第13話 東野万理案件、調査日初日②
8時
依頼人のマンションのエントランスが凝視できる位置で、駅とは違う方向の建物の前に待ち合わせの振りをした法明寺が立つ。
マンションの逆側の非常階段側の出口から同じように駅とは違う方向の建物のエントランスの中で待ち合わせの振りをした暁美が立ち、張り込み開始。
「いいか、今回は出張も兼ねているので、立ち張りがメインになる。立ち張りってのは、言葉の通り、立って張り込みをする行為だ。
基本的に対象者の視界に入るのはNGだ。人通りが多いところなら10m近辺もあるが、基本的には30〜50m、場合によっては70〜80mだ。
対象者の視界に入らない対角、斜め、歩道なら反対側にいたほうがいいだろう。
今回はマンションやビルが並んでいる中での張り込みだから風景に溶け込みやすくやりやすいが、一軒家で住宅街とかになると基本は車を用意して、車の中は無人を装って見ていくしかない。
2名体制でも大人二人なら対象者が出てくるのを見計らって、人通りの多いところまで車を走らせて、そこから二手に分かれて車を置きに行く担当と引き続き尾行担当と連携が必要になってくる。今回は嬢ちゃんだともちろん、運転担当も尾行も担当もできないが、まーくっついているだけで大丈夫なようなプランにしてあるので安心しろ」
「そうなんですね。ぼったくりじゃなくて本当に2名必要なんですね」
「当たり前だ。嬢ちゃんは探偵に憧れているわりには探偵の行動を疑ってかかるよな」
「いえ、探偵の行動ではなくて法明寺さんの行動に対してです」
「お前、もうこのタイミングでクビな」
「嘘です。嘘です。心理カウンセラーがなかったらそこまで疑わないです。私のせいじゃないです。法明寺さんのせいです」
「ったく。心理カウンセラーもひっぱりすぎだ」
対象者の家の前までに移動中、そんな形で調査方法を教えてもらっていた。
とにかく暁美がすべきことは法明寺の邪魔にならないように同行して調査しつつ、二手に分かれる時は比較的簡単な方を担当する。
「対象者が出てきたな。こちらの建物に戻ってこい。戻ってき次第、ついていくぞ」
「はい」
8時10分
対象者がマンションのエントランスに出てきたことを確認。対象者は駅の方向、マンションのエントランスを背にして右の方向に向いて歩いていく。
法明寺と暁美はイヤホンでライン電話のやりとりできるようにしていたので、ライン電話で指示をし、暁美に法明寺のほうに合流させ、左側のビルのエントランスの中で誰かと待ち合わせするような素振りで待機していたので、ビルを出入りする人から疑われることもなく、対象者の移動に合わせて尾行開始。
「駅までの尾行は一直線だから簡単だな。人通りもそこそこ多いが、一応今回は嬢ちゃんもいるので、肉眼で捉えられる距離まで測って尾行しようか」
「了解しましたです」
駅に入っていく姿を見て、少しだけ歩くスピードを速める。
「このタイミングは、対象者が見えなくなるからな。少しだけ早歩きで急げ」
「はい」
駅の改札を交通系ICカードで通過する。当たり前だが、こちらも事前にちゃんとICカードのチャージをするように法明寺のから暁美に、以前指示されていた。
「とりあえず、一万円くらいはチャージしておけ」
「はい」
法明寺から一万円を受け取る暁美。
「あ、領収証ちゃんともらっておけよ」
「了解です」
ホームも比較的人が多い駅だったので、階段で上がっていく途中、ホームが見えてきた段階で、対象者の姿を確認する。
階段から上がってくる方向の視界の先に対象者はいない。後ろにくっついてきている暁美に法明寺は耳元で囁く。
「向かい側だな。一旦俺が上がりきったタイミングでアイコンタクトするから、嬢ちゃんは、ホームまでは一気にあがらずに、ホームに顔が出るくらいの地点で少しだけ待機して、アイコンタクトを見たらホームまであがってこい」
「わかりました」
法明寺がホームまであがり反対側を見た瞬間に、階段のところにいる暁美にアイコンタクトを投げて、反対側にはいかずに階段の出口を出た先の方面に向かって歩いていく。
つまりは、対象者のいる方向と反対方向である。反対側とはいえ、対象者はそこまで遠くにいなかったのかもしれない。距離をとるために出口を出た先の方面にいくんだと暁美は思った。
暁美も階段の出口を出て、対象者がいるであろう反対方向には振り返られずに、法明寺のほうについていく。
「・・・・・」
法明寺は何もしゃべらないので、暁美も黙っておく。対象者のほうを向いてみたいけど、法明寺から余計な行動を慎めと言われていたので、妙明寺に並んでまっする線路のほうをみて、列に並ぶ。
そうこうしているうちに、電車がきたので、法明寺と一緒に乗り込む。
法明寺が電車に入り、扉と席の端にある背もたれの場所を確保し、暁美にこいこいと手振りしてついてこさせる。
ラッシュまではいかないにしろ、そこそこ人が入っている中、法明寺に横並びする形で対象者のほうを自然に向いてみる。
いた!!
