第10話 初めての相談者③
玄関がしまったのを確認すると
「ふー、お疲れ」
そうとだけ言って、たばこを吸い始める法明寺。この人はどこでもたばこを吸うんだ。もうちょっと歩けば、いつも吸っているソファの前に戻れるのに。
「うー、煙い」
「何言ってんだ嬢ちゃん。ずっと吸ってるだろ。いきなり煙いとか言うなや」
「いや、廊下って狭いじゃないですか?だから煙の匂いが直接来るんですよ。どこでもかしこでも吸うのやめません?」
「なんだ、嬢ちゃん、たばこ嫌いなのか?俺は、たばこと酒と女はやめられんのだよ」
「うわー、そのセリフ、キモい」
「ははは。っで、初の相談者はどうだった?」
ソファに戻り、奥側に座る法明寺。手前に座る暁美。暁美は座りながら、法明寺と東野万理が飲んだお茶を片付けてまた立ち上がり台所に向かう。
「興奮しました。やっぱり心理カウンセラーで説き伏せるように言いくるめるなんてダメですよ。
東野さんはきっとここで相談に乗ってもらって先に進まないと一生苦しんでいたと思います。私自身振り返っても辛かった時、誰も助けてくれてなくてそのままが続いていたらと思うとゾッとしますもん」
「そうか・・・・・」
相槌だけうち、それ以上何も言わない法明寺は、ふーっとだけ、たばこの煙を吐き、ぼーっとする。このおじさん、私の言いたいこと伝わってるのかな?
「これからは、今まで法明寺さんが、適当に言いくるめていた相談者さん達の問題を全部解決していきましょ〜」
おー。っと右腕を上にあげる暁美に、ノーリアクションでたばこを吸っている法明寺。もはや見てすらいない。
「法明寺おじさん、そんなにめんどくさがらないで。ね!!」
暁美は、法明寺が座っているソファまで駆け寄り、ゴマをするようにしてご機嫌を伺う。
「嬢ちゃん、テンション高すぎてうざいぞ」
暁美に近寄られて、たばこの火を灰皿で消しながら、暁美の方向とは別に体を反らす法明寺。
「えへへ。だってようやく念願叶っての探偵業ですよ。高校生の分際で。とまでは言われて無いけど、どこも行くところなくて、自分の感性を信じてやってきた探偵事務所は、最初ゴミ屋敷みたいでえらいところだと思ったし、雇ってもらうのも交渉しなきゃだったし、いざ手伝ってみると心理カウンセラーまがいのことをして探偵業全然してないし。
法明寺さんがここまで受け入れてくれたのもあるけど、前に進めてうれしいです」
暁美の素直な喜びと笑顔にどうも調子を狂わしてしまう法明寺。
「とんでもない言われようだが、一応尊敬が含まれている表現として捕らえて良いんだよな?」
「はい。もちろん」
「お、おう。そうか・・・。嬢ちゃん、興奮しちゃったみたいだしな。おじさんも興奮してきたよ」
「うわー、法明寺おじさん。。。。。そのフレーズをJKに使うのはちょっとまずいと思いますよ」
近づいた暁美は、その言葉と共に法明寺から離れて、台所まで逃げる。台所に逃げついでに湯飲み等の洗い物を始める。
「ふ、JKの分際でおじさんを誑かそうなんて、文字通り10年はえーよ」
「じゃー、私の10年後は、法明寺さんは、私の言動にメロメロになるわけですね」
「なんねーよ。ってか自分でJK言うなや」
「いいんですよ。女子高生って言葉を自分で言うほうが嫌ですよ。ってか、興奮からくだりが全然適当じゃないですか。子供だと思って完全にいい加減な対応しているのがバレバレですよ」
あはは。と笑いながらやりとりをしてて、最初の頃に感じていた子供扱いにイライラすることもなく、法明寺の内面が色々見えてきて面白いなーなんて思ってきた暁美だった。
「あれ、ところで」
「調査費用の見積もりが2名になっていたじゃないですか?これって私の分ですか?」
「あー、調査ってのは本来2名か3名体制でやるんだ。ものすごい高度な調査を求められた時は3名だな。でも大概は2名で問題ない。もちろんその2名も同じ2名で何日も何日も調査していると対象者にバレやすくなったりもするから基本は交代制だ。
うちみたいに俺一人でやっているやつは結構いるので、基本的は案件をシェアするような形でお互いがお互いの調査を投げ合ったりして、俺たちは仕事を回している」
「へー、そうなんですね。メモメモ」
「っで、どうするんだ?もう一名は嬢ちゃんやるか?、それとも今回は流れを見届けるか?」
「私、調査の参加していいんですか?」
「あまりにも無様な調査しかできなかったら外すがな。だが、どのみちいつかはやらなきゃいけないことだ。
早いか遅いかの違いだ。もちろん依頼者から予算もらってやる大事な仕事だ。あまりにもお粗末だったらすぐ外す。だが別にまた新しいチャンスはやるよ」
「やったー!!法明寺さん、いい人ですね。もちろんやります」
「いい人って言うか。こんな感じでからませていかないと、そもそも嬢ちゃん、一生調査なんてできないぞ」
「たしかにそうですよね」
法明寺にとっては当たり前の発言かもしれないけど、チャンスを段階踏んで提供してくれていることに、暁美は感謝を隠せない。恥ずかしいから言わないけど。
「ところで」
「なんだ?」
