第8話
「たのもーう!」
俺がハンターギルドのドアを開けて元気良く挨拶をすると受付嬢達が露骨に嫌な顔をした。
三人いた筈の受付嬢のうち一人は忙しそうに奥へと立ち去り、一人は受付中のハンターに最近飼い出した猫の話を始めたので長引かせる気が満々だ。
残る一人は大きな溜息を吐いて俯きながら小さな声で「どうぞ……」と呟いた。
何?俺は困ったちゃん扱いなのか?
「大精霊ヤマザキよ出でませい!」
「うるさいニャ、そんなに独り言と勘違いされるのが嫌なのかニャ?」
「うむ。この歳で独り言を呟く痛い子扱いは精神的にクルからな。イマジナリーフレンドは卒業している証としてキチンと姿を現しておいて下さいお願いします」
ヤマザキは俺の肩の上で姿を現わすと酒臭い溜息を吐いた。
「む?ヤマザキお前ほんのりと焼酎甲類の匂いがするぞ?俺に内緒で呑んだな?」
「ちょっと寄り道しただけニャ、他国の女騎士団長と軽く呑んだだけニャ」
「次は俺を誘いやがって下さいお願いします」
女騎士団長とかどんな楽しい飲み会だよ!酒で酔い潰して「らめー」とか言わせたい。
「服を脱ぎかけの状態で女豹のポーズをとってくれる楽しい女騎士団長だったニャ」
「なんで呼ばないんだよおおおお!」
「まさか飲み会弾いただけでガチ泣きするとか思ってなかったニャ」
女騎士団長、即負け、らめー、女豹のポーズ。こんな楽しそうな飲み会は想像した事も無かった!
「出会いの瞬間は棒で殴られけどニャ」
「どんなご褒美だよ!」
女騎士団長、即負け、らめー、女豹のポーズ、棍棒(new)、お仕置き(new)。ビバ!ファンタジー!
「カタイシ、カタイシ」
「なんだ?ヤマザキ」
「僕はあまり個人の性癖に口を挟む子猫じゃ無いがニャ、自分の特殊性癖を年頃の女の子を前にして大声で主張するのはどうかと思うニャ」
静まり返ったギルド施設のカウンターで可愛らしい受付嬢が殺し屋の様な目つきでこちらを睨みつけていた。
結婚して下さい。
「あー……依頼を探しているんですが何かオススメの依頼はありませんか?出来れば討伐系の報酬の良いヤツ」
受付嬢はこちらに視線を一切合わさずにピラリと一枚の紙を渡して来た。
〈公衆トイレ清掃(男性用限定)〉
「あの……討伐系を……あと、(男性用限定)って今書き足しましたよね?」
「事前に見込まれるトラブルを予め予測して避けるのも私達受付嬢の仕事ですので」
「俺が女性用トイレでどんなトラブルを起こすって言うんですか!?せめて限定解除をして下さい!」
「いえ、トラブルは困りますので……」
「具体的に俺がどんなトラブルを起こすって言うんですか!」
「ひぃ!セクハラ!」
その時ギルド建物内にあるドアの一つが開き、中からどう見てもカタギの人では無い雰囲気のおじさんが登場する。
「おい、あんちゃん。ちょっと事務所に来いや」
顔に刻まれた傷であみだくじが出来そうなおじさんがこちらに向かって手招きをする。
「アンちゃんて可愛らしいお名前ですね、受付嬢さんあそこで暗殺ギルドの筆頭株主が呼んでますよ?」
「私の名前はアンでは無いです。それとあそこで手招きしているのはハンターギルドのギルドマスターです」
「おかしいですね、アンちゃんと言うのはどなたでしょう?」
俺が首を捻っているといつの間にか背後に移動していたギルドマスターが巨大な手で俺の頭を鷲掴みにして耳元で優しく囁いた。
「お前ぇの事だよ」
頭を鷲掴みにしたままギルドマスターはズルズルと俺を事務所へと引きずり込んだ。
「らめぇぇ……頭がもげちゃううう」
「たまにしかもげ無ぇよ」
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