第14話 東野万理案件、調査日初日③

 11時55分


 ピンポンピンポポン


「まもなく新大阪です。東海道線と地下鉄線はお乗り換えです。今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございました。新大阪を出ますと次は新神戸に止まります」


「よし、出る準備するぞ」


「はい」


 法明寺の言葉にあわせて、暁美は、ゴミを網にいれ、席を立ちトートバッグを肩にかける。奥側に座っていた法明寺も席を立ち、カバンを持ち、新幹線の扉の前に向かい、暁美もその後ろをついてく。


「じゃ、続きもがんばろうか」


「はい」


 扉が開くと、法明寺は一目散に出てホームの反対側まで歩くので暁美もついていく。対象者が階段を下りていく姿を見つけて、人が多いのもあって法明寺は10mくらいの距離感で対象者を尾行していく。


 改札を出て、新大阪から大阪までの乗り換えもさきほどの調子でとにかく対象者の視界に入らないポジショニングをキープしながら距離を測って、もちろんこちらの視界から外れないよう尾行していく。


 12時20分


 大阪駅着。大阪駅のすぐ側にあるビルに対象者の会社があるようで、対象者がビルに入りエレベーターに乗るところまでを見届ける。


「さすがに一緒のエレベーターはきついですか?」


「そうだな。まー対象者がこのビルの会社で働いているのはわかっているから行き先もわかるしな。一緒に乗る必要はないだろ。ここは高層で結構でかいビルでエレベーターも何機もあるからエレベーターに乗るところの近くまでは追えるしな」


「それでこの後はどうするんですか?」


「このビルは両サイドに出入り口があるので、俺たちも両サイドに分かれておこうか。幸いにもビルの外に座れるベンチらしきものもあるからそこに座って待っていればいい。

 待っている間飲み物飲んだりトイレ行ったりしたいだろうから、まずは飲み物は今からその辺のコンビニで買ってこい。トイレ行くときはライン送れ。見張る配置を変えて一人で観れる位置で見張っとくから」


「えー、恥じらいのある女子がお手洗いを男性の方に言うのはものすごい気がひけるんですが・・・・・・」


「じゃ、今のこの瞬間から尾行活動やめて、乙女の恥じらいを主張してろ」


「嘘ですよ。嘘です。最初の頃に女であることを捨てろって言われたの覚えていますよ。少しでも緊張をほぐすために言ってる冗談ですよ。そんなに怖い目でみないでください」


 法明寺があまりにも怖い形相でツッコんでくるので、暁美が両手で顔を隠すようにバタバタ動かして誤魔化す。法明寺はツッコミを入れた後、少しだけため息をつき、あわてているように見える暁美をみて、別の言葉をかける。


「緊張してんのか?」


「さっきから言ってるじゃないですか?してますよ」


「そんな緊張するようなことしてないだろ?」


「だって、もし私のヘマとか対象者さんにバレちゃったりでもしたら、悔やんでも悔やみきれないですよ」


 暁美が少しだけ目を赤くして法明寺に言う。法明寺は、そんな暁美の心情を少しだけ察したのか一瞬だけ目を合わしたがすぐそ逸らして


「わかった。わかった。じゃ、緊張がほぐれるようアホなことを言うのを許可してやる」


 そう言って、暁美の頭をポンポンと叩いた。


「ありがとう。法明寺さん」


「そういうのいいから、とりあえず飲み物買ってこい」


「あはは、照れてる、照れてる」


 法明寺が千円札を使って暁美を振り払うように動かすと、その千円札をとって暁美がちょうどビルに入る前に見かけたコンビニに向かっていく。


「あ、法明寺さん、何買ってくれればいいですか?」


「適当なブラックコーヒーを」


「了解しました」


 16時

 

 対象者がビルから出てくる。法明寺が張り込みしているビルの外側のほうの出入り口から出てきたためラインで法明寺から暁美に戻ってくるよう指示をする。


 対象者がいきなりタクシーに乗って移動したため、法明寺が走り出し、暁美も走ってついていく。対象者がタクシー乗り場から乗ったため、同じくタクシー乗り場から飛び込むように法明寺と暁美は乗り込み、


