雨だった記憶
俺の名はシュラウド。
雨の一部だ。
少し前まで雲だった。
家族はいない。
激しい風に吹き飛ばされ、たったひとりで身も心も震えるほど寒い。すれ違う雨たちも冷たい目をしている。
眩しい閃光が轟音とともに鳴り響き、雷電が俺の意識を奪いにくる。誰もが、この星に生まれてきたことを後悔するんだ。
「助けてくれええええ!」
悲鳴があちこちで飛び交っている。
「いっそ楽になりたい」
あきらめ悟った者もいる。
いつまでも続くわけじゃない。地面に叩きつけられれば、すべてが終わる。
「おいシュラウド、あんまり端っこの方へ行くな。落ちたら戻ってこれないぞ」
父さんの言葉を思い出す。いつだって僕を心配してくれた。父さんに会いたい。
ここでは、みんな自分のことばかり。たったひとりで乗り越えていかなきゃならないんだ。それが立派な大人というものだ。
「おいおまえ! そこをどけ! このままじゃ落ちるべき場所に落ちられない!」
「落ちるべき場所? 安全な場所があるんですか?」
「そんな場所はない。だが先を見据えて行動しなけりゃ、いまよりもっと悪くなるぞ! 風に乗れ、自分を正しくコントロールするんだ」
ドン!
「遅かったか」
それは突然の出来事だった
何かにぶつかった
「それもまた運命。達者でな!」
そう言って彼は風に乗って飛び去った。
俺は背の高い針葉樹にしがみついて彼を見送った。先ほどまでの嵐が嘘のように静寂が訪れた。
「……父さん」
俺の嘆きが夜の森に染み入る頃には
俺が葉を伝い地に落ちる頃には
すでに僕は雨じゃなくなっていた。
水とも呼べない俺の意識は、容赦なく大地に沈み込み、深い深い暗闇の底へ消えていった。
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