第23話 母バレ

 東野万理の案件から一週間が過ぎた頃


 ピンポーン。


 事務所の玄関を開ける法明寺。そこにいるのは暁美ともう一人の女性。


「あ、法明寺さん、こんちには」


「・・・・・。こんにちはじゃないだろ」


「えへへ、ごめんなさい」


 玄関口で、呆れている法明寺に、少し分が悪そうな暁美。


「こんにちは。暁美の母の筧真美(かけいまみ)です。入ってもよろしいですか?」


「あ、はい。どうぞ」


「お邪魔いたします」


「おっ邪魔します」


 法明寺は玄関口のドアノブを暁美に渡し、廊下の奥に後ずさる。

 暁美と真美は玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替え廊下を歩き始めたので、法明寺もそのタイミングで奥の部屋に向かう。

 うーん。この空気感・・・・・・。

 暁美は自分が仕切らなければと思いながらのこの重い空気に耐え切れずにいた。

 そして背中から語られる法明寺のめんどくさい事を俺に押し付けてくんなよ。と言わんばかりの背中の圧力と、何を言い出すかわからない後ろの母の圧力に押しつぶされそうになっていた。





 時は少し遡り、同日、昼過ぎ


 ブーブー


 スマホのバイブが動いている。昨日は朝方まで飲みすぎたため、完全に二日酔いで目が覚める。

 職業柄かどんなに熟睡していても、それこそ泥酔していても何かしらの音や気配で起きてしまう法明寺がいる。

 神経尖らせた日々を起くるのは20代の時までは、それがかっこいい。とくらいまで思っていたが、30代からなにか怪し気に30代中盤になると多少コンディションを考えていかないといけないと思うくらいに体少しづつ重くなってくる。

 特に飲みすぎた次の日は、体調を壊したんじゃないかと思うくらいの体のしんどさに襲われる。


 そんな体調の中、震え続けるスマホ。布団の近くに置いてあるので、一応手に取り、画面を見てみる。

 嬢ちゃんと書いているその画面の赤いボタンを押してまた寝ようかと思ったが、間違って青色を押してしまう。

 ったく、しょうがねーな。でるか・・・・・。


「あーーーー、なんだーーー」


「法明寺さん、大変、大変、今すぐお母さんと事務所いくから、準備しておいて」


「は?!何言ってんだ?」


「詳しいことは後ほど。じゃ」


 プープー


 あいつ・・・・・・。親バレしたな。





 部屋の中に案内をし、さすがに暁美にお茶を出させるわけにはいかないと思ったのか、法明寺は、暁美と真美を手前のソファに案内し、その足で台所に行き、準備してあったのか、急須にお湯をいれて、お茶を出し、暁美や真美の前にお茶を起き、自分の前ににもお茶を置き、そのタイミングでソファに座る。


「ありがとうございます」


「いえ、今日はご足労いただきまして申し訳ありません。本来であればお嬢様の希望立っての探偵業の助手のアルバイトではありましたが、未成年のしかも高校生ですので、私のほうから親御さんに許可のお願いのご挨拶にいくべきところを大変失礼しました」


 法明寺は、真美に対して、完全に相談者や依頼人と同じように丁寧に扱う。これが大人ってやつか。へむへむ。と心の中で暁美はうなづいていた。

 自分がしでかしていることなので、今の時点でもとにかくに反省した表情をして黙っておく。法明寺のほうをチラチラみるが完全に目を合わせてくれない。

 怒っていますよね。そうですよね。法明寺さん、あとはよろしくお願いします。完全に祈りを表情に込めて、目をぎゅっと締めて、開ける暁美。


「いただきます」


「あ、はい」


「私もいただきます」


「お、おう」


 真美がお茶を飲むタイミングにあわせて暁美もお茶を飲んでおく。この緊張感の中で一体どう動いてたらいいのやら。


「実はですね、法明寺さん」


「はい」


「私は、今日、法明寺さんに文句言いに来たわけではないのです」


「そうなんですね・・・・・。恐縮です」


「原因は、きっと、、、むしろ、、、この子にあるのはわかっていますし」


 ふーーっと両目をつぶり呆れたような表情で、真美はお茶をテーブルに置きながら法明寺に切り出す。


「じゃ、お母さん」


「じゃ、じゃないわよ。暁美。順序があるの」


「はい。。。。。」


 シュンとする暁美に、こいつはどこでもこんな感じなんだな。っと法明寺は少しだけため息が漏れそうになったが、真美の目の前なので、肩を落とす程度にして、返答をする。


「お母様、私自身、暁美さんのプッシュが強かったと言え、少し常識外な対応をしてしまった自覚はあります。私の口から無責任にしか言えませんが、本人がやる気があって、私の提示している条件をクリアしていて、もちろんお母様の同意がいただけるのであれば続けさせてあげたいとは思っています」


 法明寺のこれまでにない対応のよさにちょっとびっくりしている暁美だが、考えてみたら暁美に対してじゃなくて真美に対してなので、すこし残念だけど、それでも母の訪問に便乗して、いやー私も困っていたんですよーっとならないのはありがたかった。

 会話の流れとして、真美もしょうがない子ね。的な言い回しに、法明寺もそうですね、しょうがない子ですね。という会話の空気感はありがたい。このまま法明寺さん、母を言いくるめてください。お願いします。とさらに念を法明寺におくる。


