「お前、最近何だかおかしくないか」

「えっ、別に前と変わってないよ」

「いや、そんなことはない。前は自動販売機で飲み物を買う時も、一番安い水にするかどうか悩むほど金に困っていたはずだ。それが最近はテイクアウトのコーヒーになっている。どう考えてもおかしい」

「それは親の遺産が――」

「お前の両親とはこの間、同窓会の連絡でお前が捕まらない時に、実家に電話して話をしたよ。いつ死んだんだ? あの時は元気そうだったぞ」

「……」

「お前とは幼馴染の仲だからな。俺の目は誤魔化せないよ」

「……分かった。正直に白状する」

「そうしてくれ。お前は意外と軽率だから、もし気の迷いで犯罪に手を染めたとしても、俺は決してお前を見捨てたりは――」

「あ、なんだよ。そっちの心配をしていたのかよ」

「えっ、違うのか? だって、そうでもなければ急に金回りが良くなることなんて――」 

「違うよ。安心しろよ。全くの合法的な手段だよ」

「……で、なんでスマホなんか取り出したんだ?」

「まあ、これを見てくれ」

「なんだよ、このそっけない画面は。文字とテキストボックスとOKボタンしかないじゃないか」

「お前、『神託システム』って聞いたことないか?」

「『神託システム』? えっと、あの、掲示板で流れている怪しげな噂のやつか?」

「そう、それ」

「何でも質問したことに神様のように的確に回答してくれるシステムがあるとかいう――お前、よりにもよって宗教に嵌まったのか?」

「だから、そういう危ない話じゃないよ」

「じゃあ何だよ。そんなシステムが実在するわけは――まさか」

「そうだよ。そのまさかが、このスマホの画面に表示されているやつなんだよ」

「そんな……そんなことはありえない」

「俺も最初は半信半疑だったんだ。こんなチャチな画面で神託なんか受けられるはずがないって。でもさ、これで試しに株の相談をしてみたんだよ」

「株?」

「そう、株」

「株の相談で、ご神託が帰ってきたの?」

「そう。最初のうちは曖昧な分かりにくい回答だったんだけど、それでも何だかんだで六割近くが的中した。それが今では、どこからそんな極秘情報を仕入れたのか分からないほどの分析付きで、間違いのない回答が帰ってくる。で、今のところこんな感じだ」

「なんだよ、その財布。札が横からはみ出しているじゃないか……」

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