第7話 縁は食べられない






 二人しかいない洞穴が少し広く感じる。

 僕と灰音は話が長くなるため、近くの岩に向かい合って座る。

 しかし、本当に難しい質問だ。

 大体何者かなんて、僕自身まだわかっていないから、答えられない。


「灰音これから答えるけど、何か聞きたいことがあったら聞いてほしい。

 あんまり、人と話したことがないから、ちゃんと説明できる自信がないからね」

「はい」

「正直を言うと、僕自身も僕が何者かがわからないんだ」


 人間から狐に転生した上に、妖怪だなんて理解しきれない。

 これは嘘偽りない本音だ。

 でも、これから着いてきてほしいなら、このことは伝えておかなきゃいけないね。


「一つだけ解っていることは、僕は人間から妖狐に生まれ変わったってことだ」


 僕が人間だったこと、彼女は妖怪だ人間に従いたくは無いと思うかもしれない。

 だからこそ伝える。伝えないことで、偽りの関係を残すよりもっと、もっと正当に付き合いたい。

 これは前世で人間関係をもたなかった僕の、こだわりだ。

 仲間に嘘なんてつきたくない。


「人間……?」


 灰音が困った瞳でこちらを見つめる。

 だけど、特に何かを言うことなく、僕の答えを待つ。




 ふう……、一つ目の質問はあれでいいのかな?

 特に灰音からの質問もないから良いのかな。いいの……?

 ほとんど何も答えてない気がするけど。灰音は……、うん特に問題はないかな。神妙な顔だけど何も言ってこないし。

 そして目的。灰音は『百鬼夜行』で召喚した。

 でも、目的かあ……何も考えずに召喚したって言っても納得しないだろうしなあ。


「えっと、灰音を召喚した目的だよね」

「はい」


 んん……、さっきから心なしか灰音の返事が冷たい。

 さっきまではもっと元気良く楽しそうに返事してくれてたのに。

 この空気はきつい、どんどん雰囲気が重くなっていく感じがする。

 外も徐々に暗くなってきていて、空気の重さが増してくる。

 これは……、変なことはいえないなあ。ちゃんと、考えていかないと。


「んーっと、灰音をここに呼んだのは僕の能力なんだ。昨日話した、僕の妖力を使ってね。

 この能力は妖怪を召喚はするけど、誰を呼ぶかはランダムだ。

 だから、灰音を狙って召喚したわけじゃない」


 灰音の肩が揺れる。


「その目的は、僕がこの世界で生きていくうえで協力してくれる相手の召喚。

 それで灰音が来てくれたのは嬉しいことだった」


 また肩が揺れる。


「灰音を狙って呼んだ訳じゃない。

 呼んだ目的だって誰だってできることだ。


 でも……、僕は君が着てくれたことが嬉しい。

 今はどうかわからないけれど、こんな僕を信頼してくれて、主と慕ってくれて。

 僕は灰音のことが好きなんだ」

「っ……。そう、ですか」


 あれ……なんだか告白みたいになっちゃった。

 別に恋愛的な意味じゃないけどね。大体、狐と骨の恋愛って……

 ほら、灰音も表情変わってないし。ずっとまじめな表情だ。

 少しは変わってくれてた方が良かったかな!




