第3話
小学生の頃、わたしのお小遣いは月に500円だった。
確か、小学5年生の時。
それまで母の日は手紙だけを寄越していたわたしは、友人と一緒に、4月に貰ったお小遣いで初めて母の日のプレゼントを買った。
友人と選んだそれはピンクの花をあしらったハンカチで、友人も自分の母親に同じ柄の白地を選んだ。
わたしは母の喜ぶ顔が見たかった。
しかし同時に、このプレゼントによって母の抑圧が少しは緩むことを、心の底で密かに期待していたのだ。
綺麗にラッピングしてもらったプレゼントを、母は確かに喜んでくれた。
「ああ、ありがとうね」
ニコッと笑った母の笑顔に嬉しくなったのもつかの間、そのハンカチは二度と私の前に現れることはなかった。
つまりは、使ってくれなかったのだ。
一度、聞いたことがある。
「お母さん、あのハンカチ、使わないの?」
母はどことなく気まずそうな顔でわたしを見た。
「ああ、あれね……」
なぜかわたしはそれ以上、何も言うことができなかった。
友人の母親はたいそう喜んで、毎日のように使ってくれるんだ、と聞かされていた。
せっかく渡したプレゼントを、どうして母は使ってくれないんだろう。
そして相変わらずの過大な期待に押しつぶされそうだったわたしは、その後結婚するまでの間、母の日に形に残るようなプレゼントをすることはなくなった。
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