第17話 東野万理案件、調査日二日目②

 9時 


 法明寺が暁美の元に戻ってくる。カバンを二つ、暁美の分も含め持ってきている。


「法明寺さん、どうしたんです?ホテルに戻って?」


 暁美もなんとなく感づいていたが、そのまま聞いてみる。


「対象者は、今日、チェックアウトしてたな。依頼者から聞いている内容と違うな。ちょっときな臭くなってきたぞ」


「まじですか?」


「あーまじだ」


 すごい、一気にワクワクとドキドキの興奮が止まらなくなってくる。本当は何もないに越したことはないんだけど、やっぱり探偵業というのは、刺激も求めるものかしら。心なしか法明寺さんもモードに入っているように暁美は思えた。


「とりあえず、朝メシでもこしらえてくるか。コンビニでメシ買ってきな」


 法明寺は財布から英世さんを出し、暁美に渡す。さきほどの諭吉さんを返せよ。という無言のメッセージをもらい、暁美は財布から諭吉さんを法明寺に返す。


「法明寺さんは、何買ってきたらいいですか?」


「昨日と同じでパンを2,3個とコーヒーで」


「了解しました。あとですね・・・・・・」


 ちょっとだけ暁美はモジモジしてみる。


「なんだよ」


「せっかく大阪に来たのに、コンビニご飯しか思い出がないのは切なすぎるので、たこ焼き買ってきていいですか?」


「あ、そんなことか、そしたらいったんコンビニでメシ買ってきな。それ食べてから、対象者が出てこなかったら買いに行っていいぞ」


「やったー。法明寺さんありがとう。好き」


「もしたこ焼き買ってて、対象者がタクシー乗ったら筧、置いていくからな。自分の経費でタクシー乗ってこいよ」


 反応みたくて好き。っと軽く言ってみたけど、スルーされた。まー、ドキマギされても困っちゃうけど。なんでこんなこと言っちゃうのか暁美は自分でもわからないけど、なんとなく反応みたくて言ってしまう。法明寺はそのままスルーして、一度回収した諭吉さんを再度暁美に預ける。


「ん」


「あ、万が一のタクシー代ですね。ありがとうございます」


 コンビニで法明寺のパン3個とブラックのコーヒー、暁美のおにぎり2個とお茶を買ってきて、二人で別の場所に張り込みしながら食事を済ます。


《法明寺さん、食べました》


《たこ焼きだろ?行ってきていいぞ》


《はーい。法明寺さん入ります?》


《いらん》


 つれないなーと思いつつも、暁美の頭の中はたこ焼きでいっぱいである。

 大阪 たこ焼き と検索すると出て来る出て来る。欲をかいて時間とられすぎたら本末転倒なので、近場で探す。あるある。はなたこ、写真を見ても明らかに美味しそう。決まり。

 はなたこは大阪駅から徒歩4分ほど。少しだけ並んでいるけど、5分も経たずにたこ焼きが買えた。6個、420円。これはさすがに自分のお小遣いから買わないとなので、暁美のお財布から英世さんを取り出して店員さんに渡す。

 戻りながらたこ焼きを食べる。本当は戻ってからベンチに座って食べたいけど、この瞬間にも法明寺から連絡が来てしまったら、たこ焼きさんとのお別れを告げなくてはいけないので。


 一口、ふーふーしながら食べる。いただきます。


 あ、あ、熱い。熱いけどおいひい。きっと大阪というロケーションも重なっておいしさが倍増しているに違いない。おいしいし楽しいー。本当は法明寺とも一緒にこの喜びを暁美は味わいたかったけど、求めすぎちゃいけない。これはこれで楽しもう。


 ほくほくのたこ焼きを6個頬張り、元の場所に戻る。ご馳走様でした。


《ただいま戻りました。たこ焼きおいしかったです》


 既読スルー。なんか言ってくれてもいいじゃんか。プンスカプンスカ。

 なんだかんだでボーッとして、ボーッとして、ずーっとボーッとしてたら昼になった。


《昼メシ食うか?》 法明寺から暁美にラインがくる。


《またコンビニメシですよね?》 


 暁美に電話がかかってくる。法明寺からだ。


「はい、筧です」


「コンビニメシは嫌なのか?」


「うーん。そうですね〜。朝もガッツリ食べちゃいましたし、たこ焼きも食べちゃったので、昼はパスでいいです」


「途中で腹減っても知らねーぞ。どのみち俺は食べるから同じの買ってきてくれ」


「はーい。また同じの食べるんですか?飽きないですか?」


「飽きる飽きないの話じゃないからな。筧、何気に食にうるさいやつだな。そんなんじゃやっていけないぜ」


「へいへーい。意識します」


 電話を切り、法明寺のところに行き、さきほどのお釣りともしもの時のタクシー代を返し、また英世さんをもらってコンビニへパンを買いにいく。

 一応法明寺に言われたことを頭に入れつつ、おにぎりだけを一つ買ってカバンに入れようとしたら、昨日、夜食用に買い置きしておいたおにぎりを発見する。完全に忘れてた。

 法明寺にお釣りとパンとコーヒーを渡し、暁美は定位置に戻る。このままずっと同じ位置で張り込みするのは嫌だなーなんて思いながら、またボーッとしたりしていたら陽気な天気も重なりコクリコクリと睡魔に襲われてきた。


 15時半


 そんなこんなしていると、電話が鳴る。法明寺だ。


「対象者が出てきた。こちらに急いで合流しろ」


「わかりました」


 急いで、法明寺のいる位置に向かうが、法明寺から先に行くと言われたので、法明寺の元にいる位置まで行き、そこから見回して、法明寺の後ろ姿が見えたので、小走りで合流する。

 法明寺の横にひょこっとつく形でお互いに目だけを合わせて言葉は発さずにそのまま対象者と30mほど距離をとって尾行していく。

 驚いたのは、対象者はそのまま大阪駅から新大阪駅、新大阪駅で新幹線の切符を発券し始めたこと。

 法明寺は昨日と同じようにどの時間の新幹線の何両目の席をとったかを横で聞いて、昨日と同じように隣の両の新幹線の座席を取る。16時10分発、のぞみ240号。


「こりゃ、ほぼほぼ黒に近いづいてきてるな」


 そう言った法明寺の目は輝いていた。これが調査活動の醍醐味なのかもしれないと暁美はそんな法明寺をみて自分の気持ちにも問いただしながら思った。依頼者さんにはなんか申し訳ない気持ちだけど。


 16時10分


 のぞみ240号に乗り込み、法明寺と暁美は席に座る。対象者はもちろん乗り込みのタイミングで席についているを確認している。

 最初は感動したアナウンスも逆バージョンで確認し、これまたしばらくはのんびりタイムなので、少しだけ疲れがたまってきたのもあって、暁美はスマホにアラームを設定して寝ようとしたが


「イレギュラーな行動もあるので必ずしも東京で降りるわけじゃないから見張っておかないとな。俺は寝ないけど、筧、眠いなら寝ていいぞ」


 そう言われてしまったら寝られるわけないでしょ。暁美は睡魔を押し殺して


「法明寺さん、私を新人扱いしないでください。起きてますよ。起きてます」


 暁美はそう言って、アラームを消す。


 いやいやいや、まだ二日目だし、ど新人だろ。暁美の謎の張り合いに、コメントを返すのは、ヤブヘビと法明寺は思い、黙ってスルーする。

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