第13話 傷は苦い味






 結果、大蛇……マーダーサーペントの魔石はあたりだった。

 進化や召喚に届くことはなったけれど、トレントの魔石よりも妖力が増え、美味しかった。

 トレントといい大蛇といい魔石は美味しかった。さらに妖力もたまる。

 なんていうか、完全栄養食って感じだね。

 灰音が帰ってきたら、明日も狩りに行くことを伝えようかな。

 そう思いつつ蛇の肉を一生懸命かじっていると、洞穴の入り口のほうに灰音が立っていた。

 がしゃどくろの姿だし何故入らないのだろうか……?


「灰音、そんなところでどうしたの?」

「いえ……実は……」


 何かが起きたんだろうか……。

 灰音の雰囲気が出る前と違う。

 なんだろう、少し……気配が薄くなった。

 これは、確認するべきかな。


「何かあったの?」


 食事を止め、灰音の元へと歩いていく。

 僕が近づくほど灰音の挙動が怪しくなっている。




 ……ああ、態度がおかしいのはこういうことか。

 灰音の元へ行き見たものは。先ほど食べていたものよりも小さいが明らかに2mを軽く超えたマーダーサーペントが3匹。

 それと、後頭部が砕け穴が空いてしまった灰音の姿だった。


「灰音!それ!大丈夫!?」

「申し訳ございません……先ほど行ったところで狩りをしようとしたのですが……この蛇たちに出会い……

 油断して、こうなってしましました……

 ふがいないです……」

「でも……僕が見た奴は灰音に傷を付けられなかったじゃないか……

 それよりも小さいのに何で……」

「いえ、実はそれの倍ほどの奴がいまして……

 倒すにはいたらず取り逃がしてしまいました。

 傷も負い、さらに取り逃がすなど雪白様の眷属として何たる醜態!」


 ああ、態度がおかしいのはこれなんだね。

 僕に申し訳ないという気持ちでいっぱいなんだな。


「ねえ灰音」

「なんでしょうか……」


 うわ、思ったより落ち込んでいる。

 灰音の姿勢がもうなんか崩れてる。関節がぐらぐらしてるぞ……

 正直僕が思うのは怪我の心配だけなのに、灰音はきっとそれ以上の後ろめたさがあるんだろう。


「灰音……僕が思うことはたった一つだけだよ」

「それは私を捨てるということですかぁ?」

「ちがうって!

 僕はキミのことが心配なだけだよ!」

「心配……?」

「そう、キミは僕の眷属だ。

 僕にとって眷属はこの世界で唯一の家族なんだよ。

 家族が怪我したら誰だって心配するだろう?」


 僕の家族だった人は、僕が病気でも心配なんてしてくれなかったけどそんなものは関係ない。

 それが僕の家族としての考えだから。


「だから、僕が灰音が怪我したからって怒ることはないよ。

 無茶したりしたら怒るかもしれないけれどね」


 とっさに、頭の傷を隠そうとする灰音の姿に少し笑いがこぼれる。


「それに、灰音は僕の盾であり剣なんだろ?

 それを失っちゃったら僕は丸腰になっちゃうじゃないか。

 情けないけどさ……これからも僕を守ってよ」


 骨の体が回復するのかはわからない。

 けれど、僕は元気な灰音が好きだから何時も元気でいて欲しい。

 うずくまった灰音の体を上り、怪我した周辺をなでる。

 早くよくなるように願いを込めて。


「いたいのいたいのとんでいけってね」


 ガクッと力が抜ける感覚。

 その感覚に戸惑っていると、僕から抜け出た力が灰音の傷口に集まっていく。


「雪白……様?」


 その感覚に灰音も不思議な思いを抱いたのだろう。

 ふさぎこんでいた顔を上げ、僕のほうを見上げようとする。といっても、目はないので少し顔を上にあげただけなのだが。

 そして、灰音の傷は傷に集まった妖力と比例するようにふさがっていった。

 おお、これで理解できた気がする。

 昨日の湖での妖力減少はきっとこれと同じだ。

 傷を、ダメージを僕の妖力を使って回復させるんだ。


「おおおお!雪白様!穴がふさがりましたよ!?

 綺麗です!つるつるです!すべすべです!

 心なしか肌も綺麗に……って私肌ありませんね!」

「その骨ネタはもちネタなのかな……

 いやまあ、元気になってくれったんなら嬉しいんだけどさ」

「はい!

 傷がこんなにも早く治ったのも嬉しいのですが、雪白様心に響きました!

 そして……私は過っていました……私はあなた様の剣と盾、決して折れてはいけませんでした……

 ふふ、やはり私はまだまだ未熟ですね。

 雪白様……私も未熟の情けない身です。共に強くなりましょう」

「!」


 まさか、灰音からそんな言葉が聴けるなんて。

 正直びっくりした。

 でも、そうだね強くなりたいのは灰音も同じ……一緒にがんばるべきなんだ。


「そうだね……、それじゃあ疲れたしもう一度食事にしようか。

 灰音が狩ってきてくれた蛇もいることだしね」

「はい!」


 なんというか、骸骨の笑顔ってレアだな……






 妖力での回復、これがあれば即死と妖力枯渇じゃない限り不死身になれるってことだ。

 弱い僕にとっては朗報だ。

 しかし、いいことばっかりでもない。

 回復の効率は少し悪い……一匹目の大蛇で増えた妖力の約半分も持ってかれた。これがもっと大怪我だったらさらに増すだろう。

 ……進化に召喚、回復……妖力がどうやっても必要になってしまうな。

 今回は灰音の個人的な狩りのおかげで大幅に収支はプラスだけど……早いところ灰音が怪我しないようにサポートできるようにしないとな。


「雪白様!行ってまいります!」

「って、どこに!?もうよるだよ!」

「ええ、少し報復をしに!

 雪白様に傷を治していただきましたし、もう不覚は取りません!」


 どうやら、今日は長い夜になりそうだ。





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