第15話 東野万理案件、調査日初日④
19時半
対象者がホテルから出てくる。もちろん、対象者の視覚に入らない位置で、法明寺と暁美は配置している。このホテルは入り口が一つだったので、二人で別々の位置に配置する必要はなかった。
対象者を再び尾行すると、ホテルの近くの焼き鳥屋に入って行く。
「ここで誰かと待ち合わせって感じじゃなさそうだな」
「そうなんですか?」
「あー、まー、若者にはわからないかもな」
「なんですか、それ?ちゃんと教えてくださいよ」
「いや、こればっかりは別にからかっていってるわけじゃないぞ。店の作りとか雰囲気とかそういうのがあるんだよ。女性と待ち合わせして食事する様な場所じゃないってことだよ。
仮に女性とかと待ち合わせしているとするならば、男女の関係じゃないか、もしくはそこを通り過ぎたもっと深い関係かだな。今回のケースにおいては、後者のほうは絶対ではないが考えにくいので、まー十中八九一人でメシ食ってるって判断してもいいだろう」
「すごいですね。店だけでそこまで判断できるんですか?」
「あ、これは、多分、探偵とか関係ないぞ。ある程度年齢いってるやつなら誰でもわかると思うぞ」
「そうなんですね」
「ま、とりあえずそんなこっただから、腹も減っただろうから、コンビニでなんか買ってこい」
「やった」
「片手で食えるものな。弁当とか間違っても買ってくんなよ」
「はーい。法明寺さんは何がいいですか?」
今度は、諭吉さんが財布から飛び出してくる。これはきっと英世さん以上の買い物をしてもいいんだ。ということを暁美は感じる。
「俺は、適当にパン2,3個とコーヒー買ってきて。筧は食べたいもん買ってきていいよ。領収証忘れずにな」
「了解しました」
どう考えても法明寺の分と暁美の分を考えても少し英世さんが足出るくらいな気はする。暁美としては、勿体無い。もっと使いたい。っという気持ちもありつつも結局食べられない量を買っても怒られるだけな気はするし、ちょっとだけ夜食用にパンやおにぎりをカバンに入れられる分だけ買っておこうと思う。
21時
対象者が出てくる。
先ほどコンビニで買ったパンやおにぎりを頬張りながら、待っている間、暁美はやや疲れが出てきていた。探偵業はとにかく張って張って張って張る仕事なんだなーなんて思いながら、再び対象者を法明寺と尾行していくと、普通にホテルへ戻っていく。
「おし、部屋に入るまで見ていくが、ここは結構また見られると大変だったりするから、ロビーラウンジで座ってまってろ」
「了解です」
法明寺を見送り、ぼーっとする。なんだか疲れたなー。緊張しっぱなしがこれほどまでに疲れるとは思わなかった。今日1日を振り返りながら、ドキドキとワクワクの興奮とヘマをしてはいけないという緊張感に完全に心身共に、今はふわふわした状態になっていた。待っている間、ちょっとだけ睡魔が襲ってくるとスマホがブルブルする。開くと
「うげ」
今来たラインは法明寺の上がってこいという内容だったけれど、それ以外の母からの電話が着信がすごい。考えてみたら電話はいつでも出るので安心してください。って言っていたのを忘れてた。母はそこそこ空気が読める人なんでラインでの連絡はなかった。どうした?何があった?とは言わないところが母の許容の大きさであるが、やっぱり心配だよね。それを物語る量の着信の数だった。
《お母さん、ごねんね。今、スマホみました。もう少ししたら電話します。ごめんなさい》
一応ラインだけは母に打っておいて、法明寺のラインにも
《今向かいます》
っとだけ、打ってエレベーターで5階に向かう。
《先部屋に入ってるから、呼び鈴を鳴らしてくれ》
そう返答来たラインをみて、あーやっぱり同じ部屋なのね。っと暁美はうなだれてしまう。さすがにここへきて、法明寺おじさんが何かしてくるとは思わないけど、さすがに同室は緊張しますよー。暁美の初めてが、法明寺おじさんに取られていくー。っと心の中で一人ツッコミをしながら部屋の呼び鈴を鳴らす。
ガチャ
「おー、お疲れ。ちょっと早いけど、今日はもう調査活動終わりだな。俺はこの後呑みにいくけど、一緒にどうだ?ってわけにはいかないもんな。腹はもういっぱいってことで大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、その前に法明寺さん、その前に一言言うことありませんか?」
