第7話
精霊界の大御所たる天下一先輩が若干怯んだ様に胸の筋肉を震わせる。
「天下一先輩お願いしますニャ」
「うむ。ヤマザキの精霊属性は……中年だポヨ」
「……」
「……」
「中年属性だポヨ」
「……」
「……」
「なんで我がスベった感じになっているポヨ!」
自分がスベった感じになるのが余程嫌なのか天下一先輩が地団駄を踏む。
「いや、でも中年て……」
「こんな可愛い子猫をつかまえて中年は無いニャ」
仕方ないので少し半笑いで突っ込むと天下一先輩が途端に真面目な表情で語り始めた。
「お前ら中年属性魔法をバカにしてるポヨな?我も昔中年魔法を受けてしまった事があるから、恐ろしさは身に染みて解っているポヨ」
「天下一先輩は中年魔法を受けた事があるんですか?」
「昔の我はそれはそれは美しく愛らしいアイドル精霊としてその名を馳せたポヨ」
「ダウトニャ!」
「まあ聞くポヨ」
天下一先輩はヤマザキの厳しいツッコミをサラリと流す。
「ある日中年属性の精霊とイザコザを起こして攻撃魔法をくらったポヨ。魔法を受けた途端身体が重くなって動けなくなったポヨ」
「重力を操る魔法ですか?」
「単なる中年太りだったポヨ」
精霊魔法が中年太りって……
「あ!中年太りを馬鹿にしているポヨな?大変だったポヨ!貧弱な中年太りのボーヤと言われた我が、溜まった贅肉を落とすのに苦労に苦労を重ねて漸くここまで来たポヨ!」
天下一先輩が全身の筋肉をパンプアップさせた。
「結果にコミットさせる系のアレですか?」
「兎に角、中年属性魔法は恐ろしいポヨ……無闇に使うとあちこちから恨みを買う事になるポヨ。だからヤマザキも気を付けるポヨ」
天下一先輩がそそくさと背中の羽根を羽ばたかせて俺達の前から姿を消した。
「天下一先輩帰っちゃったぞヤマザキ」
「自分の知りたい事だけほじくって後は丸投げだニャ」
結局中年属性魔法とか言ってたけど中年の特徴を付与する魔法だよな……
「中年あるあるを無差別に撒き散らせば中年属性魔法になるんじゃ無いのか?」
「精霊魔法はそんな簡単な物じゃ無いニャ」
ううむ。中年属性魔法は中年にしか理解出来ないデバフをかける様な物かな?幸いにして俺は中年なので中年属性の理解度は最初からMAXに近いからな、中年理解度の浅いそこらのなんちゃって中年には負ける気がしないぞ。
「まあ、ものは試しだ。実験台の天下一先輩が居てくれれば助かるんだけどな」
「天下一先輩なら姿を消してその辺に潜んでそうだけど、あまり人の先輩をホイホイ実験台に使うものでは無いニャ」
「精霊使いカタイシが大精霊ヤマザキに命ずる!半径十メートルに中年結界を展張せよ!」
俺とヤマザキ以外誰も居ない町外れで、思い付きで唱えた恥ずかしい詠唱が木霊した。
「中年結界って一体どんな結界だニャ?」
「俺もよくわからんが魔力らしき物は抜けて行ったから中年結界は張られたぞ?」
「カタイシは思い付きで魔法を使うのは控えた方が良いニャ」
静まり返る空気の中で俺とヤマザキが何か変化は無いかと周りを注視していると、誰も居ない筈の背後から声が聞こえた。
「……よっこらしょ……」
天下一先輩の声だった。
「うわ、本当に居たニャ」
「しまったポヨ!」
コッソリ姿を消して隠れて居たらしいが、移動の際に声を漏らして俺達に見つかったらしい。
俺達は期せずして中年属性魔法の恐ろしさの一端を垣間見たのだった。
「酷いボヨ!無闇に中年魔法を使うなと警告したのに!」
「酷いって言っても立ち上がる時に掛け声が必要になっただけですよ?」
「それが困るボヨ!子供達の寝室にコッソリ忍び込んで悪夢を見ない様に精霊の歌を歌うのも精霊の仕事だボヨ!」
「通報案件だニャ」
まあ、確かにこんな筋肉の妖精が夜中に鼻歌を歌いながら寝室に忍び込んで来たら一生モノのトラウマになりそうだ。
「そう言えばヤマザキも最初会った時に歌の練習をしていたけど、精霊って歌うのも仕事なのか?」
「あれは趣味だニャ、飲みに行くと歌いたくなるから練習してたニャ」
「お前万引きだけじゃなくて飲み逃げまでしてたのか?」
「精霊の分け前ってのはそう言うもんだニャ」
精霊による窃盗被害はシャレにならない世界だな……
「それよりもいい加減この中年結界を解いて欲しいボヨ……身体から変な臭いまでして来たボヨ」
横で泣き言を言う天下一先輩は加齢臭を撒き散らしながら涙目になっている。
「そんな臭いを撒き散らしながら子供達の寝室に忍び込んだら悪夢を見そうですね、じゃあ解除します。結界〜無しよ!」
「こんな適当な精霊魔法は初めてみたニャ……」
「助かったボヨ」
俺の適当な精霊魔法の呪文で結界が解除されたらしいので俺自身が一番驚いた。
「この力で運命は俺に何をさせようとしているのか……天下統一も視野に入れて人生設計をやり直す必要があるな」
「根底から人生設計が間違ってるニャ」
「よし!中年魔法をいくつか思い付いたぞ!、今夜は宿屋に宿泊したいからハンターギルドで仕事をもらって来るぞ!ついて来いヤマザキ!」
俺はヤマザキを引き連れてハンターギルドへと向かった。
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