第14話 悔しさの味
「さて……どうやって、その巨大蛇を倒すか作戦会議をしよう」
「回復したので正面からボッコボコです!」
「それは流石に……一応初めてまともに、灰音が傷つけられた相手だから警戒しようよ」
「む……横から……殴る?」
「作戦会議しゅりょ-う!」
なんか灰音なら何とかなる気がしてきた。
それに、さっきの食事で回復した妖力を使えば怪我しても回復するし。
少なくとも撃退はできるだろう。
うん、無駄に作戦立てるより灰音の脳骨作戦のほうがいいかな。
「よし!行こうか!」
「今日は蛇尽くしですね!」
……やる気がへったよ。戦うのは灰音なんだけどさ。
うっそうと茂る森の中、蛇を警戒し二人並んで歩いていく。
しかし、洞穴の裏といってもその範囲は広く、なかなか見つけることができなかった。
「灰音ー、その巨大蛇ってどの辺で見たの?
とりあえずは、その周辺を探してみようよ。20mもあるんなら見つかりやすいだろうし」
「でしたら、私の頭の上で一緒に探しますか?
私より雪白様のほうが見つけられそうですし」
「ああ、そうだね。
じゃあ、乗せて。僕も一緒に探すよ」
「はい!」
隣を歩く灰音から手を差し出される。
僕はその手に乗って、灰音の頭の上から周囲を見渡した。
「………………………………」
そして、蛇と目が合う。
それはもう、恋に落ちてしまいそうなほどまっすぐに僕を見つめていた。
「違う!これ、また僕をエサだと思ってるよね!?
灰音!後ろ!」
くそう、巨大なくせに隠密能力高すぎだよ!
音なんて聞こえなかったぞ!
「はい!
……っ雪白様、私の頭の中に。しがみついて離れないように……!」
「離れたほうが……っ!解った!すぐ隠れる!」
囲まれてる!
巨大蛇と、目があった直後周りから潜んでいたであろう蛇たちが次々と現れた。
そのどれもが数m以上はある大蛇といって差し支えないサイズだった。
いやしかし……まいったね、あの巨大蛇が、僕と目が合った瞬間に鳴き声らしき音を出し、周りの蛇が僕らを囲む。
完全に統率の取れた動きだ、蛇というよりライオンとかオオカミを思わせる。
いまだ蛇たちは、一気に襲ってこず周りを囲んで逃げ場を削っていく。
だけど、おかげでうまいことしがみつける安全地帯につけた。
後は僕ががんばって灰音の動きに耐えるだけだ。
「灰音!ごめん待たせた!もう大丈夫!」
「では、お気をつけください!
この灰音、雪白様をお守りするため!全力で暴れます!」
宣言と同時に、周囲の蛇もこちらを襲ってくる。
だが、灰音にはその程度の攻撃は通らない。警戒するべきは、今もこちらの隙をうかがって動いていない巨大蛇だけ。
といっても、小物たちも僕にとっては脅威だし、巻き疲れると動きも阻害され危険だから近づいた蛇は根こそぎ灰音が潰している。
両腕で蛇を潰しながらも目線は巨大蛇からはずさない。
恐らく僕なんかよりも、あの巨大蛇の危険性は灰音の方が理解できているんだろう……。
僕にできるのは、状況を見て灰音の手助けをすることだけ。《鑑定》で、弱点でもわかればいいけど……
《マーダースネークマザー
マーダースネークの特異体。
本来の姿から、巨大に進化し亜龍になりかけている。》
《亜龍
下位のドラゴンの一種》
《ドラゴン
龍、竜などを指す。
固体ごとの強さが大きく、下位のドラゴンでも魔物全体で見れば強力な部類。
主に、ブレスや牙や爪での攻撃。上位の固体になると魔法を操る》
ドラゴン!?
……!確かに良く見れば頭のほうがわずかに角のようなでっぱりが見れるし、体も他の蛇よりとげとげしい。
灰音は、そんな情報を知らないはずだ……伝えないと!
「灰音!あれはドラゴン!
ブレスに注意!」
「ど……どら?ぶれ?」
あああ!通じてない!?
まさかの通じない言葉だなんて、えっとえっと!
「あれは龍の一種!恐らく炎とかの吐息を吐いてくるから気をつけっ!?」
意思疎通に手間取ってしまった隙に、ついに巨大蛇が動き出した。
口を大きく開け、口内が明るく……
「灰音!避けて!」
横っ飛びに灰音が動き、隠れていた僕もシェイクされる。
だが、それは正解だった。
僕らに攻撃していた蛇ごと、炎が一直線に先ほどいた場所を焼き尽くした。
森の中で火を吐くなんてなんて危険な!一刻も早く倒さないと!
「まさか蛇が火を噴くとは!雪白様!感謝です!
それと、幸運ですね……今の攻撃でほとんどの蛇が動けなくなっています……雪白様は、離れてください」
「っ……。解った……でも、怪我しないでね」
今のままでは足手まといにしかならない、蛇がいない以上安全な場所にいるのが一番の手だ。
でも……悔しいなあ。
灰音が、蛇を睨みながらも優しく僕を木の根元に下ろしてくれる。
そして、申し訳なさそうに呟く。
「怪我ですか……
申し訳ございません雪白様、その約束は少々難しいですね。
これから、無茶をするので!」
そのまま灰音は僕の返事を待たずに突っ込む。巨大蛇もブレスを吐き応戦してくる。
だが、灰音はよけることなくそのまま火の中を突破し、殴りかかる。
白い骨の体が、火に焼かれ灰に覆われ汚れていく。
牙で砕かれ、尾で殴られる。
巨大蛇はマザー、そして亜龍の名にふさわしい強さだった。
「なんで、そんな無茶を……!?」
そう、今の攻撃も普段なら避けられたはずだった。
なのに、避けようとしない。防御を捨て全力で攻撃のみに集中していた。
「ははは!そうだ!
もっと私を見ろ!
火を吐く隙などやらぬ!貴様の体で私を砕いてみろ!」
灰音の叫びが森に響く。
強引に突っ込んでいるのは火を吐かせないため?
「貴様などにこの森を焼かせるものか!
森を焼き、雪白様を傷つけたいのなら私を倒すんだな!」
ブレスで焼かれた森が目に入る。
……確かに、ブレスを吐かれたらあの火は雨か降るまで消えないだろう。
そして、僕もブレスが当たれば死んでしまうかもしれない。
そうか、灰音は僕たちのために無茶をしてるのか……なら僕はそれに答えよう。
意識を集中し、妖力を傷ついた彼女の回復にまわす。
砕けた骨が再生し、汚れた体も綺麗になっていく……って、体もきれいになるんだ。妖力すごい。
「雪白様……ありがとうございます!」
巨大蛇の顎に再生したばかりの右腕が振りぬかれる。
元気になった灰音と蛇の一騎打ち第二ラウンドってとこかな。
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