川だった記憶
私の名はシュラウド。
川の一部だ。
若い頃は雨だった。
家族はまだいない。
針葉樹の葉から葉へ、葉から地面へと場所を移し、うつろな意識の中で山や岩を経てわき水となりて地表にでた。
支流から本流へと姿を変えながら、ある女性と知り合った。私は、この星に生まれてきたことを歓喜した。
「シュラウド、見て綺麗な夕日」
恋人のソラリスが声をかけてくる。
「本当だ。君と一緒に見ることができて幸せだよ」
私は感慨深く言った。
少しクサいセリフだなって思うが、紛れもない真実の言葉だ。
「ねえシュラウド、これからどうするの?」
ソラリスが寄り添ってくる。いつだって僕を気遣ってくれる。
「どうもしないさ。ずっと一緒にいるだけさ」
私は立派な男では無いかもしれない。でも彼女を大切に思い続けることはできる。
「シュラウド。海が見えるわ」
「そうだね、ソラリス。これから何が起ころうと、どう変わろうと私たちは一緒だ」
ドン
「ありがとう。出会ってくれて」
ソラリスが胸に飛び込んできて、私はそれを受け止めた。
広大な海が近付いてくる。
私は時が止まればいいと願いながら、この幸せを忘れぬよう心に刻んだ。
『愛してる』
ふたりの想いが音になる頃には
すでに私たちは川じゃなくなっていた。
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