第11話 初めての相談者④

「法明寺さんの連絡先教えてください」


 二点目は、想定したよりもはるかに柔らかい内容で、構えていた法明寺としては、肩透かしであるものの、気持ちとしてはものすごく助かる。


「お、おう連絡先だな。確かに交換してなかったな」


「はい。交換してませんでした」


 どうも人を惑わせるような言動がある子だよな。と法明寺は思いながらも、暁美とラインと電話番号の交換をする。


「ありがとうございます」


「それじゃ、気をつけて帰れよ」


「はーい、帰ります」


 法明寺は暁美が玄関まで出て行く姿をソファから見送る。


「法明寺さん、じゃあね」


「おー、じゃーな」


 まるで友達とバイバイするような口ぶりで暁美はドアを閉める。

 



 ふー。うるさいのがようやく帰ったか・・・・・・。これからあの子がばら撒いたメール爆弾を処理していかなければ。

 本来ではあれば、あの爆弾娘を面倒見てやる義理なんかないんだが・・・・・。

 法明寺の中で何かしらの心の変化があったのか、始めはただの探偵に少し興味あります程度の子供を、からかいがてらに絡んでみれば、いつのまにか色々かき回されるはめに。

 しかしながら振り回されている自分が嫌でないことに気づき始めている法明寺は、不思議な感覚だった。

 俺もあの子のように、探偵にしか救えない事があるんだ。って追求するのか?

 ふん。馬鹿馬鹿しい。


 そう思いながらも、暁美が探偵紹介します。とばら撒いたカウンセラーメールの後始末を粛々とし始める。




 次の日


 暁美は、学校帰りにまた法明寺事務所に寄る。週明けまで来なくていいとは言われたけれど、家に帰ってもそわそわしてしまいそうなので、法明寺探偵事務所で時間をつぶす事にする。


 ドアを開ける。廊下を歩き、扉を開ける。左手前にあるデスクでノートパソコンをパチパチを忙しそうにしている法明寺がいる。


「お!!嬢ちゃん、何しに来たんだ?忘れ物か?」


 暁美のほうを見ることなく、パソコンのキーボードを打ち続ける法明寺。


「いえ、何も忘れて無いですけど、家に帰ってもやることないので、ここに来ちゃいました」


「来ちゃいました。って・・・・・・」


「あ、お茶飲みます?」


「あーさんきゅー。って、嬢ちゃん完全にこの空間を支配してるな」


「そうですか?まー私、溶け込むの早いですから」


「そーかい。俺は、その溶け込むのが早い誰かさんのせいで大忙しだから今日は構っててられんぞ」


「大丈夫ですよ。っとうか、私、そんなに法明寺さんに構ってもらった記憶無いんですけど。。。。。今日はここで勉強してますね。学校これからいっぱいサボっちゃうので、勉強内容を先取りしておかないと。点数のよさでなんとかカバーしないとですね」


「・・・・・」


 うけ答えるのが面倒くさくなったのか、法明寺は黙り始める。暁美もそれを察して、特に言葉を続けなかった。嫌な顔をされないのであればそれでいいかな。と。


 二人の間で沈黙が流れつつも、法明寺はデスクの上でパソコンで雑務処理を。暁美はソファの下に腰掛、テーブルに教科書やノートをおいて勉強する。


 そうこうと2時間ほどたったタイミングで法明寺が言葉を発する。


「お!!、東野さん振込みしてきたぞ」


「え、まじですか?やった!!じゃ、調査開始ですね」


「まてまて、落ちつけ。まずは東野さんに連絡だ」


 パソコン覗きにきた暁美の頭に軽く左手でチョップをかまし、右手でスマホを持つ法明寺。


「いて」


 本当は大して痛くないけど、一応痛いって言っておく暁美。


「あ、お世話になります。東野万理さんの番号でよろしいでしょうか?法明寺です。あ、はい。振込み確認できました。お振込みありがとうございます。これ調査準備を始めていこうと思うのですが、昨日お話させてもらった旦那様の週明けからの出張の行動予定はわかりますでしょうか?」


