第21話 東野万理案件、調査日三日目②

「おい、嬢ちゃん、おい」 


「あ、はい」


 体が揺れて、少しづつ意識が戻り目を開くとそこに法明寺がいる。もうすでに着替えていて、いつものカジュアルな格好になっていた。


「お帰りなさい。少し遅かったですね。そんなに遠かったんですか?」


「いや、そんなでもないだろ。それよりも相手方も既婚者だったわ」


「えーーーーーー、マジのマジですか?」


「マジのマジだ。っといいつつ、まー初めての嬢ちゃんには驚きかもしれないが実はよくあったりする話だったりはするがな」


「そうなんですか・・・・・・、なんか人間不信になりそうです」


「嬢ちゃんは探偵やっていく上では、少し物事の見方が純粋すぎるかもしれないなー」


 法明寺はデスクに座りノートパソコンを開き、パチパチと作業を始める。時刻は16時。暁美が眠る前に時間確認した時が15時半だったので、30分しか経ってなかったみたい。

 結構寝てしまった感があるのは、仮眠だけどしっかり寝れたのかも。それにしても体の疲れはピークに達してしまっているけど、法明寺は疲れをまったく感じさせない動きをしている。そもそも普段からそんなにエネルギッシュなイメージではないので省エネなのかもしれないけど。


「法明寺さん、疲れましたねー。今回の調査」


「あー、何言ってんだ。全然疲れるようなことしてないだろ。中の下くらいだぞ。案件の難度」


「あ、まー、そうですよねー。いや、おじさんだから疲れたのかなーっと思って言ってみただけです。私はもちろん疲れてないですよ」


 危ない危ない。ここで音を上げているように思われるとまずいまずい。


「はー?何言いたいんだかよくわからんが、まーいーや。とりあえずこれから作業報告関係まとめるから、眠いんだったら寝ててもいいぞ」


「作業報告書ってなんですか?」


「そうだよなー。嬢ちゃん、探偵業はおろか、社会人の経験もないもんな」


「えっへん」


「それ、古くねーか?」


「そうですか?」


「報告書ってのはな」


「へむへむ」


 暁美が法明寺の肩の上辺りに顔を近づけ、すぐ隣に法明寺の顔がある状態まで近づける。なんだかこのシュチュエーションも慣れてきてしまったけど、いいのかな。なんて思いながら。


「書いて字のごとくだが、尾行の文章での報告はもちろんの事、予定を作っていたと思うんだが、予定の対しての結果を時間単位で記載していき、その内容に付随するカメラのデータも綺麗に整理して依頼人に納品物として渡す。

 もちろん昨日も話した通り、違法スレスレな可能性のあるデータ等はあくまでも俺達の中でだけ保管しておく。使う機会はほとんどないが、裁判であったりお客さんとの信頼関係が崩れてしまった時に調査報告な用を疑われたりするので、そういった大きな問題が起きた時に見せるかどうかは検討する。

 提出する事はほぼ100%ないな。こちらのリスクが高すぎる。通常は残りの残金を振り込んでもらったり、現金受け渡しで一緒にその証拠を渡す形になるな」


「なるほどーなるほどー」


 パソコンのモニターを見ると、ちょうど法明寺が書き掛けの文字と、データファイルをネット上にあるフォルダからパソコンに落としている最中だった。


「それじゃ、すいませんが、育ち盛りで眠いので、少し報告書が出来上がるまで寝てていいですか?」


「おー、好きにしてていいぞ。お、ちょっと待て」


 法明寺はポケットからスマホを取り出して電話に出る。


「お世話になります。法明寺です。お世話になります。はい。旦那様の調査無事終了いたしました。はい。え??、これからですか?なるほど・・・。

 大変恐縮ながら通常はですね調査報告書をまとめるのに1週間ほどお時間頂いたりする事はご了承ください。

 あ、はい。大丈夫です。今から急いで作成しますので、東野さんがいらっしゃるまでに用意しておきます。

 もし後日足りない分等ありましたら、追って提出させていただきます。

 はい。了解しました。それではお待ちしております。あ、すいません。報告書とデータの受け渡しに関しましては残金の支払いに合わせてになりますので、もし現金で持ってきていただけるのであれば、はい。そうですね。

 それでは今から確定額を算出しますので、後ほど東様の携帯メールのほうへ明細と差額をお送りしますので、差額の現金の受け取りにあわせて報告書とデータをお渡しできればと思います。はい。それでは失礼いたします」


