第9話 初めての相談者②

「旦那様の次の出張タイミングはいつでしょうか?それとも今もうすでに出張中でしょうか?」


「いえ、今はこちらにおります」


「なるほどですね。それでは、次の出張タイミングから、または次以降のどこかの出張タイミングを狙っていきましょう。

 後ですね張り込みするタイミングもなるべく抑えられるだけ抑えたほうがいいと思いますので、もちろん出張に行かれる分が半月分くらいですよね?

 すべて予定抑えて張り込みしてしまうのか否か。すべての日数を張り込みしてしまいますとかなりの費用がかかってしまいますので、東野様のここが怪しいんじゃないかと思うところをピンポイントで攻めていくのもいいかと思います」


「そ、そうですよね。。。。。」


 思い悩む東野万理を見て、法明寺は


「もちろん、まるまるでも大丈夫ですよ。どこまで行っても東野様のご納得が大事だと私は思っていますので」


 暁美に対する雑な対応と比較してしまうと、こそばゆく感じてしまう法明寺の丁寧な説明にも慣れ始めたきた暁美は、変わらず法明寺と東野万理を交互に見ながらやりとりを頭に叩き込んでおく。本当であれば逐一メモっておきたいくらい。

 あくまでの東野万理の納得感が大事であることを繰り返し説明する。この点とか結構重要なのかもしれない。話をしていく中で、どんどん自分の意思とは違う方向に物事が向いてしまった時にそれを止める術がないとどうしても最後は何か腑に落ちない形になってしまうので。

 しばしの沈黙を置いて、東野万理は手帳を取り始める。旦那さんの予定がそこに入っているのだろうか。手帳をじっと見ながら、うーんと考えているような素振りをする。


「・・・・・、一応、出張がですね。短期のが頻繁に入る時とまるっと入ってしまう時とあるのですが、今の時期は短期のが頻繁に入っているタイミングなので、次の出張が週明けからでして2泊3日入っています。まずはそこからお願いして、何も出てこないようでしたらまた次もって形でお願いしていく方向でよろしいでしょうか?」


「もちろん大丈夫です。それでは一旦2泊3日でお見積もり出しますね。経費の見積もりも必要になります。今回はどちらの出張でしょうか?」


「大阪の梅田になります」


「大阪の梅田ですね。了解しました」


 法明寺がノートパソコンをパチパチいじり始める。この間、暁美はお茶を東野万理と法明寺の分を新しいのに変える。見積もりを作り出しているところでも法明寺の本質を暁美としては、要チェックしておきたいところである。

 心理カウンセラーで小遣い稼ぎしているよう奴だ。相場の価格帯をちゃんと出してくるのだろうか?なんだかんだでやっぱりボッタクリ探偵事務所だったらここで茶々いれてやろう。

 暁美は事前にネット検索で興信所の相場を確認してあった。ここで相場と違う値段を出しようものなら、その場で相場と違いますよね?所長。うちはいつからこんなボッタクリ探偵になったんですか?って言ってやろうかと思ってる。

 絶対に不正は許さないぞ、厳しい監視官ような顔で監視しているぞ。と言わんばかりの顔つきで法明寺を見る暁美。

 ノートパソコンをパチパチ弄りながらも暁美の視線を感じたのか、一度だけ暁美と法明寺は目が合うがそのままなんの表情もせずにまたすぐパソコンに向き合って作業する。


「はい。できました。今プリントアウトしますので、少々お待ち下さい」


「はい」


 ジジジと音がするほうを見るとノートパソコンが置いてあったデスクにプリンターがあり、そこから紙が出てくる。この流れで見積書とかを出すんだな。へむへむ。この流れも覚えておかないと。


 法明寺はプリントアウトが終わったタイミングで


「筧さん」


 とまた暁美を呼ぶ。紙を取って東野万理に渡せってことですよね。了解しました。でもこんな1Rの小さい事務所で助手っぽい使い方ってあんまりかっこよくなくないですか?っと心の中でだけツッコんでおきながら、


「はい」


 っと、法明寺と意思疎通がしっかりとれていますよ助手を演出すべく、台所からノートパソコンが置いてあったデスクに向かい紙を取り出し、裏面を天井に向けて、法明寺に渡す。

 

 お前、ちげーよ。って顔を法明寺にされる。あ、そうか、東野万理に渡すのか。


 法明寺は暁美の行動をカバーするかのにように、一応一通り紙を見て、確認をした上で東野万理に見積もりの紙を渡す。

 確認も何もパソコンのデータをそのまま出力しているんだから、インクの確認くらいしかできなくない?っとさらに心の中でツッコんでみた暁美だった。


「こちらがお見積もりになります。調査費として日の調査時間8〜26時までで18時間。2泊3日なので2.5日分。2名の900,000円になります。1名辺り1時間1万円ですね。

 他社ではHPとかに6,000円などと載せているところあるみたいですが、なんだかんだ追加費用とか入れてくるので同じくらい、もしくはもっと高くなるイメージです。

 当事務所は、今お伝えしている項目以上のものを途中で追加したりしませんので、ご安心ください。

 経費は成田、羽田かはまだわかりませんが、相場料金で1名往復25,000円×2名で50,000円。

 ホテルは旦那さんと同じところを泊まらせていただきます。一泊20,000円2名2泊で80,000円。計税抜き1,030,000円になります。

 もちろん見積もりですので前後致します。いかがでしょうか?」


 見積書を受け取った東野万理は、上から順に内訳を説明する法明寺にあわせて指でなぞりながら目で追っかけていった。


「はい。大丈夫です」


 高額にもかかわらず即決する東野万理に暁美は少しだけびっくりする。

 やはり興信所や探偵事務所に相談しに来る人はある程度の費用を覚悟を持ってきているんだ。と改めて暁美の中での重みを感じた。

 母も昔、きっとそれなりの覚悟で依頼したんだろう。思い出すと少しだけ胸が痛くなる。


「わかりました。ではお引き受けさせていただきます。ではさっそくですが、お見積もり金額を一度お振り込みお願いします。お見積書に振り込み先を載せております。調査後、経費で足が出た分に関しましては、後日ご請求させていただきます。

 ご確認後、準備をさせていただきます。お振り込み後ご連絡ください。また平行して、可能な限りで構いませんので週明けの旦那様の行動予定と出発空港と時間、宿泊ホテル等教えていただけましたら幸いです」


「はい。了解しました。どうぞ、宜しくお願い致します」


 法明寺がソファから立ち上がるのにあわせて東野万理も立ち上がり、玄関口まで二人は移動する。暁美にも法明寺の後をついていく。


「ご相談ありがとうございます・・・。お金は明日お振り込みいたします」


 深々と頭を下げる東野万理に暁美は少し恐縮する。そうだ。そうなのだ。探偵のお仕事というのは、他の誰でもない相談者さん、依頼者さんにとっては、どんな世間の事件、事故よりも大事な出来事なのだ。

 調査時においては、一番の関係者になるであろう暁美達も真剣に向かい合わないと。これが暁美にとっての初の探偵業となる。頼られていることに対する使命感と、この人をどうにか苦しみから救ってあげたいと言う思いに駆られる。


「了解しました。しっかり調査して参ります」


「ありがとうございます。失礼します」


 何度もなんども深々と頭を下げて玄関を閉める東野万理を見送って、法明寺や暁美も頭を下げる。

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