第15話 亜龍は上品な甘さ






「くらえ!骸骨流妖狐拳!」

「なにそれ!?」


 良く分からない名前の、ただの右ストレートが巨大蛇の頭にクリーンヒットする。

 名前はともかく、効果は十分。

 脳震盪でも起こしたのか動きが一瞬止まった後、動作が前より少し鈍くなった。


「さあ、畳み掛けます!」


 動作が鈍くなり、さらに灰音の攻撃で弱った巨大蛇に追撃をする。

 しかし、攻めるチャンスなはずなのに、不安を感じる。

 理屈じゃないけど本能が、弱者の勘が危険を告げている。


「灰音、下がって!」」


 その勘を信じて灰音に指示を出す。

 追撃の手を止め一度下がる。

 すると、ふらついていた巨大蛇の体から炎がはえる。

 そう、はえたのだ。まるで体の一部のように動いている。

 体の一部というより、腕だ。蛇の体に炎の腕が生えている。

 さらに蛇は脱皮をすると、以前の傷が消えていた。

 脱皮後の体は前よりも刺々しく、蛇というよりドラゴンに見えた。


「これまた、面妖な……」

「これ……大丈夫?」

「むう……、また心配をかけてしまうのは不服ですが……多少の傷は負いますが負けはしません!

 それに、このままにしていると、この森が焼かれてしまいますからね」


 確かに巨大蛇の振るう炎の腕は、ブレスと同様森の木々を燃やしてしまう。

 ここで逃げた後、あの腕がなくなる保証はない。

 ならば、森をこれ以上燃やさないためにはここで倒すしかない。


「わかった、回復は任せて!

 今の妖力なら多分枯渇しないから!」


 といっても、もう初めの大蛇で増えた妖力はなくなり。残りの妖力も巨大蛇にあったときの半分ほどに減っていた。

 しかし、それを灰音にいう必要はない。

 僕ができるのは勝つのを信じて、回復するだけ。

 勝ちさえすれば、周囲を囲んでいた蛇と巨大蛇で十分プラスだ。


「終わりにしましょう!」

「ジュラアッ!」


 初めて巨大蛇がまともに叫び声をあげた。

 それは灰音に対する返事なのか、気合の雄たけびなのかはわからない。

 互いに腕を振るい、相手の体に傷を付ける。

 炎と骨かみ合わない二つの攻撃が交差する。

 防御などしない真っ向勝負のぶつかり合い。

 危険なのに、傷つくのに、僕にとっては何故だか羨ましい戦いだった。


「強くなれば、相手と向き合えるようになるのかな」


 今は弱くてもいつかは灰音のように……無理そうだなあ。

 現状完全に支援タイプだからね……






「ははは!その程度ですか!あまぁい!」

「ジュルオアッ!」


 やがて、互いの優劣がはっきりしてきた。

 多少の傷では一切ひるまない灰音。

 傷から流れる血によって弱っていく巨大蛇。

 さらに、灰音の体に日々ができれば即座に回復する。

 弱り動きの鈍くなってしまった者など、自然の中ではただの獲物だ。

 手負いの獣は危険だというが、既にその危険は乗り越えた。

 そして蛇の体が地に伏せ動かなくなる。

 勝敗は決した。


「うむ!お前は強かった!

 雪白様がいなかったら、もっと苦戦していただろう!

 誇れ蛇龍よ!」

「いちいちかっこいいね、灰音は」

「そ、そうですか!?

 普通に話しているつもりなのですが……」

「その話し方は好きだから、別に問題ないよ」


 それにしても、巨大蛇……マーダースネークマザーは本当に強かった。

 いつもは敵なんて蹂躙していた灰音をここまで傷つけるなんて。

 僕の妖力も三分の一まで減ってしまった。

 これは、食べて回復しないと危ないかな?


「どうやら、この巨大蛇が他の親みたいだね……」


 突然変異があふれていたのは、突然変異の親が生んだからだったのかな。

 他の奴が亜龍になってなくて助かったよ……






 それじゃあ、食事と行こうか!

 流石に数も多いし、サイズが大きすぎる奴もいるから洞穴に運ばずにその場で食べることにした。

 既に灰音は、焼き蛇を少し食べ満足したらしく周囲の警戒をしている。

 血のにおいに他の魔物が集まってこないとは限らない。流石にあんな怪獣決戦の後だから近くにもいないみたいだけど。

 しかし……多いなあ。食べきれないきがする。というか食べきるのに三日はかかる。絶対。


「魔石だけにするかな……もったいないけど……」


 流石にそこまでだらだらしていたら夜が明けてしまう。

 夜が明けても問題はないけど、疲れたから眠りたいし、すすで汚れたから水浴びにも行きたい。

 予定はいっぱいだ!二つしかないけど!

 魔石を蛇の体から取り出し、集めてみる。

 食べて掘り出す僕よりも、灰音のほうが効率よく抜き出してくれた。

 巨大蛇を抜いて、大中小入り混じって合計三十六個も集まった。

 《鑑定》してみようっと。


《マーダースネークの魔石

 マーダースネークの魔石。通常の魔石よりも大きい。》

《マーダースネークマザーの魔石

 マーダースネークマザーの魔石。亜龍に進化したマーダースネークの魔石。

 非常に上質で多量の魔力を含んでいる》


 進化してる!?前は亜龍になりかけだったのに……あの炎を出した段階で進化したのかな?

 でもおかげで魔石もいいものになったみたいだ。灰音に感謝だね。

 さてさて、あまりぼーっとしてないで食べてしまおう。

 まずは小さいのから……そして最後に、亜龍の魔石!

 歯ごたえは他の魔石と同じで、触れば硬いけど、噛めば簡単にくずれた。




 おいっしいいい!上品な甘さを感じる!

 蛇でドラゴンの魔石なのに甘い、不思議だ。


『規定の妖力に達しました。進化しますか?』


 え、進化!?進化できるの!?

 でも、今日はノー!眠いんだ!

 今日はこの後洞穴で眠って、その後水浴び!進化はその後だ!


「灰音!食事も終わったし帰ろう。

 あ、でも持っていける分は持って帰ろう。おきたときのご飯に!

 洞穴の前なら魔物もよってこないし、一日くらいならおいてて大丈夫でしょ」

「畏まりました。

 この蛇龍!引きずって帰ります!」

「いける……?」


 いくら灰音が力持ちでも20mはあるあの巨大蛇は厳しいんじゃないのかな……と、思っていたら頭を担ぎ引きずっていった。

 いけるんだ!


「すごい!灰音すごいね!」

「いやあー、あの蛇龍を倒してから前より元気になりました!」


 前に説明を聞いた妖怪のレベルアップのようなものかな?

 なんにせよ運べるんならラッキーだね。

 小さい奴よりも肉に含まれる妖力が多いだろうからね。


「それじゃあ、今度こそ帰宅だー!」





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