第12話 蛇は血の味






「というわけで!今日こそ進化した僕がどう変わったのか調べてみよう!」


 可能ならもう一度進化して、強くなりたい。

 昨日は結局水浴びして、自分の謎が深まって、調味料が欲しくなっただけだった。

 今のところは尻尾が増えたことしかわからないし……もっと強くなりたいなあ。


「つまり雪白様が狩りをするのですね!」

「えっ……ああ、うん……




 無理かなあ……正直一回進化しただけじゃ、尻尾以外の変化がわからないんだよね」

「そうなのですか?」

「うん、進化してもまだまだ自分の事が理解できてないからね。

 何が変わったかも解らないんだ。

 灰音は自分の事ってわかる?」

「骨です!」

「それは知ってる!」

「脳もないです!」

「骨だもんね」

「ええ、骨ゆえに脳がなく物忘れなど多いのですが……

 それでも、己のことは本能で解ります。

 私は単純な妖怪ですが他の妖怪は変わった力を持つ妖怪もいますし……恐らく他の妖怪もそうなのではないでしょうか」

「ん、僕の進化も他の妖怪も次がないとわからないなあ」


 僕自身についても知りたいけれど、妖怪についても知りたいな。

 僕も妖怪だから、妖怪を知れば自分のことも解るかもしれないし。

 でも伝承とか知ってる限りじゃ全然別物の存在なきもするし……妖怪って摩訶不思議。

 んんんんんんんんん!駄目だ!考えてたって埒が明かないな!


「灰音!狩り!狩りに行こう!」

「かしこまりました!」


 灰音はシンプルでいいね、あんまり自分から話を切り出してはくれないけど、僕がいったら気持ちのいい返事をしてくれる。

 さて、おとといは崖に行ってその後りんご狩り。昨日は湖で水浴び……遊んでるようにしか聞こえない。

 いや、僕は戦えないから遊んでると同義だけど。

 でも!強くなるから!そしたら灰音を守れるくらい……なれるのかなあ?


「それじゃあ、今までいってない方向に行こうか。

 この洞穴の裏の方とかね」

「美味しいものが多いといいですね!」

「魔物がいるといいな。魔石は食べると強くなりやすいし」


 向かうは未知の地。美味しいものを求めて。

 うん、強くなることがメインだけど、食べ物も大事。

 灰音も基本人型だから必要じゃないけど食事するし、調味料があるといいなー。






「あああああああああああああああああああああああああ!

 もういやだって、いったじゃんかあ!」


 洞穴の裏に行き、しばらくすると木々の奥から何かがはいずるような音が聞こえた。

 いやな予感がして振り向けば、そこには巨大な蛇。

 目が合えば完全に僕を獲物としてターゲットとして見ていた。

 なんで、なんで僕はこうミミズやら巨大ミミズやら蛇だとにょろにょろしたやつにしかあえないんだ!

 考えればトレントも根っことかにょろにょろ動かしてたし!

 しかしこの蛇でかい!たぶん10mはある……灰音より大きい、何の蛇なんだろう……


《大蛇

 なにこれ、はじめて見たよ。でかいね!》


 桜!この《鑑定》は酷い!酷すぎる!

 せめて、もう少し情報を!

 自分の事がわからないんだから、敵のことくらい知りたいじゃないかー!


「灰音ー!灰音ー!」

「こいつが今日の獲物ですね!」


 灰音は蛇を見て生き生きとしているが……あいにく最近のにょろにょろラッシュでダメージを負った僕は蛇を見ていたくない。


「お願い!早く倒してー!

 この蛇めちゃくちゃ僕を見てる!完全にエサとして見てるよ!」

「おのれ!雪白様を食べるなんて!

 うらやま……許さんぞ!

 この灰音が食物連鎖を教えてやる!」

「灰音!?」


 え、うらやましいって。え?

