第22話 東野万理案件、調査日三日目③

 ピンポーン。 


「はーい」


 ドキドキしながら玄関を開ける暁美。そこには神妙そうな顔をしている東野万理がいる。


「あ、お世話になります」


 東野万理は深々と頭をさげる。つられて暁美も頭を下げる。


「こちらへどうぞ」


「はい」


 廊下を歩き、扉を開けて、部屋に入り、ソファに案内する。法明寺はすでにさきほどの報告書を裏面にしてテーブルに置き一旦立ち上がり、手を差し出し、向かいのソファへ東野万理に座るよう案内をする。


「この度は、、、ありがとうございました」


 再び、東野万理はソファに座りながら頭をさげる。


「いえいえ、手前共は仕事でやっておりますので気にしないでください。ちなみに差額の金額はメール拝見されましたか?」


「はい。しました」


 東野万理が現金が入っているだろう封筒を出すと


「では、失礼いたします」


 法明寺は受け取る。


 封を開けて、現金と小銭を取り出し数え始める。この時間帯は沈黙の時間である。この間に暁美は、お茶を東野万理と法明寺にだす。


「はい。たしかに差額の金額を受け取らせていただきました。ありがとうございます。ではこちらが報告書になります」


 法明寺が渡す報告書を若干ビクビクしながら東野万理は受け取っているように暁美には、東野万理の後ろにいるが、感じ取れた。つらいな。。。。。


 報告書に目を通す東野万理。東野万理の目の動きを追いながら法明寺は話を続ける。


「その報告書を拝見していただきます通り、やはり旦那様は浮気をなさっているようです。疑惑を持っていた点と実際での違いの点でいますと、相手の女性の方は東京にいらっしゃった点と相手の女性の方にも家族があったということでした」


「・・・・・、はい。そのようですね」


「こちらが証拠画像になります。報告書に記載しているURLからもダウンロードできますので、後ほど拝見していただいても大丈夫ですし、こちらで一旦拝見していただいても大丈夫です。いかがなさいますか?」


「確認させてください」


「了解しました」


 順次、状況説明を報告書にあわせてしていく法明寺。特に相手の女性と一緒にホテルの部屋に入っていく画像に関しては、見た瞬間に完全に東野万理の動きが止まってしまっていた。


 しばらくの間、沈黙が流れる。


「こんなこと法明寺さんに話す話ではないかもしれませんが、、、、、私、結構早いタイミングで結婚したんですね」


「はい」


「っス、、、周りは、、、まだ、、、呑みに行ったり、、お、お茶に行ったり、ショッピングしていた時でも、、、子育てして、か、家族の為に、夫の為に時間を使ってきたんです」


 東野万理は涙をこらえながら喋っていたが、完全にすすり泣き声になっている。


「はい」


「わ、私の人生は、す、い、一体なんだったんですかね?すいません」


 これ以上は話せないと思ったのか、泣き崩れてしまう東野万理。こんな時一体どんな対応をしてあげたらのいいのだろうか?暁美は法明寺を見るが、法明寺は暁美と目があっても首を横に振るだけだった。俺たちにできることは何もないから、余計なことをするなよ。と言わんばかりの。




 しばらくの間、泣き崩れていた東野万理は、少しづつ落ち着きを取り戻してく。

 そのタイミングで暁美は、お茶を差し替える。お茶を差し替えるをみた東野万理は


「ありがとう」


 と暁美のほうをみてグチャグチャになった顔でお礼を言うので、暁美も少しだけ笑顔で会釈して返す。


「すいません。みっともない姿をお見せしまして」


「いえ、気になさらなく大丈夫です」


「これで一旦探偵事務所さんとしての仕事は終わりですよね」


「はい。残念ながら」


「そうですよね・・・・・」


「元々、当事務所を紹介してくださったメンタルヘルスプレイスの田中さんにもしよかったら相談なされてはどうでしょうか?手前共はどうしても調査しかできませんが、東野さんのお役に立ちたい気持ちには変わりませんので。

 もし情報開示に問題がなければ、こちらから田中さんのほうへ報告いれておきます」


「ありがとうございます。ぜひそうしていただいてもよろしいでしょうか」


「はい」


 また少しだけ沈黙の時間が流れる。きっと東野さんの中でこれから家に帰って旦那さんとしばらく一緒に過ごさなくはいけないので、その心の準備をしているのかもしれないと暁美は思った。


「それでは」


 東野万理が立ち上がる。


「はい。筧くん、玄関までお見送りして」


「はい」


 法明寺は立ち上がるが、ソファからは動こうとせずに、東野万理が会釈して玄関に向かうのを見送る。暁美は法明寺に指示された通り、東野万理を誘導する形で玄関口まで行き、靴を履いて、玄関を閉めるところまで見送る。


「法明寺さん、終わりました」


「あー、ご苦労様」


 タバコを吸っている法明寺。法明寺の向かいに座る暁美。


「おい、なんで嬢ちゃん泣いてるんだよ」


「え??泣いてますか?」


「泣いてんだろ?自分で気づいてないのか?」


 法明寺に言われて、暁美は自分の目の下に手を当てると涙が流れていることに気がつく。


「いや、なんか、きっと、東野さんの気持ちになっちゃったんだと思います。これでよかったのかなーって」


「そうだなー。追い込みかけるわけじゃないが」


「・・・・・、なんですか?」


「東野さんにとって、疑惑を明らかにすることと、疑惑はあっても、多少の愚痴をこぼしながらも旦那との生活をがんばってみたり、家族のために時間を使うことと、どっちがよかったのかなーって俺もプロの探偵の癖に思ったりするわけだよ」


「・・・・・」


「嬢ちゃんがさ、俺の心理カウンセラー業を否定した時があっただろ?」


「はい」


「あれはあれで、大義があることなんだってことを今回の案件で嬢ちゃんに知ってもらえたら俺はうれしいよ」


 法明寺は、タバコ吸いながら暁美を見て話す。その表情はいつもみたいに呆れていたり辛かっているのとは違う、何か優しい表情。


「法明寺さん」


「なんだ?」


「ズルいです」


「大人ってズルいんだよ・・・・・・。これでまたひとつお勉強になったな」


 しばしの間、また沈黙の時間が流れる。法明寺は手持ち無沙汰をなくすかのようにたばこを吸い終わり次第、また新しいたばこを吸う。


「嬢ちゃん、今日はもう帰りな。とりあえず学校を3日も休んでるわけだし、そっちはそっちで色々後処理があるだろ。嬢ちゃんへの経費精算は後々してやるから、諸々落ち着けてからまた来いよ」


 法明寺の言う、それはなんだか、これから本当に探偵やっていくのかどうかももう一回考えてみな。っという言葉にも聞こえてならなかったけど、暁美はその言葉を返すだけのものがなくなってはいた。


「はい。じゃ、お言葉に甘えて、今日は帰ってしばらくはちょっとゆっくりしますね」


「おーお疲れ」


 法明寺は、ソファを立ち上がり、トイレにいくのか暁美の前を横切る。横切る際に暁美の頭をポンポンっと優しくおいてくれて、そのまま廊下の壁伝いにあるトイレのドアを開けてはいる。


 暁美は、自分の中で整理できていない気持ちを抑えながら、法明寺がトイレに行っている間に、法明寺事務所を後にして家路に向かう。

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