いるのは当たり前だが、ずっと見れていなかったので、確認できたことにテンションがやや上がる。
自分達がいる位置から対象者は反対の2ブロック先のつり革に手をかけているために、対象者の視界からは、暁美達の姿は入らない。
一回、乗り換えタイミングで電車から降りるが、人がそこそこ多い為、対象者から20〜30mの距離の斜めの距離感で歩いていく。
ホームで並ぶ時も同じ距離感で視界に入らないように意識し、電車に乗り込む。
電車に乗り込む時もポジショニングは大事。今度は四角のほうはとれなかったけど、対象者の視界に入らない位置での確認ができた。
ここからは東京駅まではこの電車でいけるので、一旦、一息つきながらこのままの状態で尾行を続けてく。
9時10分
東京駅に到着、対象者が9時30分のぞみ21号博多行きの新幹線の切符を購入しているのを距離を販売員の言葉で認識し、法明寺と暁美も購入。
ここでは距離が近づけなければならないが、人が相当多いので視界に入らないことを意識していればそこまで問題ないようだった。
9時30分
対象者が新幹線のぞみに乗ったことを確認し、法明寺や暁美も乗る。
席は隣の車両の席であるため、たまにトイレに行くタイミングで対象者を確認しつつも、一旦新大阪までの2時間半は、しばらくゆっくりできるタイミングである。
席に着き、暁美は法明寺のほうをマジマジと見る。
「一旦、目立たない程度に全然喋っていいぞ」
「ふーーーーー、すっごいここまでで疲れました」
「ここまで。っていうほど何もしてないだろ、お前」
「いやー、すべてが緊張ですよ。もう心臓バクバクです」
「はは。まー最初のうちはそんなもんか。そのうち慣れるだろ」
「今のところは、私、問題ないですか?」
「あー、問題は、その気の張りようだけなんとかしてくれないか。ばれちまうよ」
「え??、そんなことで、気づかれたりするんですか?」
「嘘だよ。嘘」
「おじさん・・・・・・」
「あ、おい、おじさんとか外では言うなよ。俺も外では嬢ちゃんって言わないから、お互いに気をつけような」
耳元で囁くように話してくる法明寺。先ほどのホームの階段の時もそうだったけど、少し恥ずかしい。
「う、うん、了解です」
「何恥ずかしがってんだよ。頼むぜ。筧」
「わかりましたよ。あんまり惑わせないでください」
「惑わしてないだろ。全然」
お互いの格好といい、若作りした法明寺といい。少しだけ暁美は法明寺を意識してしまっている。このおじさん、まーまーちゃんとするとかっこいいんだよなー。
「今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は、のぞみ号 博多行きです。途中の停車駅は、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪、新神戸、岡山、福山、広島、小倉です」
しばらくてして、法明寺は本を、暁美はスマホでパズルゲームをやっていると
「お弁当、飲み物、お菓子、いかがでしょうか?」
売り子さんがカートにお菓子から飲み物から御弁当までいろいろな物を入れて、席と席の間の通り道を歩いてくる。
「法明寺さん」
「わかったわかった。そんなキラキラした目で俺をみるな」
暁美にとっては始めての駅弁。まさか初めての調査活動の流れで初めての駅弁を経験することになるとは思わなかったけど、こんな経験もいい経験である。法明寺と暁美の前に来たタイミングで手をあげて、メニューを売り子さんからもらう。
「メニューはこちらになります」
暁美は、メニューをもらって、マジマジと見る。御弁当欄にて鯖の棒寿司を見つける。鯖の棒寿司の駅弁か何かを一度、テレビでタレントさんが食べているのを見たことがあってあこがれていた。
「鯖の棒寿司弁当とウーロン茶お願いします」
「俺は、カツサンドとホットコーヒー」
暁美の注文にあわせて法明寺が注文を入れる。メニューを見ていない。ぐぬぬ。これが大人か。大人って奴か・・・。
「かしこまりました。全部で2,376円になります」
「はい。領収証お願いします」
法明寺が支払い、暁美がカツサンドと鯖の棒寿司を受け取り、カツサンドを法明寺に渡す。ウーロン茶のペットボトルを売り子さんから受け取り、ホッとコーヒーを受け取った後、法明寺に渡す。
「筧、鯖の棒寿司とかって渋すぎるだろ」
「え、鯖、美味しくないですか?シメ鯖とか大好きで」
「呑んベー舌だな」
「いいじゃないですか、はい、あーん」
「あーんじゃねーよ。いらねーよ」
「何、恥ずかしがってるんですか?J・・・」
っといきなり口を押さえられる暁美。
「ふー」
「お前、JKって言おうとしただろ。調査中ってことを忘れるなよ。余計なやりとりで職質とかされたらたまらんからな」
暁美の耳元で小さくつぶやく法明寺は、言った後に、表情でも頼むぞ。と言わんばかりに念を押し、周りを見てから抑えていた口を離す。
「あ、そうでした。ごめんなさい。ハシャギすぎました」
そしてまたドキドキしました。やめておじさん。っと心の中でだけ暁美はツッコミを入れてみる。
「とりあえず黙って鯖食っててくれ」
「はーい」
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