第10話
エレベーターをあくびしながら降りる。包帯やらガーゼやらで火傷を隠した父におとなしくついて少し地下通路を歩いているといつの間にか地下鉄のホームを歩いていた。ノイズはちょっと首をかしげてスーツケースを転がしながら前をいく父に尋ねた。
「地下鉄のない国にはどうやって行くんですか?」
「上に出てから飛行機だ。」
はあそうですか、と頷いて表参道交差点と書かれた改札を出るために荷物を漁る。父は早々に手のひらを機械にかざして出て行った。そうやって機械を騙すすべがノイズにはないため、あらかじめ渡されていた札を同じようにかざす。ICカードと同じようにピッと音がして通ることができて、ただし後ろの人間がエラーを出していた。
「父上それで、まず何をするんですか?
プランをさっぱり聞かせてもらってないんですけど」
「まず宿。
それからクライアントと食事だ」
クライアントというかなんというか。そうぶつぶつ呟きながら、サタンは黄緑色の皮の財布を無造作にノイズに渡した。
「日本円が入ってる。一応渡すが“仕事”の間は側にいなさい。
夜は遊びに行ってもいい」
ノイズの目が輝いたのを微笑んで、父はエスカレーターに乗った。
用意されていたのは感じのいいホテルだった。少々狭く感じたが、狭い島国のものはこんなものなのかもなあとノイズは小さい吹き抜けのあるラウンジでキョロキョロしている。緑の多い(のだが花は少ない)熱帯雨林のようなあしらいで、人はまばらだ。
「四時にまず女官の長と会う……少し早くついたな」
サタンの腕時計は三時と十二分を指していた。
「なにかおやつでも食べるか、どうするノイズ」
「いいですねパンケーキとかあるかな」
サタンが首をかしげると
「パンケーキ、おもてさんどーっていうと有名じゃないですか?」
「そうなのか?
ああ、案内をお願いする、2名だ」
「でも今はしょっぱいものが食べたいかなー楽しみです、地上の食べ物初めてですから!」
ラウンジでソファの席に着き、サタンはコートを脱ぎながら苦笑した。
「お前は食べるのが好きだな、ふとるぞ」
「鍛えてますよーちゃんと」
女性のスタッフが持ってきたメニューは英語も表記してあったのでノイズはホッとしてじっくりと読みだした。サタンはダージリンを頼んだ。
ノイズがひとり、頼んだソフトシュリンプの素揚げを平らげたあたりでホテルの玄関ドアを見てサタンは驚いた表情をした。つられてノイズがそちらを振り返ると自分と同じくらいか少し上くらいの、自分と同じように少しひょろりとした青年がフロント係に詰め寄っているらしい。どうやらにほんじんで、顔色は悪い。
「ノイズ、予定変更っぽい。少し待ってなさい」
はい、とオレンジジュースを飲みながら返事をしてノイズはその反対……ラウンジの奥の方からこちらを睨み歩いてくる女性陣に気づいた。三人の、妙齢の女性たちはやはりにほんじんっぽい。民族衣装に身を包んで、その裾を乱しもせず歩む様は人目を引いた。迫力ある。ノイズはぼーっとそれらを視界にオレンジジュースのカップを置いて−−その瞬間だった。
妙齢の女性一人がフロント係とサタンと話している自分と同じような青年をビンタした。
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