第16話 東野万理案件、調査日二日目①

 調査日2日目 6時

 

 ピピピ、ピピピ


 スマホのアラームで目が覚める。


 ムクッと起き上がる。隣には、法明寺がイビキをかきながら寝ている。


 あ、そういえば、母に電話するのを忘れてた。法明寺おじさんのせいで。っと無理やり法明寺のせいにして自分のミスの帳尻を自分の中で暁美はつけようとしてみて、ユニットバスのトイレにスマホを持って移動する。


 ププ、プププ、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プツ


 留守電に変わってしまった。


「あ、お母さん、暁美です。昨日は電話返せずにごめんなさい。明日には帰ってきますので、心配しないでください。また時間見つけて電話するね」


 逆によかったかも。母も電話で直接話をしてしまうと、そーかわかった。と少し言いづらいところもあるかもしれないし。


 それじゃ、母ミッションもクリアしたし、隣でイビキかいているおじさん起こして、調査活動2日目を開始いたしますか。あ、でもその前に準備を先にしてしまおう。起きている時に準備するのはさすがに恥ずかしい。着替えとメイク道具を持ってユニットバスに入る。鍵はしっかり締めて、シャワーを浴びる。


 6時45分


「法明寺さん、法明寺さん」

 ゆさゆさ法明寺を揺らす。


「うが、、、、、んぉーーーー。ふぁ」

 パチッと目を開ける法明寺。そういえばこの起き方にも最初はびっくりしたけど、すでに慣れてしまった。この人突然目を開くんだよね。そして起きたては少しだけかわいい。って、暁美は一体何を考えているんだ。昨日あたりからこの思考、まずいまずい。


「お、おう、おはよう」


「おはようございます。ちょっと酒臭いですよ。結構飲んだんですか?」


「あー、まー遠征地は少しだけハメ外しちゃうよな」


「はー、さいですか。もう7時なんで早く準備してください」


「嘘つけ、10分前だろ」


「はい。嘘つきました。なんとなく嘘ついてみました」


「ったく」


 ムクッと起き上がり、ベッドから足を出す法明寺。


「ちょ、だから、なんでパンツいっちょなんですか?」


「あ、すまん。バスローブ着てたんだと思うんだが、はだけてしまったようだ」


 悪びれも無く、ユニットバスに向かう法明寺。この人絶対脱ぎ癖あるよ。変態だよ。変態と一緒に一晩過ごしちゃったよ。

 例によって、15分で準備を終わらす法明寺。相変わらず暁美の前でパスタオル一枚でシャワーから上がってきたりとデリカシーのない行動をする法明寺だけど、もうツッコむことに疲れてしまったので、スマホをいじって、法明寺の方を見ないようにしていた。


「よし、いくぞ」


 振り向くと、前日に続きその辺にいる社会人っぽいかっこいい姿の法明寺が現れる。


「ん?」


 マジマジと暁美を見てくる法明寺。


「な、なんですか?」


「今日はちゃんとメイクできてるな。えらいえらい」


 そういって暁美の頭を撫でてくる。ちょっと嬉しかったが、嬉しい顔をするのは負けた気がするので、その手を振り払って


「当たり前ですよ。なんでも吸収できちゃう年頃なんで」


「なんだそりゃ」


 法明寺のツッコミはそのままスルーして


「それじゃ、いきますか?」


「おう、いこうか」


「この後はどんな動きをしたらいいですか?」


「まずは、対象者が部屋にちゃんといるかどうかの確認だな」


「どうやって確認するんですか?」


「このホテルは、ハウスキーピングしていいぞ。ダメだぞ。っていうのがドアのところに反映されていたと思うから、その確認で大丈夫だろ」


「そういうのがないホテルだったら、どうやって確認したらいいんですか?」


「それは、ずっと見張っておくしかないな。その場合はもっと早めに起きたりしないとな」


「なるほど、特殊スキルとかはないんですね」


「ないな。現実なんてそんなもんだ」


「さいですか。。。。。」


 少しがっかりしている暁美をみて、法明寺は少し笑う。


「なんで笑っているんですか?」


 ちょっとだけムッとして暁美が聞くと


「いやいやいや、なんでもない」


「なんでもなくないです。私が気になるんですけど」


「そしたら、どこかでゆっくりとな、そろそろ出かけるぞ」


「あ、はい」


 うまい具合に法明寺に流された。


 法明寺と暁美は、514号室をでて、510号室を通り過ぎる。横目で見ると、【Do Not Disturb】のランプがついている。エレベーターを待って、ロビーに降りる。


「法明寺さん」


「なんだ?」


「【Do Not Disturb】ってなんですか?」


「あー、あれは起こさないでください。ってことだな。ってことから対象者はまだ部屋にいるな」


「それじゃ、この後はどうすればいいですか?」


「とりあえず、ロビーと外で分かれて待機しておくか。嬢ちゃん、ロビーにいていいぞ」


「あ、嬢ちゃんになってる」


「悪い悪い。まだ頭が寝ぼけてるかもな」


 暁美は、ロビーのソファで待機し、法明寺は外で待機する。そういえば、お腹減った。朝ごはんは無しかな?暁美はボーッとしながらご飯のことを考えて時間を潰す。


 7時半


 対象者がロビーに降りてきて、朝食が食べられるお店に入っていった。


《対象者が降りてきて、ご飯食べてます。私もご飯食べたいです》 ラインで法明寺に送る。


《移動中、どこかのコンビニでなんか買うか。引き続き、そこにいろ》 法明寺からまたコンビニ宣言される。


 うー、なんか初日は気にならなかったけど、やっぱり大阪にいるんだからお好み焼きとかたこ焼きとか食べたい。どこかでチャンスを伺って法明寺への提案を試みることを誓った暁美。


 8時


《対象者が、ご飯食べ終わって、受付にいます。なんかキャリーバッグ持ってますよ》 法明寺に報告。


《ん?、それはなんかきな臭いな》 法明寺から返答。


《え?どうきな臭いんですか?》 暁美は法明寺に送るが特に返答なし。


 対象者が受付を終えて、入り口に出てきて、歩いていく。暁美も対象者の視界から外れたことを確認した上で、法明寺に合流し、二人とも対象者の尾行を開始する。


「筧、いまからライン通話をした状態でイヤホンに繋いでおいてくれ。俺は一旦ホテルに戻るから、もしタクシーで移動したりとかしたら、すぐ他のタクシーに乗り込んでおっかけてくれ。多分歩いていることを考えると普通に出社だろうけど、一応な」


 そう言って法明寺は暁美に一万円札を渡す。


「これはもしもの時のタクシー代だからコンビニでご飯買うなよ」


「わかってますよ。私、どれだけガッツいてるんですか?」


「はは、わりぃ、わりぃ、一応な」


 法明寺と分かれて、暁美は距離を20mくらいにして対象者を追いかける。本当はもっと空けたほうがいいのかもしれないけど、いきなりの単独行動なので、ちょっとだけ見失うことを考えると怖くて、普通より近づいてしまう。

 法明寺の想定通り、対象者は自分の会社に出社したようで、ホテルから歩いてしばらくすると会社のビルに入っていった。


《対象者、自分の会社のビルに入って行きました。昨日、法明寺さんがいたあたりにいればいいですか?》


《そうだな、そうしてくれ。俺ももう少ししたら、そっちに合流するよ》

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