第9話 もうミミズはいいでしょうに






「復活!」


 大量のミミズを食べる精神ダメージからようやく回復し、立ち上がる。

 僕がダウンしている間灰音は、僕の側で待機していた、していたのだが今はがしゃどくろの姿。

 大きいのだ、いつ潰されてしまうかハラハラし心なしか復活が遅れてしまった気がする。


「元気になられたのですね!さあ!何をいたしましょうか!」


 灰音がその巨体を揺らしさらに近づいてくる。

 ううむ、早く強くならないと……ずっと灰音のサイズにおびえるのは申し訳ないし疲れる。


「待たせてごめんね。

 予定通り、ここから周りを見て何があるかできるだけ確認しよう。

 それで、面白そうなことがあったらそこに行こう」

「面白いこと……ミミズですか?」

「ミミズ禁止!」


 マジで、ミミズや蛇とかじゃなくて美味しいものがほしい。

 しかもミミズは大きい割りにあんまり妖力が増えた感覚がしない。

 多少は増えるから、食べるけどその分精神力が削れるから気分的にはマイナスだ。


「さてさて、どんなものがあるかな」


 せめて、森の果てとか木の実のなってる木が見つかると良いな。

 人里は気になるけれど、現在は人化のできない妖怪だ。人化のできる灰音はともかく僕は危険かもしれない。

 人間から脅威に認識されなくてペット枠でも大丈夫な気がするけど……ペット扱いは灰音が怒りそうだからね。

 人里には人化を覚えてからかな。

 僕は、灰音の頭に乗り辺りを見回す。


「うわぁ……」


 目の入ったのは一面の大森林。

 見える範囲は全て森、そして山々に囲まれていた。地形としては盆地だろうか。

 少し先には大きな滝も見える。あそこには今度行ってみようと心のメモに記録する。

 それにしても……


「綺麗だ……」


 病院の窓からは決して見えなかった大自然。

 いや、下手したら日本でもそうそうみられる景色じゃないだろう。

 鼻腔をくすぐる緑の香り。今までも、ずっと嗅いでいたはずなのに、改めて意識するととても新鮮に感じる。

 澄み渡る青い空、美しい木々。図鑑でも見たことのない異世界の植物にあふれている。

 桜がこの森に遊びに着ていた理由がなんとなくわかった。ここはとても美しい。

 さらに盆地なおかげか、人に荒らされた形跡もない。人と関わるべきではない神の別荘地にはぴったりだろう。


「あそこの丘が、僕らの住んでいる洞穴のある場所か……」


 周りには今まで何故気づけなかったか悲しくなってしまうほど近くに湖があり、さらにその周辺には恐らくだが桜の木らしき巨木が生えていた。

 あの木は桜の御神木か何かなのだろう。後でミミズを備えようと心に決めた。

 決して嫌がらせなどではない、感謝の気持ちだ……決して、決して《鑑定》のスキルがいまいちだった恨みなどではない。


「雪白様……綺麗な景色ですね!

 私のような骨の身でもこの景色は美しいと思います」

「だねえ、ここに生まれてよかったよ。

 なんだか、この景色を見ていると心も落ち着くしね……」


 そう、心が落ち着くのだ。

 今まではたった一人この地に生まれて、必死に生きてきた。

 途中で桜に出会い助けられ。今は灰音に助けられている。

 それでもきっと不安があったんだろう。

 僕は転生者だ、この世界には異物かもしれない不安。生きているかという恐怖。

 いろんなものが少しずつ僕の心を締め付けていたんだろう。

 でも……


「もう、不安はないよね」

「何か?」

「なんでもないよ。

 ここは綺麗だね。またたまに来ようか」

「はい!」


 今は桜がくれたアイテムがある。僕を信頼してくれる灰音がいる。

 そんな状況で何を不安になるんだ。

 僕はこの世界で生きていく。この世界で生まれた妖怪だ。

 強くなって見せる。神に会うことができるように。

 僕はこの景色を心に納め、この場を離れることにした。

 最後に目に入った場所に行くために。


「それじゃあ、行こうか灰音」

「行き先が決まったのですね!

 行きましょう!しっかり捕まってくださいね!はしります!」

「えっちょ……灰音の頭につかむ場所ないからほどほどにおねがいね!」


 人化してるなら服とか髪の毛があるけれど、骨の姿だとつかめる場所がない!






 灰音の体が木々を通り抜けてゆく。

 今は僕の乗り心地のためと、木々の隙間を走るために人の姿だ。

 以前は何があるか見通すため、大きながしゃどくろの姿だったが、今は目的地がある。

 だから別に人の姿でも、多分問題はない。いざというときは大きくなればいいのだ。


「ねえ灰音……」

「なんでしょうか?乗り心地が悪かったですか?

 ま、まさか私の髪の毛ですか!?問題があったらすぐ消します!」


 僕の声を聞いた、灰音がとんでもないことを言う。

 こんなに綺麗でさらさらの髪をなくすなんてとんでもない!

 灰音の髪は、名のとおり灰色なのだが、決め細やかで艶やかだ。更には、日の光を浴びれば銀色にも輝いて見える。


「いやいや、そんなことはしなくて良いよ。灰音の髪はとっても綺麗だからね、触ってて気持ちが良いよ」


 灰音のほほが朱に染まる。


「雪白様にそういわれると嬉しいです!

 ええ!すぐに雪白様が進化できるよう獲物を狩って見せますとも!」

「さすが灰音、ありがとね」


 っと、そんなことを言いたいわけじゃなかった。

 言いたいのは別のことだ。

 純粋に伝えておきたいことだ。


「灰音、僕の目的は前に行ったよね」

「はい、聞いております」

「うん、それと同じようなことなんだけど行っておきたくてね。

 僕はこの世界でめいいっぱい自由に生きていく。

 それこそ正義や悪なんて関係がない、僕の生きたいように生きていくよ。

 そしてこの世界を旅するんだ。

 灰音はついてきてくれる?」

「もちろんです!どこまででもついていきますとも!」


 灰音の力強い返事に思わず苦笑する。


「まずは、この森で沢山遊んで、強くなってからだけどね。

 それにもっと眷属家族もふえるといいなあ」

「家族!……この灰音感激であります!」

「ふふ……ああ、そろそろ目的地だね。少し気をつけて歩こうか」

「畏まりました!

 雪白様、何かありましたらすぐにおっしゃってくださいね」


 僕たちは、始めての場に足を踏み入れていく。






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