『少女』の始まり

私には名前がない。いや、『あった』のほうが正しいのか。

「今になっては懐かしい話ですけどね」 

少女はそう言って笑っていた。


私に名前があった頃の話をしよう。別に面白い話でもないし悲しい話でもないけど。


私はある村に住んでいました。そんなある村に一人の男が訪れこう言いました。


『この村の子供を集めてくれ!』と。当然大人達は怪しみました。


けれど私達は自分達の意思で彼の下に集まりました。何故か行かなければと思ったんです。


そうして男は一人の少女にこう言いました。


『キミには魔法を使う才能がある。私のところに来ればその才能を伸ばしてやる』


男はその言葉を言うと私の親と話を始めました。

嘘のようでした。私はまさか金で売られるとは思っても無かったですからね。


それから私はその男の屋敷に連れていかれました。


男は私を地下に放り込むと次の日から人体実験が始まりました。


体は開かれ魔物のナニかと入れ換えられて腕も足も取り替えられました。その時に私は見てしまいました。私と同じように売られた少女達を。彼女達はすぐに死んでいきました。

最後まで生き残ったのは私だけ……というより私が少しだけ特殊だっただけって聞きましたけどね。


そうして出来上がったのは人でもなければ魔物でもないただのキメラ。しかも出来損ないだったので私は産みの親を殺しました。それはそれは残酷にできるだけ苦しめながら殺しました。

そして私は自由になったので世界を放浪しながら召喚士になりましたとさ。


そう言って私は話を締め括る。


「つまらない話だったでしょう?」


人形は嘘もつかずコクりと頷く。


「つまらないどころか面白いところもないじゃないか。もとよりただの過去話だろう」


それもそうだろう。だってただのどこにでもある過去話なんだから


「フフッ……あなたって隠さないんですね」


けれどちっとも同情してくれない彼に少しだけ意趣返しとして一般的に誰もが見惚れる微笑みを向けてみた。


「気味の悪い顔だな」

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人形達は今日も今日とて争い続けるのである 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven

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