第9話

 工事現場の巨大なエレベーターのようなところだと思って貰えればいい。

 その中で「サタン」を長時間立ちっぱなしにするなどとんでもないと、彼専用のそれには大きなリクライニングチェアや大きなソファセットや給仕係と簡単なキッチンがあった。地上までのにかかる時間は大体地球半周のフライトの時間くらい。窓の類がないため外の様子はわからない、というか外は次元の狭間のようなものだ。見るべきものもない。

 大きなソファに腰掛け親子は足をペルシャ絨毯の上に伸ばし、ノイズは給仕の作ったホットレモネードをすすりサタンは上着を脱いで大きめの皮の手帳を開いた。

「父上、結局問題とはなんなんです?」

 がこん、と疾走はしりだした。

「ああ……」

 サタンは呻いて天を仰いだ。

「アマテラス殿の名は知っているか」

「家庭教師から」

「彼女の男問題」

 へー、と特に感慨もなく頷きノイズは続けた。

「なんで父上が口出すんですか?」

「複雑でな……まず依頼はアマテラスのお目付役の女官たちから来たんだが

 直後にアマテラスからメールが来た」

「なんて?」

「“貸しの件は覚えているだろうな女官長の側についてみろ

 お前の帝国を焼き払う”」

 ぎょっとしてノイズは父を見上げた。父は苦笑していた。

「彼女の冗談なんだ過激だが……実際彼女に焼き払うことはできんよ

 ただ……大きな貸しがなあ」

 大きくため息をつきサタンは手帳のページをめくりながらアイフォンに何か打ち込みだした。ノイズは肩をすくめてレモネードを啜ることと自分のアイフォンのゲームに没頭することにした。



 しばらくして、サタンは顔を上げると小さく息をついて息子を振り向いた。息子はいつの間にかうたた寝をしていて、サタンは微笑んだ。寝顔は幼く間抜けだ。

 ひょいと長い腕を伸ばしてノイズの鼻をつまむ。息子はなにか寝言を言いながら父の手を振り払った。給仕が柔らかな膝掛けを持ってきたので、給仕を手で制し、膝掛けを息子にかける。あどけなく眠る息子の体はまだ十数年しか生きていないのに、ヒトの年相応に育ってしまった。

 それが、サタンは怖い。

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