「そうなんですね。私も正直、暁美の考えは尊重させてあげたいとは思っています。なので今日ここで法明寺さんとお会いして、法明寺さんの考えも聞けましたし、私としては、節度を守っていただければ、今後も引き続き暁美の面倒をみてもらえたら嬉しくは思っています」


「了解しました」


「それじゃ」


 早く会話の着地どころの持っていきたい暁美。結論を焦る。


「それじゃ、じゃない。まだ黙ってなさい」


「はい・・・・・」


「でもですね、やはり一点問題があります」


「はい。今回の無断外泊ですよね?」


「そうですね。私も暁美の性格も分かっていますので、事を大きくしないようにしてはいましたが、やはりあの3日間は心配でした。電話はいつでもでれるので連絡してください。なんて言っても電話はでないし、ラインと留守電だけ返答を終わらせようとをしますし」


 ふーっと、暁美をみて呆れとため息を出す真美に、あはは。と笑ってごまかす暁美。


「筧くん・・・・・・。俺もその辺の詳細は知らなかったなー」


 暁美に凄む法明寺。そんな二人して睨まれると困るんですけど。と言いたいばかりのごまかし笑いを続ける暁美。


「だって、法明寺さん聞いてこないし、正直、ちゃんとお母さん説得できてたわけじゃなかったし・・・・・・」


「だから、そういうのがダメだって言ってるのよ・・・」


 真美は注意はすれど、きつい言い方はしない。これが真美なりの暁美に対する対応である。真美なりにも暁美に対する遠慮があるのかもしれないと法明寺は思った。


「では、今後は、外泊系の案件は暁美さんは無し。ということでどうでしょうか?」


「えー、それはちょっと待っててくださいよ。法明寺さん。そんな事言って、結局、法明寺さん、私が絡まない案件を適当に仕事するんでしょ?」


「こらこら、今はその話はいいから」


 ツッコミを入れてくる暁美とそのツッコミをかわそうとする法明寺のやりとりをみて、真美は少し笑う。


「あはは。すいません。失礼しました。暁美の性格はわかってましたが、なんだかそんなに仲良くやっていただいているとなると私も少し微笑ましいです。

 暁美からもお話あったと思いますが、私たちの家族には父親がいませんので、父親なんて言ったら失礼かもしれませんが、暁美がどれだけ懐いているのかもわかりましたし」


「お母さん、わかってくれた?じゃー」


「だから、お前は白黒はっきりつけたがりすぎだ」


 法明寺は暁美にツッコミをいれる。ちぇーっと少しだけふてくされるように暁美は黙るが、この流れはいけるはずだと確信する。その少しにやけた顔を法明寺に見られて、またまた呆れさせてしまうことは言うまでもない。


「法明寺さん、私もそんなに真面目一辺倒な親な訳でもありませんので、外泊案件も法明寺さんの判断でさせてもいいのがありましたらさせてやってください」


「え?いいんですか?」


「はい。ただ私は暁美をちゃんと大学までは卒業させたいと思っているんです。今時、学歴にこだわったりするのも古いかもしれませんが、私自身がしっかりキャリアを踏んでこれたからこそ結婚して子供を産んでも、第一線での復帰もすることもできたと思っています。

 やりたい事をやらせてあげたい反面、後になって色々と勝手がきくようにしてあげたい親心があります。ですので、暁美はお題を与えたいと思います」


「なに、お母さん?」


「まずは絶対に留年しないこと。留年しそうになったらアルバイトは無しです。後は成績も下げないこと。成績は真ん中でいることが最低条件。もし真ん中以下になったら、次の成績で真ん中より上に行くまではアルバイトは無しです」


「えーーー。留年するほどは絶対休まないけど、成績のハードルが高い〜」


「ダーメ、です」


「うーーー」


「その中でうまくやれるというのであれば、お母さんは黙認します」


「嬢ちゃん、いいお母さんじゃないか」


 真美の条件にどうもハードルの高さを感じてしまう暁美であったが、真美と法明寺に囲まれていい条件を出してもらってるんだぞという空気感が、もう少し成績に関しては甘めで行ってほしい暁美ではあったけど、あまり調子に乗りすぎてダメってなってしまうのも怖いので、この条件で決めることにする。


「わかりました」


「おー、嬢ちゃんよかったな。こんないい親いないぞ」


「いえいえ、そんな、色々この子にも迷惑かけているところありますし」


 暁美は、法明寺と真美の持ち上げあいにしっくりこないけど、二人も会話の流れ的に気持ちなっていることだし、ここで変にあーだこーだ言って、話がこじれてしまうのも嫌なので、ここでファイナルアンサーとしておこう。


「それじゃ、法明寺さん、また明日からお願いします」


「おー、了解。でもしばらくは事務作業な」


「えー」


「えー、じゃない。色々、嬢ちゃん爆弾の後処理で大変なんだよ」


「うー、わかりました」


「法明寺さん、ありがとうございます」


「いえ」


「それでは、今日はこのまま暁美を連れて帰ります」


「了解しました。またいつでも気軽にいらしてください」


「ええ、そうさせていただきます」


 真美はソファから立ち上がり、暁美にあなたもいくのよ。と言う視線を向けて、暁美も立ち上がる。真美と暁美は玄関口に行き、法明寺が見送る。法明寺さん、お母さん、ありがとう。


「では、失礼します」


「法名寺さん、ありがとう」


「引き続きどうぞよろしくお願いします。お、嬢ちゃんもな」

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