第20話 東野万理案件、調査日三日目①

 6時 


 暁美は、アラームをかけていなかったけど、起きる。隣のベッドをみると昨日と同じようなイビキをかきながら法明寺は眠っている。

 壮絶な調査活動だったなー。などと思いながら起き上がり、支度を始める。支度が終わるタイミングにあわせて法明寺を起こし始める。


「法明寺さん、法明寺さん」


 ゆさゆさ法明寺を揺らす。


「うが、、、、、んぉーーーー。ふぁ」


 パチッと目を開ける法明寺。ここ何日も同じシュチュエーションだと最早ルーチンワークである。


「お、おう、おはよう」


「おはようございます。相変わらずの安定の酒臭さですね。結構飲んだんですか?」


「あー、まーミッションコンプリート後は少しだけ呑んじゃうよな」


「昨日は、遠征地だとハメ外しちゃうとか言ってましたけど、結局呑みたいだけで、その口実を適当につけているだけなんじゃないですか?」


「・・・さすがだな、嬢ちゃん」


「なんだかんだこの調査遠征に限らず会ってる回数より少し少ないくらいでほとんど起こしてますからね」


「あー、まー、そうだなー」


 ムクッと起き上がり、ベッドから足を出す法明寺。


「あ、また、パンツいっちょ」


「おーすまん。バスローブ着てたんだと思うんだが、はだけてしまったようだが、もういい加減ギャーギャー言わなくなったな」


 悪びれも無く、ユニットバスに向かう法明寺。そしてそんな法明寺に対してツッコミをしなくなってしまった暁美。慣れとは恐ろしい。

 こちらもいつものルーチンで15分で準備を終わらす法明寺。相変わらず暁美の前でパスタオル一枚でシャワーから上がってきたりとデリカシーのない行動をする法明寺に、もちろんツッコむことをせず、景色として扱っている暁美。


「よし、いくぞ」


 声がかかった瞬間に景色から焦点をあわせると、前日に続きその辺にいる社会人っぽいかっこいい姿の法明寺が現れる。


「はー」


「何ため息ついてるんだ?」


「いや、だって明らかにおかしいシュチュエーションに慣れてしまっている私がいるんですよ。その自分がすこし嫌になって」


「何わけのわからんことを言ってんだ。とりあえず、カメラ設置してくるから、対象者が部屋を出るまではここで待機だ。俺は引き続きイヤホン聞きながら部屋を出るタイミングを見計らっとく」


 法名寺は小さい手提げ鞄を持ち、部屋の外に出る。暁美は気になったので外に出た法明寺についていく。


「あ、なるほど」


 法明寺背中から顔を出すような形で少し覗き込むと、小さい手提げカバンの中には小さいビデオカメラが入っていた。そのカバンを外の扉のノブに引っ掛け、そこカバンの一部に小さい穴が開いてカメラが覗けるようになっている。


「嬢ちゃん、なんでも好奇心いっぱいだな。中、戻るぞ」


「はーい」

 

 11時


 対象者と女性が部屋を出るのを、ビジオカメラの画像を遠隔モニターで確認できた。


「よし、5分くらいしたら俺らも出るぞ」


「了解しました」


 すでに準備を終わらせていたので、5分後そのまますぐ法明寺も暁美も部屋を出る。カメラの入った手提げカバンを回収し、5010号室の部屋の扉の軸側の扉と地面の間に仕込ませておいた薄い延べ棒盗聴機も回収し、エレベーターを降り、ロビーに出る。

 ちょうど二人は受付でチェックアウトらしきやりとりをしていた。


「筧、俺はロビーで待機しているから、お前が会計済ませてこい。対象者の移動が始まったらそこの尾行を優先するから、会計後、姿を見失ったら電話で連絡な。イヤホンマイクしておくから電話鳴り次第、その状態でやりとりできるようにな」


「わかりました」


 法明寺の指示通り、受付にいってカードキーを渡し、チェックアウトを伝えて精算をする。時間差は悪くなく、精算終わってロビーを振り返ってもまだ法明寺はソファに座っていて、暁美と目が合い次第、顔を少し傾けたので、そちらのほうに移動しながら合流するぞ。という意味なのだと察して暁美もホテルの出口に向かって歩き始める。その先には対象者と女性がいる。

 ホテルを出た二人は、近くのテラスもあるカフェレストランに入る。法明寺と暁美は入り口を確認できて、入り口の視線の直線上でないビルのエントランス付近で張り込みする。


 13時


 二人がレストランを出る。その場で二人は分かれる。


「嬢ちゃん、俺は、女性側を追っていくから、嬢ちゃんは対象者を追ってくれ」


「え??いきなりピンプレーですか?」


「ここ2,3日で嫌ってほど張り込みしたから大丈夫だろ?」


「大丈夫だろ?って大丈夫ですかね〜」


 心配そうにテンパる暁美をみて


「仮に対象者にいいがかりつけられたら、この人痴漢です。助けてくださいとか叫べば大丈夫だ。もう抑えてるところ抑えいてるし、気軽に行ってこい」


「が、がんばります」


「それじゃ、のちほど事務所でな。対象者の尾行終わったら事務所に向かってくれ」


「了解です」


 対象者を新宿駅から追う。対象者の視線の直線上に入らないように、視角に入らないように、距離は気持ち見失わないように10mくらいで尾行していく。ひとりでもやってみると意外に慣れたもんで、対象者が無事に依頼人の家に戻るのを確認した。


「ふー、尾行完了」


《尾行完了しましたよ。無事。というのが正しいかわかりませんが、無事家に戻りました。私は今から事務所に向かいますね》


 特に法明寺からの返答はない。まだ調査中なのかな?などと思いながら、これにて人生初めての調査活動の終了に達成感と結局不倫をしていた対象者への嫌悪感と依頼人へのこれからその事実を伝えなくていけないと思うと少し切ない気持ちとが入り混じり、すこし睡魔に襲われながらも電車に揺られて法明寺事務所に向かう。

 あ、そういえば、法明寺さんの事務所の鍵ないんですけど?っと思ったもの、もしやもしやなんて思いながら法明寺事務所まで行き着き、恐る恐る玄関を開けて見てると・・・・・・、開く。

 あのおじさんはもう、本当に不用心極まりない。

 玄関を開けて、廊下を歩き部屋の扉を開けると、まだ数回しか来ていないはずなのに、どこか落ち着きを感じさせてくれるいつもの事務所スペースにたどり着く。


「あー、づがれたー」


 暁美はソファに飛び込むように寝転がる。時計をみるともう15時半。なんだかんだ今日もあっというまに終わりそうだなー。なんて思いながら、瞼が落ちたり落ちなかったりを繰り返し、睡魔に完全に負けてしまう。

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