第11話 魚はまあ……しかたないね
きた!進化!
前にもこの声が聞こえてきたけど、灰音の召喚を優先させてたからね。
ふふふ、これで進化したらもしかしたら灰音くらい強くなれるかな。
進化!進化します!最強いえーい!
『了承。進化を行います』
テレレ テッテッテー!
ああうん、ちょっと進化にテンションが上がりすぎてるね。クールクール。
……進化してる?
何も変わった感じがしない。
進化の際の謎の発光も、わきあがる力やオーラも何もなかった。
「不発?」
「何がです?」
変化のなさが不安になり呟きがもれてしまう。
「んん、ちょっとね……。
そうだ、灰音。僕を見て何か変わったりしてない?」
「もふもふがもふもふになってます!」
「???」
わけが解らない。
もふもふがもふもふって同じじゃないの?
いや灰音の中ではきっと違いがあって言ったんだ。きっとそうだ。
これが毛並みの話だったら泣く。進化したのが毛並みだなんてそれは辛い。
「えっと、なにがもふもふ……?」
「尻尾です!」
「尻尾?」
「はい!尻尾がもふもふに!」
「狐だからもともともふもふ……ってそういうことね」
自分の尻尾を見れば、もふもふがもふもふもふに……尻尾が一本から二本に増えていた。
……って、それだけ!?
いやいやいや、それはない……僕は妖狐、妖狐といえば三大妖怪の一人、白面金毛九尾の狐だ。
他にも、伝承や物語には妖狐のすごい狐が沢山いる。
特に九尾といったら一番メジャーといっても差支えがないはず。
ならば!今一から二へと増えたということは、進化が今後もあれば九尾になるのも夢ではない!
……そう思いたい。思わないとやってられない。
「うん、とりあえず尻尾が増えたのはわかった。
それ以外にも何か違いはあるのかな?」
たとえば、変身できたり分身できたりとか……うん、できない!
進化したにもかかわらず、ただ尻尾が増えただけという現実に僕は1時間ほど桜の祠をかじり続けた。
泣いていない、桜のせいではないのに桜への恨みへと悲しみを変換したのだ。
耳に付けたイヤリングから最近聞いた女の子のような声で文句が聞こえたような気がした。ごめん桜。
それに、ずっと心配そうに見守ってくれた灰音もごめんね。
「落ち込んでも、いられないね……。
尻尾が増えたんならこのままどんどん増えて強くなれるかも知れないし。
灰音!狩り行こう狩り!」
「かしこまりました!どこ行きますか!
昨日の木ですか?あの実は美味しかったですからねえ……食べることが必要ない体ですが、人の体だと食事ができてよいですからな!」
「それもいいけど……今日は湖のほうに行ってみようよ、魚もいるかもしれないからね」
それにあの桜の御神木(仮)にミミズを備えないとね……くくく。
「そういえば、最近泥などで汚れましたし水浴びもしたいですね!」
「あっそういえばそうだね」
おお、初めて自力でお風呂に入ることになるのか……寝たきりだったし、今は狐だから水浴びなんて考えてなかったよ。
そう考えると、ダニとかノミとかって僕の体大丈夫かな……
「水浴び行こう!すぐ!今すぐ!」
ついているか解らないけれど、意識してしまったらなんだか体がかゆくなってしまった。
はやいところさっぱりしたい。
ミミズなんてどうでもいいや、もう。
「ひゃっほーい!」
ザプドパン!
僕が飛び込んだ直後に、灰音が飛び込み僕ごと湖に大きな波を立てる。
スカスカの骨の姿といえど、およそ4m僕を押し流すには十分な大きさだ。
「ああああああああ!」
お!ぼ!れ!る!
……あれ、かなり湖の真ん中のほうまで流されさらに沈んでしまったのに全然苦しくない?
「ごぼ?ごぼごぼ?」
水中だと全然しゃべれないな。
もしかして妖怪だから問題ないのかな?
空気がいらないとか?でも息はしている感覚はあるんだけれど……
「雪白様ー!どこにいますか!?
はっ、まさか魚に食べられ……おのれ魚め!」
自分の体について考えていると、灰音がヒートアップしていた。
きっと僕を流してしまったのを気にしたんだろう。
はやく元気な姿を見せないと、このままだと湖の魚を駆逐しそうだ。
少しなら食事用に捕まえてもいいけど……調味料が欲しいな。
急いで沈んだ体を動かし浮上していく。
「っ!?」
ふいに自分の体の仲から抜けていく感覚に気づいた。
以前にも感じたことのある感覚……妖力を消費する感覚。
なんでだ?
とりあえず急いで灰音のところに行こう、もしかしたら攻撃されているかもしれない。
「ぷはっ灰音、僕はここだよ」
呼吸のできる場所に戻ると、妖力の流れが止まった。
なんでだ?結局周りを見渡しても。僕を見つけて嬉しそうにすごい勢いで来る灰音とあたりを泳いでいる魚ぐらいだ。
「雪白様!申し訳ございませんんんん!大きさの差を忘れていました!
ああ!骨ゆえの物忘れの激しさが恨めしい!雪白様を危険にさらしてしまうなど!」
「別にきけんなんて……」
いや、妖力が減ったのは危険か?なくなったら死んじゃうし、進化で消費したから残りが少ないから危ないし。
そんな考えに気づいたのか、さらに灰音があせりだす。
「ああああああ!やはり!やはり灰音は駄目なのですね!
せめて脳があれば……!」
「そういう問題じゃないと思うけど……」
たぶん灰音に脳があっても同じミスはしそうだ。
時々大人っぽい雰囲気もあるんだけれど、いかんせん元気すぎるというかいちいちおばかというか……
「じゃあ、普段は小さくなってれば?
食事もできるって喜んでたじゃない」
「さすが!名案です!」
返事後すぐさま灰音の体が人の姿に代わる。
「……!」
これは、なんと言うか……
エロい……
「?
何か変でしょうか?」
「い……、いやなんでもないよ」
灰音の姿は黒い着流しの着物だ、生地は薄めなせいで張り付いた服が灰音のスタイルのいい体を強調している。
……やっぱり、巨乳ってすごい。
何がとは言わないけれど浮いている。
その後僕らは、無言になってしまった僕と、失敗したと感じてわたわたしている灰音の二人で水浴びをして帰った。
魚を幾匹か捕まえて食べたけど、やはり調味料なしでは味気なかった。
灰音も生臭いのは苦手らしい……妖怪ってそういうの平気なイメージだったよ、個人差があるのかな。
しかし、あの妖力の減少はなんだったんだろう……それに、進化して増えた尻尾と、きっと恐らくたぶん……頼むから強くなったであろう能力も知りたいなあ。
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