第10話 この石安心する味
僕たちが崖上から見つけ、向かった先は遠目からでもわかる、大きな赤い実をたわわに実らせた木々の生えた場所だった。
赤い木の実といえば……りんご!
妖力は増えないかもしれないが、甘いものが食べたい!甘くなくても美味しいならいい!
幸い僕の体は食べるのなら毒は効かない、無敵の胃袋だ。
許容量的に胃袋というよりブラックホールだけれども。
そんな場所に、少々魔物の警戒をしながら入ってみると……
「《鑑定》っと」
《トラップトレント
樹木型の魔物トレントの亜種。赤い木の実は麻痺の効果があり、麻痺毒の材料になるらしいよ。
あ、でも食べたら美味しかったよ。しびれるけど。
by桜》
ついに完全に感想になった!?
って、それよりも魔物!ミミズは魔物とかかれてなかったからただの虫なんだろうけど……
つまり、このトラップトレントという木は初めての魔物だ……戦うべきなのか?
戦うべきか、木の実を諦めて退散するべきか。
そんなことを考えていると、突然足元が動き出した。
どんどん高さが上がっていき、思わず伏せの姿勢をとる。
「灰音!?何で急に変化を?」
「あれを狩れば、木の実に魔物!
雪白様の食事が沢山増えますね!」
「そうだけどさ……」
周りを見渡せば、トラップトレントの群生地なのか5~6体もいる。
強さも不明なのだから、せめて様子見ぐらいしないと……
「灰音!」
「なんでしょうか!」
そう叫んだ瞬間。一体めのトレントがへし折られた。
「あ……うんなんでもないや。がんばってね。」
「はい!こいつら動きが遅いので楽勝です!
ですので雪白様は、今倒した魔物で食事をしていてください!
その間に残りを殲滅します!」
「りょーかーい」
灰音の背骨をつたっており、骨盤から大腿骨へと滑り降りる。
なんだかアトラクションみたいで楽しい。
少し離れた場所へ投げられたトレントの死体に近づいていく。
後ろでは怪獣大決戦が起きていた。
灰音はおよそ4mトレンとは平均3mほど。灰音よりは小さいとはいえ、十分大きい。
どちらかの攻撃があたっただけでお陀仏だろう。
できるだけ流れ弾などがこないよう、トレントの裏に隠れ、食事を開始する。
「まずはこの木の実……」
《トレントアップル
誰が名づけたかは不明。でも見た目は細長いりんご。
味は甘くて美味しいのだが、麻痺毒が含まれており食用には適さない。》
「りんごじゃん」
……麻痺毒。胃袋が無敵でも毒を食べるのは勇気がいる、けれど……ここ最近ミミズしか食べていない僕には我慢するという選択肢もない!
「いただきます!」
カプッ
「おおおおおいっしいいいい!」
おいしい!最高!今まで生きてて一番美味しく感じるよお!
生誕一ヶ月とちょっと、初めてまともな甘味に僕の心は暴走してしまった。
貪るように木になっているトレントアップルを、もいでは食べもいでは食べつくした。種や芯すら残さずに。
「ああ、満腹じゃないけど満足感……!」
妖力も、ほんの少し増えたので、食事としては素晴らしいものだろう。
ちらりと灰音のほうを見ると、なぜか10体ほどに増えたトレントとの戦闘中だった。足元にはさらに4体のトレントが転がっている。
うん、余裕そうだ。
「そっうなるとー」
甘味を食べ、上機嫌に残った木の部分を調べてみる。
なんてったって魔物だ、虫よりも食べた場合の妖力上昇は大きいだろう。
でも、
「木はさすがにむりだよねえ」
消化は可能。
しかし、飲み込むまでが厳しい。味覚は普通だし、あごもそんなに強くない。流石に木を食べるのは難しいぞ。
一応かじってみる。
ガジガジ
「木……だね」
それ以上でも以下でもない。これは完全に食べるものではない。何せ硬い。木を丸々一本食べるなんて不可能だ。
それに、増えた妖力の感じもミミズと比べてあまり変わらない。これならミミズのほうがましかな。
幹を食べるのを諦め、葉の苦さに悪戦苦闘し、りんごで口直しをしていると幹で何かが反射した。
「なに……?もしかして目とか?」
目なら柔らかくて食べられるかな?ぐろくて食べたくないけれど。
反射した場所は、灰音がへし折って幹の中が露出している部分。
そこには、暗い紫色の何かが埋まっていた。
「木……じゃないね。なんだこれ」
触った感じはすべすべ。匂いは無し、味……感じる力は少ないけれど、桜からもらった花びらと同じような感覚だ。
って、そんな調べ方しなくても、この雑な《鑑定》をすればある程度わかるじゃん。
《トリックトレントの魔石
ひび割れ内包された魔力がもれ出ているため、品質は低い》
《魔石
魔物の体内に形成される石。魔物の核である。
魔力が凝縮されており、様々な道具に利用されている》
魔石!これが魔物と生物を分ける差なのか!