 電話を切り、またパチパチとパソコンをいじり始める法明寺。


「もしかして、今から東野さんいらっしゃいますか?」


「あー、そうみたいだな。ったく、本当は一週間くらいかけて作るんだけどな。しょうがねー」


「っとなれば、寝てられないですね。っとはいえ、やることないので掃除してます」


「おー頼むわ」



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 報告書


 この度の調査活動における東野万理様の旦那様、士郎様の不倫の疑いに関しましては、その事実を確認することができ、また証拠を押さえることもできましたので、ここにご報告させていただきます。


 当初のスケジュールと当日の動きの差異もあわせてご報告させていただきます。


・スケジュールと報告

初日(予定)

 8:00 自宅から調査開始

 9:30 東京駅から新大阪駅行きの新幹線

12:03 新大阪着

12:20 大阪着

2:00 尾行、チェックイン

初日(報告)

 8:00 自宅から調査開始(画像有)

 9:30 東京駅から新大阪駅行きの新幹線

12:03 新大阪着

12:20 大阪駅着、駅の近くの会社に対象者入る(画像有)

16:00 対象者、タクシーで20分くらいのところにアポイントメント

18:00 対象者、タクシーで会社に戻り、ホテルに移動。対象者は510号室。法明寺と暁美は514号室(画像有)

19:30 対象者、近くの焼き鳥屋に一人で入る。その後、合流する人は店を出る時も一人だったのでいない模様(画像有)

21:00 ホテルに戻る(画像有)

24:00 部屋から出る様子はなかったので、調査活動1日目終了


2日目(予定)

 8:00 ホテルから調査開始

2:00 尾行、チェックイン

2日目(報告)

 7:00 ホテルから調査開始、朝食

 8:00 対象者がホテルをチェックアウト、職場に向かう(画像有)

15:30 職場を出る(画像有)

16:10 新大阪駅から東京駅行きの新幹線、一応アリバイ作りの可能性もあるため、中途駅での下車確認もするが、東京駅まで

18:43 東京駅着

19:10 新宿駅着

19:30 ハークパイアットホテルで女性と待ち合わせ(画像有)

19:40 女性とともにチェックイン。5010号室(画像有)

19:50 ハークパイアットホテルの40階、和食料理屋で女性と食事(画像有)

22:30 和食料理屋を出る

22:40 対象者と女性が5010号室に入る(画像有)

23:20 性行為の音を外のドアから確認。調査活動2日目終了


3日目(予定)

 8:00 ホテルから調査開始

2:00 尾行

3日目(報告)

07:00 ホテルから調査開始

11:00 5010号室を出て、チェックアウト(画像有)

11:30 ホテルの近くのレストランに対象者と女性が入る(画像有)

13:00 レストランを出て対象者と女性が分かれるのを確認(画像有)

14:30 依頼者が家に戻るのを確認

15:00 女性が家に戻るのを確認。女性も既婚者であることを確認。録画画像あり(画像有)



 お見積もり金額1,030,000円(税抜)に対して


・確定額

初日  18時間(8〜26時)

2日目 19時間(7時〜26時)

3日目  8時間(7〜15時)

調査費用合計 90万円

諸経費

新幹線 14,450円×4

ホテル 25,000円、35,000円

レストラン 30,000円

諸経費合計 147,800円

合計

1,147,800円(税抜)

差額

117,800円(税抜)


画像データに関しましては、https://xxxx.xxxに保存されておりますので、IDxxxx,PASSxxxxを入力していただきましてダウンロードをお願いいたします。保存期間は1ヶ月となります。

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「おっし、できた。これを東野さんにメールして後は待つだけだな」


「できたんですか?見せて下さい。見せてください」


 法明寺のいるデスクにピョンピョン跳ねながら近く暁美。


「ま、こんな感じだな」


「ほぇ〜。これが調査報告書と値段ですね〜。ってか高いですね〜」


「何言ってんだ。うちは明瞭会計だからいいほうだぞ」


「そうなんですか。え、本当に明瞭会計ですか?」


「まー、多少、、、サービス料的なだな、、、」


 少しだけ目を泳がせながら、言葉を濁す法明寺を見て暁美は、まったくこのおじさんは・・・・・・、と呆れる。


「それでこれから浮気結果を伝えるんですよね・・・・・・。はぁ〜」


「おいおい、今からそんなんでどうすんだよ」


「だって〜」


 そうこうしていると時刻は17時過ぎ。もうすぐ依頼者東野万理がやってくる。

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