 つ……疲れた。まじめな話って疲れるんだね。今まではされる側だったから知らなかったよ。

 そして最後の質問。僕の目的か……

 僕の目的ってなんなんだろう、これからこの世界でどうやって生きていくのか。




 すっごい悩む……一個目の質問は今の説明で簡単だった。二個目の質問は、純粋な灰音への気持ちを言っただけ。

 でも、これからどう生きていくかってのは考えてしまうと難しい。

 僕がずっと黙ってるから灰音も困っている気がする。

 早く答えないと。


「僕自身の目的……」


 それはこの世界で生きていく理由でもある。

 前世は病で動けなかった、けれど今は狐の体ではあるが健康な体だ。弱いけど……

 このまま健康に生きていきたい……違うな、目的ってほどでもじゃあない。

 だめだ、このままじゃ埒が明かない。

 一度言葉にしてみよう。僕がどう生きて生きたいのか。

 そうすれば気持ちがまとまるかも。


「ううん、目的って言っていいのか解らないけど。思いついたことを言うよ。

 僕がこれからどう生きていくのか」

「お願いします」


 ん、灰音の許可も出たし言ってみようか。

 僕の生きていく理由を。


「僕が人間の生まれ変わりって言うのはもう知っているよね。

 人間だったころは、歩くこともできない人生だった。

 だから……、この体に生まれたからには、元気に、健康に生きていきたい。

 そのために僕は食べて強くなりたい、今のままじゃすぐに死んでしまうだろうから。


 そして、人間のころは他人と関わることもできなかった……ずっと、一人だった。

 だからこそ今、僕はいろんな人と関わっていきたい。

 灰音や、新しい妖怪、人間、亜人、魔族、魔物……意思疎通ができるのなら。皆と関わっていきたい」


 それこそ、桜のような神様だって。

 ……ああ、関わるって言い方はおかしいな。


「いや……関わるんじゃあない。

 友達になりたい、仲間になりたい……家族になりたい。

 僕は人間、前世でできなかったことを全部、全部やっていきたい。


 これが僕の生きる意味だ」


 ああ、やっぱり口に出すって大事だ。

 口に出してみれば単純、簡単なことだ。


「それに……初めての友達にも会わないといけないしね。」

「それは?」

「神様。


 うん、僕は神様になりたい」

「っ!?」


 って、流石に無理か。

 勢いで変なことをいっちゃったな、訂正しなきゃ。


「雪白様!!!」

「うわぁ!?」


 突然灰音がこちらに身を乗り出してくる。


「眷属である、この私にお話してくださってありがとうございます!

 この灰音、感激いたしました!」

「う……うん」


 なんだろう、さっきまでと全然違って勢いがすごい。


「実は私、先ほどまで迷っていました。

 雪白様が私のことを信頼してくれないから、力を隠しているのか……私は邪魔だと思われているのか。

 私は、あなた様から離れるべきなのかと……」

「そんなこと」

「ええ、そんなことでした。

 雪白様は私を好きといってくれました。人々に恐れられたこの骨の身を。

 私に秘密を教えてくださいました。

 たとえ嘘でもかまいません。私は嬉しかったのです」


「雪白様……今はか弱きお方」

「う……」

「いずれ神へと至るお方。

 私は信じています。あなたなら成せると。

 この世界で、神に至ると。


 あなたを疑ってしまったおろかなこの私……がしゃどくろの灰音。

 今一度、あなたの眷属として生きるのをお許しください」

「許すも何も……側にいてくれるだけで嬉しいよ。

 ずっと一緒にいてくれるかい?」

「もちろんです!」


 ……、まさかそんなことを考えていたなんてな。

 もう少し気持ちを言葉にしていくようにしよう。

 そう考えていると、突然灰音が倒れる。


「灰音!?」


 ゆすってみるが反応がない。

 まさか……お別れなのか?僕の心臓が早鐘を打つ。

 せっかく分かり合えた気がするのに、こんなとこでお別れなんていやだ。

 急に体から力が抜ける感覚。

 妖力が僕から灰音へと流れる。


「う……」

「灰音!」


 灰音のうめき声、今のは僕の力……?

 力の譲渡で回復?性格には解らない、けれど灰音は回復している。

 僕は、全力で力をそそぐ。

 耳に、弱弱しい声が届く。


「雪白……さ、ま」


 覇気のない声だ。

 突然どうしてしまったのか、涙が出そうになる。


「考えすぎで……




 知恵熱が……」

「は?」


 灰音の額を触る。


 ジュッ


 熱い。

 僕は灰音を放置し、洞穴から出る。






 ああ、空が綺麗だ。

 この空を見れるだけで、生きていく意味があるきがする。


「雪白さまぁ……」





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