第4話 マニフェストとアイテム
「第一回目のゲームは午前七時より行います。今は午前六時十分ですので、今から五分間が投票期間になります。それから三十分以内にマニフェストを達成してください。午前六時四十五分から午前七時までは休憩してください。ということで、練習開始です。皆様。投票してください」
ラブの指示に従い真紀は端末をタッチした。すると、カタログとアイテム購入、あなたのマニフェスト、異性のマニフェストという文字が表示される。
まず真紀は、異性のマニフェストという文字をタッチしてみた。すると、この場に集められた四人の異性の名前と獲得票数ごとに決まるマニフェストが一覧となっていた。
『池澤文太のマニフェスト』
① 黒墨凛と手を繋ぐ。0~1票
② 椎名真紀を褒める。2~4票
③ 蒼乃恵美を笑わせる。5~7票
④ 山吹日奈子に壁ドン。8票以上
真紀はルールを理解することができた。マニフェストは異性とのスキンシップ。これを制限時間以内に達成しなければならない。
次に真紀は、画面を戻し、気になっていたアイテム購入という文字を触ってみた。
『アイテム購入』
① コピー 任意のプレイヤーのマニフェストをコピーすることができる。ハート二個消費。
② チェンジ 任意のプレイヤーと自分の所持ポイントを交換することができる。ハート二個消費。
③ チェック 任意のプレイヤー(同姓)のマニフェストを閲覧することができる。ハート一個消費。
④ リプレイ 次のターンの自分のマニフェストを、同じ物に変更できる。ハート三個消費。
⑤ ガード アイテム効果を一度だけ無効化する。ハート二個消費。
⑥ ライター 自分もしくは他のプレイヤーのマニフェストを二つだけ自由に書き換えることができる。ただし投票期間内に使わなければならない。ハート四個消費。
⑦ オープン 三ターンのみ自分以外の所持ハート数が分かる。この効果は他のプレイヤーにも効果がある。ハート六個消費。
⑧ アップ 自分の送信ポイントを二倍にすることができる。ハート六個消費。
⑨ オールドメイド 自分と任意のプレイヤーのマニフェストをカードに見立てて交換することができる。ただし、カードはシャッフルされるため、獲得票数ごとの順番とは限らない。お互いの了承がなければ使えない。交換できるのは最大二回のみ。お互いにハートを2個消費する。
⑩ バンク 信用できるプレイヤーに、任意のポイントを預けることができる。預入と引き出しをするためには、それぞれハートを二個消費する。
ここではアイテムの効果と消費するポイントに関する情報がまとめられていた。
三番目に閲覧したカタログというページでは、飲食物やボールペンなど生活に使えそうな物が一律ハート一個で購入できることが分かった。
最後に彼女は自分のマニフェストをチェックしようとした。その時、彼女は気が付く。マニフェストが分かるのは、自分と異性合わせて五人分だけ。残りの三人の情報は分からないのだ。だからどうしたと言えば、そこで終わってしまうのだが、そこに何かが隠されているのではないかと、真紀は考えてしまった。
『椎名真紀のマニフェスト』
① 池澤文太の前でハンカチを落とす 0~1票
② 谷村太郎を褒める 2~4票
③ 東大輔に好きなタイプを聞く 5~7票
④ 吉川敦彦のシャツの裾に触れる 8票以上。
このどれかを達成しなければならないということを把握した後で、真紀は最初のページに戻る。できることの把握に時間がかかってしまい、残り時間は一分程になっていた。真紀は誰に投票しても同じだと思い、適当に池澤文太を選んだ。画面上の彼の名前をタッチすると、『何ポイント送信しますか』というメッセージが表示された。選択肢は一票か二票のみ。真紀は悩むことなく、直感で一票さけ投票した。
それと同時に送信が締め切られ、画面上に自分のマニフェストが表示された。
『椎名真紀のマニフェスト。池澤文太の前でハンカチを落とす』
具体的に何票獲得したのかが分からないメッセージという些細なことを頭の片隅に置いた真紀は、頬を緩めた。
試しに服のポケットの中に手を入れてみたが、そこには何もなかった。やっぱりと思った彼女は、端末のカタログをタッチしてみた。
画面をスクロールさせると、ハンカチという文字が出てくる。真紀は迷わずハンカチを購入した。その直後、真紀の端末にメッセージが表示される。
『ハンカチは、廊下に出て右にある男子トイレのドアの前にいる黒服の男から受け取ってね』
まさかと思い、真紀はドアに向かい歩き始めた。そして、黒板側のドアに手を伸ばすと、扉は簡単に開いた。それを見ていた池澤達は驚いた。
「マジか。こんなに簡単に教室を出られるんだったら、くだらないゲームなんてやる必要ないな」
そう言いながら池澤文太は、真紀よりも早く教室から飛び出した。この展開はマズイと真紀は思う。一刻も早く黒服からハンカチを受け取って、池澤を追わなければ、マニフェストを達成できなくなる。最も今回は練習だから、関係ないのかもしれないけれど。
幸運にも、池澤はトイレのある右の方向へ走る。即ちハンカチを受け取ってから彼を追うことは容易である。それでも真紀は池澤を追う。男子トイレのドアの前まで走った先には、メッセージ通り黒服の男が一人立っていた。黒色のサングラスで瞳を隠した黒ずくめの男は、真紀の姿を見つけると、すぐにハンカチを差し出す。
「椎名真紀様。ハンカチでございます」
マニュアル通りのセリフを口にした黒服からハンカチを受け取った真紀は、頭を下げて、池澤を追いかけた。
図書室や音楽室、職員室というプレートが掛けられた景色を見ながら、一生懸命に走っていると、真紀の前方で池澤は舌打ちをしていた。彼の目の前には真っ白な壁しかない。
悔しがる池澤の近くに寄った真紀は、彼に声をかけてみる。
「池澤君? 出口ないの?」
少女の声を聞き、池澤は真紀と顔を合わせた。
「椎名さんか? 残念ながらこっちは行き止まりだった。この壁も固くて、素手で壊せそうにない」
池澤は前方の壁を殴ってみた。それを見ていた真紀は、隙を見逃さずハンカチを落とす。
次の瞬間、池澤は真紀の落としたハンカチを拾った。すると、突然真紀の端末が震えて、クラッカーのような音と共に『マニフェスト成功』というメッセージが表示された。
教室を出て左に向かう黒い影があった。その人物の前は、真紀たちがいる場所と同じように、厚い壁で塞がれている。たった一つの違いは、黒色のテンプレートが設置されているか否か。これにパスワードを入力すれば、外に出られるのではないか?
黒い影はそう思ったが、パスワードが分からなければ意味がない。
「大丈夫。この攻略法なら短時間でゲームを終わらせることができる」
影は小声で呟き、目の前に設置されたテンキーを睨み付けると、プレイヤーたちが集まる教室に戻った。時間がないという焦りを抱えたまま。
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