第15話 簡単過ぎるゲーム

 同じころ、椎名真紀と谷村太郎は一階にある雑貨店にいた。女子中学生をメインターゲットにした店内には、カワイイヘアピンやアクセサリーが所狭しと並べられている。おまけに、値段はリーズナブル。今回のようなゲームにピッタリな店だと彼は思った。

 谷村は可愛らしいヘアピンを手にして、真紀の顔を見た。

「助かりました。こういう可愛らしい店に入るには抵抗がありました。ところで、椎名さんもこんな店に来るのですか?」

 突然の質問に対して、真紀は首を横に振る。

「いいえ。この店には来たことがありません。このショッピングモールの本屋には通っているのですが」

「そうなんですね」

 そう答えた谷村は、ヘアピンを持ちレジに向かった。続けて真紀も同様にヘアピンを購入する。

 この後、地下駐車場に向かえばゲームクリア。そう言いたいところだが、真紀の疑念は晴れていない。簡単過ぎるゲームの裏に、何かが隠されているのではないかと、彼女は疑っているのだ。

 二人は無事に買い物を済ませ、店内から出て行く。その内、真紀は隣を歩く谷村に尋ねた。

「簡単過ぎると思いませんか?」

「そうですね。今回のゲームは簡単過ぎる」

「やっぱりそう思いますよね? 何か裏がある。そんな気がします」

 疑念を抱き、真紀は一歩を踏み出す。その前を黒いスーツを着た若い男が通り過ぎた。その男は近くに真紀と太郎がいることに気が付かない。

「警部。心配しないでくださいよ。こっちはショッピングモール内全ての防犯カメラを使って探しているんです。5分もあれば拉致された中学生たちと教師を全員保護できますよ」

 二人の前を通り過ぎた若い男は、刑事のようだった。ショッピングモール内に警察がいる。その事実を知り、真紀は決断する。

「谷村君。少し相談。今目の前を警察の人が通り過ぎたから、保護してもらいませんか? 私は賞金や願いに興味がないから、今すぐにでも彼を追いかけようと思うけど……」

 椎名真紀の提案を聞き、谷村太郎はゲームに隠された真意に気がつく。そして彼は、咄嗟に真紀の両肩を掴んだ。

「そういうことか。さっきの刑事は、たぶん運営の仲間です。あの刑事、俺達に聞かせるようにわざとらしく話していただろう。あれが罠なんです。警察に保護されたら、ゲームクリアできない。ゲーム終了時点でゴールにいなかったらゲームオーバー。警察に保護されたら、ゴールに行けなくなってしまうからな」

 谷村太郎の説は一理あると真紀は思った。だが、警察が偽者であるという確証はない。

「やっと見つけた」

 そう告げて黒墨凛が二人の前に現れた。

「黒墨さん。何ですか?」

 谷村が問うと凛は二人の顔を見て、事実を伝える。

「ショッピングモール内に警察がいる。警察は池澤君を保護した。具体的な人数は不明だけど、何人かの刑事が巡回している。運営が警察を呼んだのか、運営の裏切り者が呼んだのかも不明」

 淡々とした報告を聞き、二人は互いの顔を見合わせた。

「やっぱり。僕の説は正しいのかもしれません」

「どういうこと?」

 谷村が言っていることが理解できない凛は首を傾げた。その後で谷村は、彼女に告げた。

「頭がいいお前なら、これだけ言えば分かるだろう。警察に保護されたら、ゲームクリアできない」

 その一言がヒントになり、凛も真意に気が付く。

「なるほど。このゲームは、ただ買い物をすればいいという物ではなかった」

 真紀は凛の言葉に続けながら、端末を取り出した。端末には残り時間がデジタルな文字で表示されている。

「ゲームをクリアするためには、残り時間ギリギリまで警察から逃げなければならない。因みに残り時間は十五分」

 この時、簡単過ぎるゲームは鬼畜な遊びに変貌した。

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