エピソードラスト 異体同心

 いよいよワンマンライブ当日。動員数は約一万人。




 俺はまだかと言わんばかりにハルカが来るのを待った。

 楽屋にいる間はずっとソワソワしていた。




 ライブが始まる一時間前、俺はハルカと二か月以上ぶりに顔を合わせた。


 俺は一言、来てくれてありがとうと言った。本人は少し顔を赤らめながら下を向いた。


 そして、チケットを受け取るなりすぐに去って行った。




 ちなみに、ハルカに渡したチケットは、最前列のものだ。

 どうしても実行したいことがあったために、自腹を切って買ったのだ。




 俺の精神状態は、本番が近づくにつれて緊張とともに高揚していった。

 それを紛らわすかのように、ひたすらガムをかみ続けていた。



 ◆



 いよいよ、本番5分前になった。俺はメンバー達と顔を合わせて成功を誓い合うためのエンジンを組んだ。




 そして、本番になった。




 眼前には、今まで見たこともないような人が、歓声を上げながら俺たちの入場を見てくれた。





「みんな!来てくれてありがとう!」




 俺はその一言を放った。




 前列にはハルカがいる。相変わらず儚げな顔をしている。

 その表情は、ライブ会場にはミスマッチとも言えるものだ。




 そうして俺は、ライブ会場の熱い空気に包まれながら楽器隊の奏でる音に合わせて歌い上げた。その空間は、やはり至福であった。



 ◆


 いよいよ、ラスト一曲を目前とした時、一度MCタイムに入った。





「最後の曲を披露する前に、俺はどうしてもこの場で叶えたいことがあります。皆さん、その瞬間を見届けてくれますか?」





 俺はそう観客に問いかけると、観客たちはワーと声をあげながら反応してくれた。





「では、まずはこの方に出てきてもらいます」





 俺は、人生が大きく動く瞬間を目の前にして、動悸が収まらなった。


 いよいよ、その瞬間がやってくる。





「それでは桐山ハルカさん、ステージに上がってきてください!」





 そう言ってハルカを指名した。

 その瞬間、ハルカは以上に慌てた顔をしており、戸惑っていた。


 俺はハルカのもとへ駆け寄り、手を掴んでステージ上へと連れて行った。





「この方は俺の最も大切な人です。今日はハルカにこの場で言いたいことがあるので、はるばる来てもらいました!」





 観客やメンバーは「おぉ!?」と煽りを入れてくる。


 高揚と緊張が俺の心を覆う。それを振り払いながら、俺は続けた。





「ハルカ、俺はお前をとても愛している。会えなかった二か月の日々はとても辛かった」





 ハルカは、そんなことないよと言っている。


 その顔はものすごく赤みを帯びている。





「ハルカは俺を少し疑ってた。俺もそれを拭えなかった。とても申し訳ないと思っている」





 周りは、一万人がいるとは思えないほど静かになっていた。





「でも、俺がハルカを愛する事には何一つ偽りは無い。だから、今からそれを証明します」





 いよいよ、この一言を言うときが来た。

 正直、不安はある。だが、この言葉を言った後、少なくとも後悔は残らないと思った。




 そして、いよいよこの言葉を言うときが来た。





「桐山ハルカさん、俺はあなたと一緒になりたいです。是非、結婚してください!」





 その言葉とともに、会場は完全に静まった。


 聞こえてくるものと言えば、会場にいる一万人、そしてメンバーや俺、そしてハルカの鼓動の音だけである。




 五秒間の沈黙を経て、ハルカは俺からマイクを取った。そして。こう返した。





「私も、どうしてもレンに愛されてるってことを知りたかった。だから、その言葉は本物だと思う」





 その言葉に、俺は少し歓喜した。


 そして、いよいよ返事がやってくる。





「…はい、私でよければ。一生お供します」





 その言葉が聞こえた瞬間、観客はドッと歓声を上げ始めた。




 観客席からは、おめでとう!といった声が数多く聞こえてきた。メンバーも、マイクを通しておめでとうと祝福してくれた。


 祝福の歓声に包まれながら、俺とハルカは抱き合っていた。




 ようやく、俺の思いと願いが叶った。そう思うと涙が溢れてきた。




 そして、俺は最後の曲を、ステージ上のハルカの隣で歌った。

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