 法明寺は、スマホを右耳と右肩で挟みながらキーボードをパチパチし始める。


「はい。8時に出発。東京駅から新幹線ですね。詳細時間までは。はい。大丈夫です。わからない部分はこちらで対応いたしますのでご安心ください。

 昨日のご説明では飛行機の費用の話をしておりましたが、新幹線となりますと、やや経費が足が出ますので後ほどご清算お願いいたします。

 はい。宿泊ホテルは第二大阪ホテルですね。はい。了解しました。それではいただいた情報を元に私共のほうでタイムスケジュールを組みたいと思います。はい。ありがとうございます」


 東野万理と電話で話している情報を入力しているのか、ノートパソコンにパチパチと打っている法明寺。電話を切った後もそのまま引き続きパチパチ打っている。


 法明寺がしている作業が気になる暁美は、法明寺の邪魔にならないようにパソコンを覗き込む。




・スケジュール

初日(予定)

 8:00 自宅から調査開始

 9:30 東京駅から新大阪駅行きの新幹線

12:03 新大阪着

12:20 大阪着、チェックイン

2:00 尾行


2日目

 8:00 ホテルから調査開始

2:00 尾行


3日目

 8:00 ホテルから調査開始、チェックアウト

2:00 尾行




「これ、予定ですか?」


 暁美は法明寺の邪魔にならないように覗き込んでいるが、法明寺からすると自分の顔の隣になかなかに近い距離で寄せてくるのが少しだけ、微妙な心持ちだった。少しだけ暁美の顔があるほうの逆に体勢を傾ける。


「あーまーそうだな。予定というよりは、当日ここに活動記録を記載していく形だな。今の時点ではとりあえず決まっていることの大枠だけ記載ってところだ」


「なるほどですね。これが予定表としての完成系だったらありえないですよね」


「当たり前だろ。小学生だってこんな予定表だったら怒られるぞ」


「ははは。たしかに」


 暁美には、法明寺の後ろから覗き込む姿勢から、ソファの下に戻って座る。


「それじゃ、私は帰りますね」


「なんだ?家に帰ってもやることないからここに来たんじゃないのか?」


「あれ〜。法明寺さん、寂しくなったんですか?」


 ニヤニヤしながら法明寺に聞いてみる。居たら居たで面倒くさいけど、鋳なかったら居なかったらで寂しいってやつですかね?かわいいおじさんだな〜。


「JKがいるいないで寂しがるわけないだろ」


「JK、JKって、法明寺さん、JKを舐めすぎですよ。大人と子供の狭間の大事な貴重存在ですよ。いわば法明寺さんは、大人の女性と子供の女の子との時間を場面場面で垣間見て、両方楽しめているというすごいお金払っても得られない大事な時間を過ごしていることを忘れちゃいけませんよ」


「お前は、、、本当、、、一体何を言ってんだ・・・・・。本当に絡めば絡むほど、アホさが露呈されるな。そしてやや危ない発言が混ざりすぎだから気をつけなさい」


 呆れた様子でため息混じりに返す法明寺。


「アホさが露呈じゃないですよ。愛嬌って言ってください。危ない発言は人前では禁止ですけど、二人の時は大丈夫じゃないですか?」


「人前ではもちろん、二人の時も禁止だ」


「はーい。意識しておきます。人前でこんなやりとりしていたら法明寺さん職質されちゃうかもしれませんね」


 勉強の片付けを終えて、帰る支度が終わった暁美は、法明寺の前に立ち


「それでは、筧暁美、帰ります。明日からは本当に来ません。安心してください。あ、寂しいけど我慢してください。の間違えか」


「はいよ〜」


 引き続きパソコンをいじり続けている法明寺がなんだか、いじらしく見えてくる。母との関係は悪くないけど、こんなに距離感が近いほうでもないので、父やいないけど兄弟のような親近感を求めているかもしれない。もちろん家族とJKだなんだ。ってやりとりなんてしないけど。

 そう思うと暁美は、法明寺との絡みは探偵業を覚えるってこと以外でも得られるものが多くてうれしい。


「それじゃ、週明け、7時くらいにここに来たらいいですか?」


「おー大丈夫だ。何か変更内容があればこちらから連絡する」


「わかりました。ではでは、お疲れ様でした」

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