そして魔力……おそらく魔力が多ければ多いほど、僕の妖力が増える。
確かめるには、食べるしかないよね。
石って書いてあるけど、食べるしかない!
埋まった魔石を全力で掘り出し咥える。
大きさとしては、ピンポンだまくらいかな?体のサイズに比べたら小さい。
でも、食べやすさとしてはちょうどいいかも。
カリッ
魔石は手で触れたときは硬いただの石だったのに、口に含むとまるで飴玉のようだった。
噛めば砕け、舐めるだけでも吸収されていくのがわかる。
味も、なんといえばいいのか……安心する味だ。
ああ……これだ、これを沢山手に入れれば僕は強くなれる。
全てを飲み込み解ったことは、魔石はミミズなんかよりもはるかに効率がいい。
サイズではりんごより小さいのに、増えた妖力は上だ。
それどころか、巨大なミミズ丸々一匹よりも、ピンポンだまサイズの魔石の方が上だった。
これは、ひび割れてなかったらもっと妖力が増すのでは?
「灰音!
今戦ってるトレント……できるだけ中心部の攻撃は避けて。お願い!」
今食べたトレントの魔石の位置を目安に指示を出す。
残っているトレントはもう5体だが問題ないだろう。
「承知!」
灰音の拳がトレントの上側を穿つ。それが五連続。
僕から指示を受けた灰音はあっという間に殲滅を終えた。
「終わりました!
どうでしたか雪白様!美味しかったですか?」
「うん、最高だった」
これは、帰ったら魔物の説明をしないといけないな。
今後の戦いで、魔石を砕いてばかりだと効率が悪いからね。
「それでお願いがあるんだけど……そこのトレントの幹の中に紫色の石があるでしょ?
それが他のトレントにもあるはずだから、抜き取るのをやって欲しいんだ。
僕だと力が弱くて難しくてね」
「この石ですか……?
なるほど、確かに力を感じます。きっと雪白様には必要なものでしょう。
すぐに取ってまいります!」
灰音がすぐさま、倒れているトレントの幹に手刀を突き刺し魔石を掘り出していく。
少々雑だが仕方がない。何せ道具がないのだから。
人里にでもいってナイフを買うべきかな。
灰音が魔石を集めている間、僕はりんごを集める作業に没頭していた。
りんごも妖力が増えるし、美味しい。放置するには惜しいものだ。
魔石とりんごを集め終え、これ以上敵が集まっても困るので洞穴に帰ることにした。
袋がないので、灰音の手の上に大きな葉っぱを敷いて、その上にりんごと魔石を乗せて運ぶという雑な方法でだが。
いやあ、やはり道具が欲しいね。
洞穴に着けば、後は食事の時間だ。今回は灰音も人化した姿でりんごをかじっている。少ししびれるのがツボみたいだ。
僕のほうは、全部で24個の魔石。それを全て平らげていく。
体に妖力が満ちていくのが解る。
そして、天の声が響いた。
『規定の妖力に達しました。妖力を使い自身の進化を行いますか?』
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