あとがき

 Mねえさん。お元気ですか。

 Yにいさん、先日は父のお通夜つやにご参席をたまわりありがとうございました。

 最後まで読んでくれて本当にありがとうございました。技術的に難しい表現も多数あり、大変だったと思います。できるだけシンプルにして、簡易に解説するよう心がけたのですが、なかなか難儀なんぎですよね。

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 本稿は病院のベッドの中で痛みをこらえてなんとか書き抜きました。弁理士を目指す方はもちろん、技術系に興味のある中高生にぜひとも読んでほしいと思います。日本ではもう技術開発はできないと思っているかもしれません。そんなことはありません。白井社長のように一つの製品に情熱を燃やすのも生きがいです。笹川社長のように夢をみることも大事です。布藤はきたない手を使いますが、それが、大人の世界です。国際社会です。アメリカなどは、もっとも、もっと、凄惨な争いがあります。それでも、それでもなお、技術はうそをつきません。

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 トヨタのプリウスは世界を席巻しました。どんなにバッシングを受けてもあの技術は優れている。革命的です。人々はそれを分かるのです。熊谷助教のような天才も、白鳳の佐々木君のような愚直な工員も、大野くんのような努力の才も、技術という土俵の上ではみな正直で無垢です。だからこそ、技術は人生をかける価値があります。次の四十年で世の中はどう変わっているでしょうか。本当に太陽電池塗料たいようでんちとりょうがマンションの外壁になっているのでしょうか。常温超電導じょうおんちょうでんどう技術が実現しているかもしれません。水に太陽光を当てて水素と酸素を発生させる光触媒が開発されるかもしれません。

 私の後輩は国立大学で助教をし、そこで『核融合』を研究しています。太陽で起こっているあの反応です。水素原子(H)二つがくっついて、ヘリウム(He)になる。このとき莫大な熱がでます。これを地球上で実現し、エネルギー源として利用しようというのです。ばかな。酒の席なので私は冗談めかして「がんばれよ」と言って肩をたたきました。でも彼の目は真剣そのものです。私の顔からは完全に笑みは消えました。必ずできる、寸分も疑わず、そう信じているのです。決して夢ではありません。

 四十年後にこのあとがきを一緒に読んでみましょうね。

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 二田水氏は悪役にしましたが、彼こそたたき上げの技術者だと思います。クレーム処理、試験員、知財員、僕はひそかにその経歴を尊敬をしています。そして、その技術や人に対するひたむきさは登場人物のなかでも、実は一番なのかもしれません。逆に、それが彼を殺人に走らせてしまったのかもしれませんね。

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 技術と法律の融合。それが特許制度であり、弁理士の仕事です。でも、主役はどこまでいっても『技術』です。理系離れの言われる昨今ですが、この国にはまだまだ技術で夢を語れる風土と環境があると思います。そして、手先が器用で、緻密で粘り強い、実験的な考察の得意な日本人に技術は向いています。私の息子やHあき君を含めて、後進に送りたいとおもいます。技術で、僕らの生活をもっともっと豊かで便利なものにしてください。日本は、三度の原子力被害を受けました。広島、長崎、福島。エネルギー問題を含めた社会の難局を乗り越えていってください。必ずできます。

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 私は弁理士としてあと何年働けるかわかりません。でも、力尽ちからつきるそのときまで、あともう少し、技術者の夢のお手伝いができたら至高しこうの幸いです。

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「冒認」…発明どろぼう… 久留栖 乃碧《くるすのあ》 @Kurusu-Noa

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