第19話

 ホスセリは夜風に前髪が煽られるまま、手をさして暖かくないコートのポケットに突っ込んで立っていた。ホテルのテラス、それを内側のラウンジからぼんやりとソファにしなだれるような格好のアマテラスが眺めている。

 ひときわ強い風が吹き、しょぼしょぼとホスセリがラウンジに戻って来た。

「御付きはやすんだの?」

「ああ」

 アマテラスが答えるとホスセリは大きく息を吸った。肺に温かな空気が入って来て、それは柔らかな気持ちを喚び起させる。

「愛してるよ」

「ああ」

 ポケットに手を突っ込んだまま、アマテラスに向き合うようにソファの背もたれに腰掛ける。人はまばらでどのひとの耳も眠っている。

「それだけじゃダメ?」

「お前が周りの……周りの目を気にしないのはすごいと思うサ。

 でもあたしはあたしの周りがあんたを見下し蔑むのを見ていられない」

 そうかあとホスセリは微笑んだ。

「やだー俺愛されちゃった」

「ああ」

 面白くなさそうにアマテラスは鼻で笑う。

「せめて、小難しい仕事の後にお前の腕で眠れたらいいのにな」

「それは熱烈な」

「そうだな」

「アマテラス」

 そっとホスセリが美しい黒髪に手を伸ばす。絹糸のように艶めくそれに口付けてもう一度繰り返す。

「愛してるよ」

「ああ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る