第18話
その夜、心配するホスセリに帰ってもらい、ベッドの上に倒れこんだノイズは煌々と明るい部屋の中でそのまま眠ってしまい夢を見た。
幼いころの夢だ。
自分は金平糖をひとつかみもらい、地下の部屋で台座に腰かけている。
父上は声をあげなくなった元部下の着ている服で靴の血反吐をぬぐっている。血反吐をまき散らしているその女はずっと同じ何かを主張していたが幼い自分にはそれは判じられない。女のまたぐらから熱された鉄の杭が抜かれがらんと大きな音が立った。
自分は金平糖をかじる。
薄暮兄さんと父上は二人で今日の夕飯の賛美をしていて、床には知らない男が三人裸になり(父上に命じられるまま彼らはそうした)固い縄でぐるぐると強く巻かれていた。縄は関節ごとに、ハムに巻くのと似た見た目で、紫色の肌に食い込んでいる。
「閣下」
と中の男が震える声を張った。
振り向いた父の表情はわからない。
「どうぞ私を殺してください、その女もこの男たちも知らなかったんです。
---------の件はすべて私に責が」
ゆっくり近づく父の表情はわからないが、男はおびえて身をよじった。
父のブーツの裏が男の顔をこする。
「それで……お前は」
次に乗馬鞭が隣の男を何度か打った。
「代償に何を差し出す?」
男ははくはくと口を動かした後絞り出したこたえは
「わたしのたましいをお納めください」
「くだらん」
さてこれは記憶だろうか。似たような経験の多いノイズにはわからなかった。誰かが父を裏切り(父上はそう言っていた)父が報復している。
男から血しぶきが上がって幼い自分の足元に男の首が飛んでくる。
男の顔がこちらをごろりとむくとそれはノイズの
そこで目が覚めた。
ノイズにとって怖い夢ではない。今までは。
だけれど今夜は酷く恐ろしい夢を見たときのように、鼓動が収まらなかった。
水を飲もう、と起き上がったところでドアがノックされた。
のろのろとドアスコープを覗く。いつもと変わらぬ父の姿がそこにあって、心臓が縮むのを感じた。会いたくないと思ったのは初めてだ……初めて?
頭を振って短く息を吐きドアを開ける。
「父上」
「ああ、具合が悪いと聞いて」
どうした、と心配そうに首をかしげるのは優しい父だ。
「なんでもありません」
かぼそい声で答えるが、父は温かな手のひらをノイズの額にあてた。
父が優しくて泣きそうになった顔を、心配そうに父が覗き込む。
「先に帰るか?」
あの家に。あの家に?
でも自分の帰る場所はあの家だ。
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