エピソード3 有象無象
あれから一か月、ハルカとは連絡が取れていない。
メールをしても、電話をしても出てこない。
家に行っても、誰も出ない。
いよいよハルカに嫌われたのかもしれない。
雨が降っている今日、俺の心の傘はいない。心がずぶ濡れになったまま、部屋の隅でうつむいていた。
すると、メールが来た。ハルカから来たかと思って、慌ててスマホを見た。メールを開くと、それはハルカではなかったことにすぐに気が付いた。
“おい、練習始めるからそろそろ来いよ”
バンドメンバーからのものだった。
イライラした気持ちを抱えながら、いつものように練習に行った。
まるで何かを紛らわすかのように…
◆
俺たちは練習とライブを重ねて、着実に人気が出ている。ラジオに紹介されるようにもなってきて、ワンマンライブも毎回ほぼ満席だ。
転売ヤーに悩まされるようになったのも、俺たちの人気が上昇してきた証だ。
それでも、ボーカルである俺は、やはり何か晴れない。
メンバーにも、最近声が暗いと言われている。
確かに、自分でも声の明瞭さが無いと思う。
やはり、ハルカと連絡が取れていないのもあるのだろう。
だが、俺の曇った心に反して、バンドは成功の一途を辿っている。
ついには万単位の客が入るドームでのワンマンライブが決定した。
メンバーが喜ぶ傍ら、俺だけが曇った顔をしている。
俺は、それが幸か不幸か分からないのだ。
昔からの悲願がついに達成されるが、それはバンドメンバーとの努力の日々やファンの応援、そして、何よりもハルカの応援があってこそだ。それがあったから俺は折れずにここまでやってこれた。
だが、ハルカからの連絡は途絶えた。もう二度とハルカと会えないかもしれない。そう思うと息が苦しくなる。
そんなこんなでずっと迷いを抱えていたが、ハルカと連絡が取れなくなって二か月、そしてワンマンまであと一週間という日になった。
この日、俺はあることを考え付いた。
そうだ、俺がハルカだけを愛していることを証明する方法が一つだけあるじゃないか。これを実行してみようと思った。
だが、これにはメンバーの了承が必要だ。俺は申し訳ないと思いつつメンバーに打ち明けた。
メンバー達は、思いの他すんなり了解をくれた。一生の思い出に残るかもしれないからこれはいける!そういって後押ししてくれた。
あとはハルカをライブに呼ぶだけだ。当日、彼女が来なければ何の意味もない。
“ハルカ、一週間後に大きい会場でワンマンライブをやるんだ。どうしてもハルカに見に来てほしいんだ。お願いだ、来てくれ。”
こうメールを打ち込んで送信した。あとは待つだけだ…
◆
三日後、ついにハルカから返信が来た。二か月ぶりの返信である。
“うん、いいよ”
俺は内心かなり喜んだ。だって、久しぶりにハルカに会えるのだから。
そうして、俺の心は少し軽くなった。
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