「すいません。一個前に出たタクシーを一つ車挟んで追っかけて、そのタクシーが止まったら、少しだけ通り過ぎて、左か右に入ったところで止めてくれ」


「は??お客さん、何言っとるかわかりまへんが、都度言ってもらえたら対応しまっさ」


 うわー、初リアル関西弁トークだー。すごい感動するー。心の中で暁美は関西弁への感動を叫ぶ。


 法明寺や暁美が乗ったタクシーは対象者が乗ったタクシーを一定の車間距離や車を挟み追っかけていき20分ほどしたところで、対象者が降りたのを確認し、


「運転手さん、一旦そのまま走ってもらって、次の信号を左に曲がって」


「はいよ」


 法明寺は対象者が降りた場所をタクシーで通りすぎる際に、コンパクトな鏡で対象者がビルに入っていく姿を確認している。


 左に曲がり、タクシー料金を払って降りた法明寺と暁美は元の道に戻っていく。


「鏡でバックを確認とか。かっこいいですね」


「あ!!ま、全員が全員やるわけじゃないけどな。一応、ビルが並んでいるし、手堅く確認しておうほうが無難だろ」


 たしかにそうなんですが、暁美からするといちいちのそういった行動がかっこよすぎる。


 対象者が入ったビルがそこまで大きいビルでないのと入り口が一つの方向にしかなかったので、そのビルが視界に入る喫茶店を見つけそこで尾行を続ける。


「ねえ、法明寺さん」


「なんだ、疲れたのか?」


「んーん。なんか私、足手まといっぽくて申し訳ないなって思って」


「あ!!、そんなこと思ってんのか?筧は何気にプライドが高いんだな」


「そんなことないですよ。なんでそこでプライド高いの話になるんですか?」


「だってよ、ズブの素人が調査に同行して、最初から何の役にも立つわけないだろ。最初から役に立てると思っていたら、大きな勘違いだし、自分がどれだけできるんだって。思ってよ」


「まーそう言われてしまうとその通りなのですが」


 図星すぎてグーの音もでない。シュンとしておく。


「まーそれこそドラマや漫画みたいな何かを期待しているならそれはほとんど起こらないことだからやめておけ。だからこそ当たり前だが、ズブの素人が最初から何か役に立つこともあるわけないんだけどな」


「わかりました。じゃ、さっきのアホ発言と同じ類の発言だと思って聞き流してください」


「はは。自虐するようになったじゃねーか。まーいいことだ。色々吸収しろよ」


「はーい」


 18時


 対象者がビルから出てくる。対象者が再びタクシーに移動を始める。法明寺と暁美も続くタクシーに乗り込み、続けて尾行する。

 対象者は一度会社に戻ったので、さきほどの配置と同じ位置で、法明寺と暁美も配置する。同じ場所の配置になるだけで、少し緊張が解ける具合がどれほどのものか。少しだけ慣れた感を自分の中で楽しむ暁美だった。

 再び、対象者がキャリーバッグを持って、会社のビルから出てくる。さきほどと全く同じ行動なので、法明寺側の出入り口から出てきた。

 これで暁美側だったりすると緊張してしまって連絡とかもあわててしまいそうかも。などと思いつつも法明寺に合流して、人通りもそこそこなので、30〜40mほど空けて、視界はもちろんのこと、直線上にも入らないよう尾行する。しばらくついていくと第二大阪ホテルに対象者が入って行く。


「部屋番号聞き伸ばすとやばいから俺だけ予約済ませてくるな。一応対象者への接触距離が近くなるから、筧はホテルのロビーラウンジで座って待ってろ」


「わかりました」


 そう言うと法明寺はそのまま走り出して対象者のすぐそばまで近づいて、受付をしている。

 ロビーのラウンジでソファが並んでいたので、そこに座り待機する。

 しばらくすると法明寺が戻ってくる。


「対象者は510号室だ。同じ5階での部屋を取るのに駄々こねて少し時間かかっちまった。514号室の角部屋が取れたから張り込みもしやすいな」


「よかったです」


「それじゃ、俺らはそのまま部屋には入らずに対象者がホテルの外に出てくるを待とうか」


「はい」


 ん?あれ?ちょっと気になることが、514号室がとれたから張り込みしやすいしな。って言っていたけど、暁美の部屋番号は聞いていない。

 もしかして、張り込みするためだけに部屋の予約を取っただけで、宿泊自体は別のところに泊まるのかな?それとも二人同室ってことはないよね?

 またこんなことを聞いてしまうと怒られてしまいそうな気もしなくもないので、これは聞かずにその状況になるまで一旦黙っておこうと暁美に心の中でだけツッコミをとりあえず入れておくことにする。


「なに、目をつぶって腕組んでうんうん一人でうなづいてなんだよ。お前ってちょっと変なやつだよな?」


「え、あ、え、そんなことないですよ。今、一人でうなづいてました?」


「あー、首、ブンブン振ってたぞ」


「いやー、見なかったことにしてください」


「何言ってんだか」


 暁美は、完全に自分の中で消化しようとしていたことを行動に出してしまっていたことに法明寺に指摘されてから気がつき、恥ずかしくなった。


「お、対象者さんがホテルから出てくるぞ」


「はい」

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