「ん?なんだ?」
これを女性に言わせるのか。と法明寺を一旦表情で訴えけて見るが全然伝わっている様子はなし、少しだけ深呼吸をして、これを言うことは間違っていない間違っていないと心の中でつぶやきながら暁美は法明寺に問いかける。
「なんだって同室じゃないですか?JKと同室ですよ?犯罪ですよ?」
「ははは。でたなJKと犯罪。まー部屋の中で二人っきりなのでその発言を見逃してやろう」
いや、そう言うことじゃねーし。暁美はさらに続ける。
「これも経費の問題からの常識的な話なんですか?」
「いや、全然常識じゃねーぞ」
「え、だったら二部屋とってくださいよ。なんですか?狙って一部屋なんですか?言っておきますが、私、小さいころ格闘技習っていたので、そこそこ強いですよ」
一応、戦う体勢にはいって、シャドーボクシングを始めてみる暁美。もちろん本当に身の危険があるとは思っていないけれども、少しはそういった感情を与えているということを法明寺には自覚して欲しかった。
「おいおい、一体誰と何を持って戦おうとしてるんだよ。単純に二人で泊まれるツインのデカイ部屋を確保したほうが、そこに泊まる客は少ないから柔軟性を加味して取っただけだ。
だから言ったろ。同じ5階での部屋を取るのに駄々こねて少し時間かかっちまった。って。駄々こねただけで部屋変えてくれるほどホテルも優しかねーからな。
あまり埋まらない部屋でちょっとアップグレード促せば対応してくれる部屋を取ったってだけだ。その部屋が二人のツインだったから一部屋でいいかな。っと。
あと、なんだかんだ嬢ちゃん、一人にしておいて間違って補導なんかされた日にはそれこそ大変だからな。だから目の前に置いておこうかと思っている意味も兼ねてだな。どうしても嫌なら別に部屋とるけどどうする?」
戦うモードをぞんざいに扱われ、交渉の末にそうなってしまった事。ここは正直ちょっと怪しいけど、一人にしておいて補導とか言われてしまうと確かに何も言えない。ただ経費の問題じゃないってことであれば、ここでもうちょっとプッシュしたら別の部屋にしてくれそうだけれども、恥ずかしいので別の部屋を取ってください。っとは、最初の約束である女であることを甘えにするな。っと暁美は法明寺から言われていたことに該当してしまうようで言いたくなかった。
「わかりました。じゃ、いいです」
「なーに、ふてくされてんだよ。俺が、嬢ちゃんみたいなションベン臭い女に何か変な気を起こす子なんてことはあり得るわけないだろ」
「はーーー!!アッタマきた、それはいいすぎですよ。今から私を女として感じさせますから」
「って、おいおい、ちょっと待て」
そう言うとベッドの上に座って、照明のある台に灰皿をおいてタバコを吸っている法明寺に抱きつく暁美。
むっちゃ恥ずかしいけど、売りことばに買いことば。どうだー。
「・・・・・」
「・・・・・」
「っで?」
そう言うと、法明寺はたばこを灰皿において、両手で思いっきり、暁美の両腕を掴んで抱きついた体を離す。
「え?」
「え、じゃないよ。嬢ちゃん何がしたいんだよ。探偵になりたいのか、俺の女になりたいのか、わからんやつだな」
「はぁ!!ふぉ、ほ、法明寺さんの女になりたいなんて思っているわけないじゃないですか?」
「じゃ、そのわけのわからん行動をやめろ。面倒くさい」
うーーーーーー。むかつく。ここまではっきりと無反応されるとむかつきすぎるけど、暁美も大概に何がしたいんだと冷静になると恥ずかしくなってくる。
「ま、とりあえず、俺はもうちょっとだけ部屋のあたりを張り込んでから、何もなさそうならその流れで呑みに行ってくるな。嬢ちゃん、その間に色々支度して寝とけ。あ、明日7時に起こしてくれ。頼むな」
そう言って法明寺は部屋を出て行ってしまった。悔しすぎるけど、それ以上に恥ずかしすぎるのでもう、さっさと準備して寝てやる。っとよくわからない反抗心でシャワー浴びて、着替えて、まったりして、そのまま暁美は寝てしまった。母に電話することを忘れて。
ふーーーー。嬢ちゃん、本当困ったやつだな。余りからかいすぎるのも考えようだな。
法明寺は、大阪の街を歩きながら、さきほどの暁美の行動に少しだけ自分を戒めるように考えふけて夜の街にとけてこんでいった。
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