第10話
「えっと……ここが俺の部屋。まぁ、仕事中心の生活してたんで、ここへは寝る為に帰ってるようなものだから、あまり物はないんだ」
一晩かけて到着した我が家である。
あれから取り合えず当座の間、必要そうな物を近所のホームセンターで一通り買い揃えて戻った時にはもう日暮れになっていた。
部屋の中は当然だが、一昨日出たままの状態なのだが、元々あまり物を置かない主義である為、生活感は皆無である。
「そこ、適当に座ってくれ」
荷物を置くと、凪斗は思い出したように痛む左目を軽くおさえた。
そこはまだ眼帯が掛けられているのだが、時折鈍く痛む。
それに気づいた柚希羽がゆっくりと近寄って来た。
「まだ貴方の目は安定していない。だから外しちゃだめ」
「安定?どういう事だ……」
「その目を受け入れようと、今貴方の身体は必死に順応しようとしている最中なの。それもじきに良くなるはずだわ。だから今は無理に何か見ようとはしないで」
「………わかったよ」
解いてきかせるような口調に絆されるように凪斗は眼帯から手を離した。
しかし一体自分の目はどうなってしまったんだろう。
あれからずっと片目で生活しているしているだかだけに、もしかしたらこのまま一生見えなくなるのではという不安もあった。
しかし彼女の前で取り乱すような真似はしたくないので、素直に納得したように見せた。
思えば自分はいつもこういうところで見栄を張ってしまう。
ちょぴり自己嫌悪に陥りながらも、凪斗は軽く息を吐いてソファに座った。
「あ、そういや晩飯どうすっかなぁ」
その呟きに柚希羽が反応して立ち上がる。
「作る」
「いやいやいや、今日はいいって。下の箱にカップ麺の買い置きがあるから」
確かにここに来る途中で、柚希羽にねだられでキッチン用具と僅かな食材を買ってはいたのだが、今日はもうお互い疲れているはずだ。
しかし柚希羽はぶんぶんと首を振る。
「大丈夫」
「お……おぅ。そうかじゃあわかった。頼むわ」
「ん……」
短く頷くと柚希羽は今まで使われた形跡もないキッチンへ向かう。
その足取りは心なしかウキウキしているように見える。
「……はぁ。一体これからどうしたらいいのかなぁ」
ソファに座り、ふと眼帯に手をやる。
本当に色々な事があった帰郷になった。まさかあの流れで結婚してしまうとは思わなかった。
「つか、結婚ってこんな何も準備もなくていきなり出来るんだな……」
キッチンで何故か嬉しそうに料理を始めている柚希羽の後ろ姿を見て、凪斗はある事に気付いた。
「あ、そういえばスマホ電源入れんの忘れてた……」
あの怒涛の一件から今までスマホの存在を忘れていた。
慌て電源を入れた凪斗の表情が引き攣った。
「あ……何かもっとヤバイ事忘れてたかも」
スマホの画面にはずっと放置していたマリアからの心配するメールが異常なほど溜まっていた。
「………マジでどうすだよ。これ」
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