 いや、うん聞き間違いだよな……

 今も灰音が全力で蛇殴ってるし、舌でも噛んだんだろう。舌ないけど。

 灰音の拳が蛇の鱗を削っていく。

 蛇も負けてはいない、今までの魔物やミミズよりもはるかに強いみたいだ。灰音とかなり渡り合っている。

 しかし、灰音の攻撃は徐々に蛇の体を削り、蛇の攻撃は灰音の体を傷つけられていない。

 万が一絞め付けられたりでもしたら危ないかもしれないけど、灰音はそんなミスはしないだろう。

 僕?僕は離れた場所で灰音が吹き飛ばした鱗をかじっている。

 いがいとぱりぱりしておいしい、塩をかけてスナック感覚で食べたいね。


「うっわ……これどっちの攻撃があたっても死ぬね……」


 もう音がすごい、ドンとかズドンとかゴリィとか……恐ろしい。

 僕も強くなったらあんな戦いをするんだろうか……怖いな。




 いやいやいや!強くなるんだ!

 この世界で何が起きても死なないように!また桜に会うためにも!


 ズドン!ドシャアアアアア!


「わっひょう!?」


 空にガッツポーズを決めた直後、灰音が吹き飛ばした蛇の体が僕の横スレスレをすごい勢いで通り過ぎて行った。

 あっぶない、強くなると決心した瞬間死んでしまうところだった。

 僕は弱いんだからもう少し回りに注意しないと……


「ゆ、雪白様!申し訳ございませえええええん!」

「いや、今回も無事だから。毎回毎回あやまらなくていいんだよ。

 僕はキミのおかげで今進化もできてるんだからさ。」

「雪白ざまああああ!」

「ちょっ、危ないからその勢いで近づかないで!それは危ない!

 そうだ!灰音!蛇は!蛇は大丈夫なの!?」


 もうピクリとも動かない蛇を見れば倒したのは間違いないのだが、気をそらすために話を振ってみる。


「ばいねはいっじょうゆぎじろざまにづいでいぎまずうううう!(灰音は一生雪白様に着いていきますうううう!)」

「全然気がそらせてない!?

 てかその骨の姿で泣けるの!?」


 涙は出てないけど、完全に泣き声だ。


「心が感激で泣いております!」

「あ、そうなんだ……。

 じゃあ、あの蛇もって帰らない?

 流石にあのサイズじゃあ、この場で食べるのもきついし……」

「はい!」


 まるで鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌の灰音に蛇を引きずってもらい、何とか蛇を洞穴に持ち帰ることができた。

 道中いくつもの木々をへし折ってしまったけど、まあ仕方ないだろう。






「さあ、蛇の実食です!」


 灰音も人型になり、蛇からちぎった塊を持っている。

 火もないので生食なのだが、結局何も解らなかったので仕方がない。

 きっと進化すれば狐火とか出せるようになるはずだ。


「うん、こうやって色々食べていけば進化できるだろうしね。

 それじゃあ灰音」

「「いただきます」」




 灰音は一塊だけだが、僕は10mほどもある大蛇丸々一匹だ。

 食べれば妖力に変わるので限界はないのだが時間はかかる。

 すぐに食べ終わった灰音はさらに狩りに行くといって、外に出て行った。


「流石に飽きる……せめて塩が欲しいな……」


 愚痴りつつ、ひとりかじっていると、僕の頭ほどの大きさの石にぶつかった。


「痛い……なにこれ、骨?」


 なんとなく蛇の中をかじって進んでいたので視界が悪くはっきりとは解らない。

 これは《鑑定》してみるか……


《大蛇の魔石

 大蛇の魔石。状態も良く大きいので価値が高い。

 内包されている魔力も良質である。


 とりあえずこの蛇は、聞いてみたらマーダーサ-ペントって言うらしいよ。

 本来は2m程度の凶暴な蛇なんだけど突然変異って奴かな!

 獲物と決めたら殺すまでしつこい蛇だから気をつけてね!

 by桜》


 本当になんだこの《鑑定》は!

 桜!もう会わなくても問題ないんじゃないかな!





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