雲だった記憶

僕の名はシュラウド。


雲の一部だ。


家族もみんな、雲の一部だ。


昼間は、地上の人間たちを鑑賞したり、仲間と遊んだり、空を飛ぶ鳥たちと話したりして、自由気ままに暮らしてる。


陽が暮れたら、雲ひとつない夜空の星を見上げて、この星に生まれたことを感謝するんだ。


「よう、シュラウド! 調子はどうだ?」


友人のドナウドが飛び回りながら声をかけてくる。


「良い夜だな、シュラウド」


トラウドおじさんもいる。


たまに騒がしいなって思う時もあるけど、寂しくないし、安全だ。


「おいシュラウド、あんまり端っこの方へ行くな。落ちたら戻ってこられないぞ」


父さんだ。いつだって僕を心配している。


ありがたいことだけど、僕だって立派な男なんだ。子供扱いはやめてほしい。


「おいシュラウド! 何度言ったらわかるんだ! もっとこっちへ来い!」


「大丈夫だって父さん。ほんと、心配性なんだから」




ドン!




「おっとわりぃ」



それは突然の出来事だった


誰かがぶつかった


「シュラウド!!」


父さんが、おっかない顔で飛んでくる。



僕は驚いて口を開けたまま、世界のすべてがスローモーションに見えた。



「父さああああああああん!!」


僕の叫びが音になる頃には


僕が過ちに気づく頃には


すでに僕は雲じゃなくなっていた。

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