晴れ祭り
ぎゅっと右手を握られる感触。
その瞬間、僕の歩く足は止まった。
見ると、君の左手が僕の右手を握っていた。
「ねえ、わざと雨の日を選んでたんでしょ」
「え......。どうして」
「隠さなくても良いんだよ」
どうやら、君にはバレたみたいだね。
こんなしょうもないことに付き合ってもらってたなんて。
君は、全てを理解したようで自信ありげに答えた。
「あなたがそうした理由は、私と手を繋ぎたいけど、決心がついてなかったから。そうなんだよね?」
僕は、ただ頷いた。
そう。僕が君を祭りに誘った日に限って雨なのは、僕が天気予報を見て雨の日に開催される祭りだけを選んでいたから。僕は最初から雨男なんかじゃなかった。
理由は君が言った通り。高校二年生のとき、初めて君を祭りに誘ったあの日、僕は決心していた。
ずっと想いを寄せていた君と祭りで手を繋ぐぞ、と。
そのためには君があの誘いに乗ってくれることが必要だった。だけど君はその誘いに乗ってくれたんだ。
その夜、僕は嬉しかった。どんなシチュエーションで、どんな言葉で君と手を繋げるだろうかと。
ーーだけど、その日は偶然にも雨が降った。
雨だと傘を持つから手を繋げない。そのとき僕は思った。「まだ手を繋ぐのは早い」と。だから、手を繋ぐ決心がつくまで君を誘ったんだ。
ーー手を繋げない雨の日に。
そして、今日がその日だった。この街に残されている祭りは残り三回。だけど今日以外は全て雨。このままだと君と手を繋げないまま夏が終わる。
だから、今日、僕は君を祭りに誘ったんだ。
「どこで、分かったの?」
「うーん、忘れちゃったな」
自分の頭を小突いた君は嘘をついているように見えたけど、言及はしない。
「それよりもさ、お祭り見て回ろっ!」
「そ、そうだね」
僕の手を引き、君は笑う。
君は僕のことをどう思っているんだろう。
そんなことを考えながら、からんころんと君の下駄が祭りの中に溶け込んだ。
君と初めて手を繋いだ夏祭りも、終わりに近づいていた。
僕たちは野原に体育座りして、星の輝く空を二人で見つめていた。
「私もね、分かったことが一つあるの」
「分かったこと?」
「うん」
何だろう?僕のことは君が分かっている。残っているのは君のことだけだが......。
「それはね、私、あなたのことーー」
ひゅるるると音を鳴らしながら、一本の線が空へと飛んでいく。そして、その線が見えなくなったと思うと、瞬く間に星空に大きな打ち上げ花火が。赤、青、緑、黄の色彩が一斉に祭り会場を鮮やかに染めあげる。
「ーーだったんだ」
花火の光に照らされた君はそう言うと、顔を赤くして俯いた。
それは決して花火の赤色に照らされていたんじゃない、僕は分かった。
僕は、意を決して君に伝える。
「僕もさ、君のことーー」
もう一発、同じ花火が上がる。
きっと、僕の声は小さくて聞こえなかったかもしれない。いや、むしろその方が良かったのかな。
僕たちは、次々打ち出される花火を見ながら肩を寄せ合った。
また来年晴れた祭りの日には、僕は君の彼氏として、もう一度花火を見よう。
僕と私の、雨夏祭り。 花夏 綾人 @kanatsuayato
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