第9話
東京へ戻る長距離バスの中、凪斗は考えていた。
(ふぅ…。しかしいきなりこんな女の子を連れ帰っても、どうしていいのかさっぱり分からないぞ……)
急に決まった結婚だけに何も準備もしていない。
普通は結婚すると決めても、時間をかけて必要なものや手続きを済ませていくものだ。
ペットと暮らすのとはわけがわけが違う。
「どうかしたの?旦那さま」
「へ?あ……あぁ。いや別に…」
気付くと隣に座る柚希羽が心配そうにこちらを見ている。
「あ、そういやその「旦那さま」ってのはナシにしないか?」
「どうしてですか?旦那さまは旦那さまです」
淡々とした抑揚のない口調ではあるが、きちんと主張すべきところは主張するらしい。
そんな事に内心関心しながらも凪斗は首を振る。
「いや、そうだとしても。何かそう言われるとむず痒いんだよ。俺の事は凪斗と呼んでいいよ」
「凪斗……」
「ああ。それでいい」
十歳も年下の女の子に下の名前を呼び捨てで呼ばれる事は初めてなので、ちょっと呼ばれると胸がざわざわするが、きっとそれも慣れるだろう。
「で、柚希羽は学校とかどうするつもりだ?」
「学校?」
まるで初めて聞く単語のように彼女は不思議そうな顔をしている。
「な…何だよ。十七っていうなら高校生くらいだろ?」
「いえ、学校は行ってません」
「………行ってない?」
柚希羽はゆっくりと頷く。
「はい。戸隠の娘には必要ありませんから」
「……戸隠のおっちゃん、娘に何て教育してんだよ」
どうやら彼女は学校へは通っていないようだ。
「ふぅ…。これは俺が言えた事じゃないけど、学校へは行っておいた方がいい」
「それはどうしてですか?」
純粋な彼女の視線に耐えかねたように凪斗は髪をかき混ぜる。
「うーん。まぁ、お前くらいの年齢ってこれから先の人生を送る為の「基礎」になるようなものだ。例えそれが辛くてもその後の人生できっと何度もそれを思い出して力に出来る。ただぼんやりと時間を費やして過ごすよりもずっと得るものが多いと思うぜ」
「それは凪斗もですか?」
「…まぁな。クソみてぇな思い出ばっかだったけど、やっぱ楽しかったし、記憶には残る」
「………」
「まぁ、それは落ち着いてから考えようか。今はどうやって生活してくかが大事だ」
「はい…」
本当に大変な事になってしまった。
そろそろバスは東京駅に差し掛かろうとしていた。
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