こいつまたメンドクサイこと言いそうだなーと思われているのは、法明寺の顔を見ているとなんとなく伝わってくるが、暁美は、ここは言っておかないといけないと思いつつ、拒否されたら嫌だなーという気持ちもありつつ、もじもじしてみる。
「調査費用二人分もらうわけですし、私も半人前というか完全なる初心者ですが、他の人に調査頼むとそこそこ費用かかると思いますし」
「ふーん・・・。思いますし?」
法明寺はこのあと何を言われるか分かっているいるみたいだけど、自分からは何も言ってくれない。ケチおじさん!!と、暁美は心の中で叫びつつも続ける。
「あのー、交通費と宿泊費。つまりは経費だけでいいのでいただけないでしょうか?高校生の身分で数万円とか厳しくてですね」
申し訳なさそうに経費をお願いしてくる暁美をみて、法明寺は笑う。
「ははは。まーそうだな。最初の段階で、俺の事件の補助なら取り分はなしだ。お前が自分でやりきった事件なら取り分は折半だ。それ以上を求めるなら独立しろ。俺のフォローが入った瞬間に俺の補助と同じ扱いだ。つまりゼロだ。っと言ってたな。
あれは嬢ちゃんの覚悟を少し試していたところはある。そのルールは変わらんけど、経費に関してはもちろん持ってやる」
「本当ですかー?よかったです。これで経費は自分持ちなって言われたら、私は親の財布から拝借する人間としての最低の行動に出るところでした」
「おいおい。行かないって選択肢はないのかよ」
呆れたように右手で頭を参ったなーの姿勢で抱える法明寺に、全力で喜びきる暁美。暁美にとっては法明寺とのやりとりでさえチャレンジなので、法明寺の一挙手一投足が一喜一憂してしまう。
「学校は大丈夫なのか?」
「もちろん風邪名目で休みます。前にもいいましたけど、大学までしっかり出るつもりです。母には大学卒業は希望されてますし。
どうしても進学が厳しくなりそうだったらそのタイミングで母に相談して、通信制の高校に転入します。どこにいたってしっかり勉強していれば大学はいけますし」
なんの迷いもない暁美の説明に
「親でもない俺がツッコミをいれるのは間違っているか。この問題は親と話すべき内容だから、これ以上は俺はツッコまない。うまいことやれよ」
そう言ってやることが、法明寺にできる最大限のエールである。
「法明寺さん、ありがとうございます。うまくやりますから安心してください」
「その前のめりが全然安心できないけどな」
法明寺はそう言いつつも、少しだけ口元を緩めながら、にやけている口を隠すように、またたばこを吸い始める。
「大丈夫です大丈夫です。ではでは、この後は何をしたらいいですか?」
「切り替え早いな」
「切り替えの早さには自信あります。時間は有限ですからね」
「社会人みたいな事言うんだな・・・。とりあえず俺は、嬢ちゃんが勝手に返信してしまった相談者達の後処理をしなくちゃいけないので、今日はここまでとしようか。
後、嬢ちゃんはこの東野さんの案件に集中しようか。週明けからってことなので今週はもうお休みな」
「えー」
「えー。じゃない。俺は、嬢ちゃんの後処理もしなくちゃいけないんだ。今週はもう大人しくしていてくれ」
これ以上は勘弁してくれと、法明寺に表情で迫られ、致し方がない。っと暁美は思いつつ、もちろんここまで色々対応してくれたことにも感謝しつつ
「わかりました。じゃ、今日はこの後大人しく帰って、週明けに備えます。あ、二点だけお願いがあります」
「ふー。これ以上、俺に何を求めるんだよ」
もう勘弁してくれっと言葉には出さないものの、ため息とともに肩を落とす法明寺。
「そんなこと言わないでくださいよ。一点目は、もう心理カウンセラーで、効率よく稼ぐのはもうやめてください。逆にこれだけ高い費用を払ってでも自分の納得感を求めるのが相談者さん依頼者さんなので、調査相談乗ってあげて、どうしてもお願いするのが厳しいってなったら、また心理カウンセラー田中さんに戻してあげればいいと思います。
何もないよりは相談の拠り所があったほうがいいと思うので。後、すごく高いです。あくまで調査までは必要ないとか、予算的に厳しそうだ。って思っている人向けのサービスにしてあげてほしいです」
「いやまー、そうは言うけどな。色々と仕事にはコストパフォーマンスっていうがあってだな」
「メール処理なら覚えてきたら私がやりますから。もちろんそうなった時は勝手に調査相談には持っていかずに法明寺さんに相談決めますから」
「・・・。わかったよ。少しでも割りに合わないと思ったら戻すからな」
「はい。大丈夫です。これからは思ったことバンバン言います。間違っているかもしれないけど、間違っていないこともあると思うし、本音でぶつかっていかないと法明寺さんが変わってくれるとは思わないので」
ピースして、笑顔で語る暁美に、法明寺も受け入れざるをえない。
「二点目は」
「二点目はなんだ?」
法明寺は、もう好きにしてくれと言いたくなるところまで来ているが、二点目の暁美の内容を少しだけ喉をごくりをさせながら待つ。
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