第4話
25年前、姉たちと同様に、わたしも夫の家に嫁ぐことが決まった。
本家と言えど、完全な女系で苗字を引き継いでいくには時代の流れとしても限界が来ていた。
『家に縛られずに自由にしたらいい』
直系の男子である父だけに許された発言。
わたしを跡取りとして育ててきた母にとっても、それは肩の荷が下りる提案だったようだ。
ホッとした様子の母に、特殊な家庭環境は彼女をも追い詰めていたのだと、その時初めて悟った。
しかし、幼少の頃から植え付けられた劣等感は、わたしを自己否定の強い人間に作り上げていた。
義母は実母とは対照的な明るさで、とてもおおらかな人である。
息子ばかりで女の子が欲しかった義母は、わたしの事をたいへん可愛がってくれた。
この人がわたしの本当の母だったら……と、何度思っただろう。
初めての母の日に奮発したバッグの裏に隠された「いい嫁」というわたしの思惑を後悔させるほど、彼女は無邪気に喜んでくれた。
後日わたしは夫婦そろって実家に出向き、母にも同じくバッグを手渡した。
母は包みをその場で開け、出てきた品物に目を輝かせた。
「あら、ステキだわ」
思いがけない言葉に、わたしは驚いた。
更に彼女は、義母と同じようにバッグを左腕にかけて、その感触を楽しんでいた。
こんなふうに素直な反応を見せてくれた母に、わたしは確かに嬉しくもあったが、訝しげな眼差しを寄越していたに違いない。
「ありがとうね」
わたしの目をチラッと見たあと、夫の顔を見て微笑んだ。
その一瞬で、わたしはすべて理解した。
ああ、夫がいたからこんなに喜んで見せたのか……。
世間体を強く気にする母は、私以外の人間には聖母のような人なのだ。
わたしはガッカリしながらも、夫の手前「母にとっていい娘」を演じるしかない。
そして、同じように喜んだ義母にまで疑心暗鬼になってしまう自分に気づいて、わたしは思いきり苦笑したのだった。
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