第8話 ミミズはヤバイ






 灰音と和解というか、会議というか……最後はぐだぐだになってしまった話し合いの次の日、僕らはまた洞穴の外に出ていた。

 昨日は単純に外の偵察。灰音がどの程度周辺の敵と戦えるか、それを知るためだった。

 しかし、今日はちょっと違う。

 もちろん食事もあるので戦うのだが、純粋に二人で拠点である洞穴の周りを見てみようということになったのだ。

 昨日の探索では、深い木々の中周りの状況はあまりわからなかった。

 知ったことといえば、灰音は結構強いこと、僕がめちゃくちゃ弱いことだ。


「灰音、あそこのガケ上れる?」

「容易く」

「ん、じゃあお願いね」

「畏まりました!」


 がさやどくろの姿になった灰音の上に乗った僕は、少し先にある小高い丘のガケを登ってもらう。

 丘は、周りより高く上ればある程度は周りが見られそうだった。

 灰音が、ガケを上る間、ふと朝のことを思い出した。












「雪白様!今日はどうしましょうか!

 狩りですか!昨日よりも大きいミミズを捕まえて見せましょう!

 それとも、住まいを探しましょうか?雪白様は洞窟よりも大きな社などに住むべきですからね!

 ちょっと探して、もらってきます!」


 朝、目を覚ますと、人化した灰音が飛びついてきた。

 人化した灰音は、がしゃどくろの姿と比べて大きさはないが力は普通にある。

 よって、飛びつかれた僕は多大なダメージを負うわけだ……ゴフッ

 なんだか、お互い腹を割って話したせいか……ものすごくなつかれた。


「いや、まだ何するか決めてないけど……社はいらないかなあ」


 僕は灰音をゆっくりと押しのけて、対面に座らせ答える。  

 少しだけ寂しそうな顔をされたが、ずっと灰音に潰されていたらこっちが死んでしまう。

 この洞窟より安全な場所は少ないだろう。ここは神様に守られている場所だからね。


「そしてミミズはもっと要らない。絶対いらない、断固いらない」


 灰音が来てくれて、活動範囲が増えるんなら美味しいものが食べたい……

 せめて、ミミズ以外。


「そうだ」

「おお!何か決まりましたか!

 雪白様のためならこの灰音!どんな敵でも打ち砕きましょう!」

「そんな覚悟はいらないかなー。

 今日は散歩しよう散歩」

「散歩、ですか?」


 灰音がポニーテールを揺らし首をかしげる。

 あっ、なんだかその髪先を追いかけたくなってしまった。

 これは動物の本能が出ているのか、それとも単純に灰音の髪が綺麗だったから目で追いかけてしまったのか。

 前者ではないことを祈りたいね。


「まあ、散歩といっても気楽ではないかな。

 この周りの安全性も解らないし、昨日は僕のせいですぐに撤退してしまったからね。

 だから今日は散歩をして回りがどうなってるかを調べよう。

 周りに何があって、何がいるのか。この洞穴にしばらく滞在したいからそれくらい知っておかないとね」

「なるほど!情報を集めるのですね!さすが雪白様!」

「や、そこまでよいしょしないで……ちょおと、恥ずかしくなってくる。

 そのついでに、勝てそうな相手を狩ってほしい。

 今のままじゃあ、僕が弱すぎて迷惑だからね」


 自嘲気味に、最後に呟くと灰音がすぐさま僕を抱き上げてきた。


「そんなことありません!

 この灰音、雪白様がなんであろうとも仕えると昨日決めました!

 ですから迷惑など、ありえません!」


 灰音の忠誠心はとてもまっすぐだ。

 きっと昨日の夜の誓い……僕の眷属として生きるということは、違えられる事はないだろう。

 でも……


「それじゃあ、だめなんだ」

「?」

「うん、だめなんだ。たとえ灰音が許してくれても、僕が許せない。

 せめて、一緒に狩りができるように、背中を合わせて戦えるようになりたい」


 そのためには、食べて進化強くならなきゃいけない。


「だから、一緒に外に言ってくれないかな?

 散歩のついでに狩る程度で良いからさ」


 せっかくの眷属家族だ、たよったり、頼られたりされたいじゃあないか。

 新しい狐生?妖生?解らないけれど、後悔しないで生きていくんだ。 

 そう考えて、言葉をつむぐと僕を抱き上げている灰音の腕が小刻みに揺れていた。

 あ、まずい気がする。


「もちろんです!なんならこの森全て根絶やしにして雪白様にささげますううううううう!」


 テンションが上がりきった、灰音の握力が徐々に増していく。

 僕の弱い体では、万力に絞められてるかのごとくだ。


「だkら!散歩!て、いど……ああ、つぶれるううううう!」


 う、中身が出る……












 朝は大変だった……

 まあ、そんなわけで散歩がてら周りの調査でガケを上ったわけだけど……


《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》

《ビッグオリガキータ

 巨大なミミズ。とにかく巨大である》


「雪白様!大量です!

 やりましたね!」

「いやだああああああ!」


 僕らは巨大ミミズの群れと戦闘していた。






「いやあー、いい戦いでした!」

「……」


 灰音は戦いの後で、すがすがしい空気をかもし出しているが逆に僕は疲労困憊だ。

 僕自身は戦ってないのだが、灰音から離れたミミズに襲われかけたり、灰音自身の攻撃がかすったり結構ぎりぎりだった。

 灰音が結構大雑把なせいで危うく死に掛けた。

 それが肉体的な疲労。

 そして僕はこの大量のミミズを食べないといけない。

 食べないという選択肢は僕にはない。

 幸いなのか解らないけれど、僕の胃袋はほぼ上限がない。いくらでも食べられる。

 ミミズを食べて満腹で食べられないということはないだろう……でもいやだ、まずいし。

 この精神的な疲労、二つの疲労でもう泣きたくなってきた。


「でも、たべないとねえ」


 強くなるには食べないといけない。体を鍛えることもできないほど貧弱な体じゃあ、これから先命がいくつあっても足りない。

 それに、灰音の褒めてもらいたいオーラを裏切れない。


「ごくり……」


 覚悟を決めろ!

 僕は男だ!

 食べきってやる!






 無事ミミズを食べきった僕だが……


「休憩……させて……」


 まだ量は食べられるが、精神が死にしばらく動くことができなくなってしまった。

 ああ、この周辺の調査が全然できない……





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