居候させてもらっている俺ができるのは、諸々の家事である。

高校に入ってすぐの頃は料理のりの字もわからなくて、指には怪我しまくって散々兄ちゃんにも心配をかけてしまったが、今では家庭料理ならお手の物、と言える程に成長した。いや~人間そういう状況下になったら適応するもんだな、まったく。


放課後、いつものように買い出しをして、今夜はハンバーグを作ろう、そう意気込んで家路に無事つくはず、だった。

そう、いつもの角を曲がるまでは。




「…わっ!」



家の前の四つ角を曲がれば、俺と兄ちゃんのアパートが見える。

だが、その角を曲がった途端、誰かとぶつかってしまった。



「すみませ、ミラーちゃんと見てなかったです…大丈夫です、…か」



人通りの少ない住宅地だからといって、不注意だったのは認めざるをえない。俺は素直に謝り、その場を立ち去ろうとした…のだが。




「…っ!」




俺は喉をひゅっと鳴らしてしまった。

だって、だってだって!

目の前には背の高い威圧感たっぷりな不良さんがいたんですから!




そして冒頭に戻るのであった。






そうです。俺が目の前の不良様に、あろうことかぶつかってしまったのですよ…


あれかなー、「うわっ、骨折れちゃったんだけどー、治療費くれないかなー」とかいうベタベタなカツアゲされちゃったりするのか?

それとも「…ってーな、ケンカ売ってんのか?あぁ?!」的な感じでサンドバックにされちゃうのか?

あー…どっちにしろ俺、終わったわ。

とりあえず神経を逆なでしないように謝るしか…




「おい…話きーてんのかてめぇ…」

「ひっ!!ご、ごめんなさい!」

「…ちっ、お前の名前教えろ、って言ってんだよ」

「…へ?」




あれ、なんだか、予想していたのと違う…んですけど。

ちらり、顔を覗き込んでみると、バッとすごい勢いで思いっきり顔を逸らされた。

な、なななんでー!? 見てんじゃねえよゴミが!ってかんじなのか?

とにかく怖すぎて俺はしぶしぶ名乗ろうかと考えたが、名乗ったらどうなるのか、ということを考えたら…やっぱり怖くて何も言えなくなってしまった。



「…あー、そうだよな、まず俺が名乗らなきゃな」

「え」

「持田崇。たかし、って呼べ」

「あ、あの…」

「俺が名乗ったんだからてめーも名乗れ」



え、ええー? 名前別に知りたくないんですけど!知っても俺にメリットないんですけど。むしろデメリットの方が多い気がするんですけど。



「須永…恭弥です…」

「須永、恭弥…」



その不良が、まるで初めて言葉を教えられた子供のように俺の言葉をおうむ返しに繰り返すものだから、以外に素直なのかな?と思った。



「ふははっ」

「…て、めぇ…っ!」

「…あ!」



素直な不良、と考えたらなんだかおかしくなって、俺は自然に笑みがこぼれていた。



笑う?

あれ、目の前にいるのは…


ひぃぃぃぃ!!!バカ俺は本当にバカか!


やばいやばいやばいやばいって!!!

不良様を笑うとか一般人には自殺行為だよ間違いなく!


これはもう、堪忍袋の緒がはち切れるんじゃあないか!?


般若のような顔になっているのではないかと考えると、しばらく顔が恐ろしくて上げられなかった。

あー、なんでこんなことに…俺はただハンバーグ作りたいだけなのに。


俺はどうあっても決して折れようのない死亡フラグに泣きそうになりながら…いや、泣いてるかもしんない…すでに…恐る恐る、ゆっくりと顔をあげてみた。


すると…



そこには怒りで顔を真っ赤にした不良様がいらっしゃいました。



「?!?!!※△○!!」



本当に怖いときって、声が出ないもんなんですね。今日初めて知りました。




…って、落ち着いていられるか!!!



もう、だめだ!殺される!!

あの眼は猛禽類の目だ!

弱者、すなわち俺を食らう眼だ!!


考えるより行動した方がいいと考えた俺はすぐに家に向かって走り出していた。


たぶん運動神経がいいのだろうが、俺が逃げ出すとは思っていなかったのか、不良様は俺のダッシュにすぐに反応できなかったようだ。


よかった…どうやら神様は俺を見捨てていないらしい。



後ろから不良が何やら叫んでいるのが聞こえた気がしたけれど、今はそんなこと構っている場合ではない。断じてない。俺の命の方が大事だ。







全速力のダッシュで家に着いた途端、とてつもない疲労感が体中を襲って、へたりと玄関口に座り込んでしまった。



「…でも、あんなイケメンいるもんだな…」



怖かった。どうしようもなく怖かったけれど、とにかく彼はイケメンだった。




「…ま、もう会うことはないだろうし…」




とにかく晩御飯を作らねば。


兄ちゃんの喜ぶ顔を見れると考えたらむくむくとやる気が出てきて、先ほどの恐怖体験はどこかへ行ってしまった恭弥であった。

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