第12話 全身麻酔
一昨年、その前の年と、三回全身麻酔による手術をしていただきました。
すぐにすぐ命に係わるという病気では無かったのですが、一回目の手術を部分麻酔で行ったところ、お医者様も予想していた以上に、相手が手ごわかったのか思いのほか時間が掛かり、結局四時間もかかってしまいまして、麻酔の効果が途中で持たなくなってしまったのです。
麻酔があまり効いていない中で、お腹の中の手術をするというのは、いやあ、なかなか経験できない体験かとは思いますが、どうしても本人が(つまりぼくですが)痛くて動いてしまうものですから、次回は全身麻酔で行こうという事になりましたのです。あっさりと言いましたが、もう冷や汗びっしょりで、ほんと痛かったんですよ。映画の中で、麻酔なしで鉄砲の玉を取り出すなんていうシーンが時々ありますが、そうとうの豪傑でも、それは痛いでしょうなあ。
と、いうことで、この全身麻酔というのは、なかなかに素晴らしいものです。
時間が完全にワープしてしまいます。
夢も見ません。
一回目の時は、目が覚めるときに、少し意識が混濁して、自分の状況がすぐに把握できなかったのですが、二回目になると、まあ慣れたわけでも無かろうとは思いますが、そうしたこともなく、すぐすっきりとして、何があったかもわかっておりました。
が、思いますに、あの麻酔が効いたままで、そのまま目が覚めなかったら、それがすなわち死なんだろうな、と・・・。
三回目に手術室に入る時には、すぐおとなりに、やはり手術の開始を待っている女性の方がいらっしゃいました。
ぼくは、眼鏡をはずしていましたから、実のところ周囲の状況がよく見えませんし、まして人の顔も認識は出来ません。
ただ「大きな手術は初めてですか?」
と、看護師の方が尋ねておられましたから、それなりの大手術を控えていらっしゃったのでしょう。
ぼくよりも先に、手術室に向かってゆかれました。
大きな病院なので、手術室もたくさんあります。
患者さんが手術室に向かって出発を待つロビーは、さながら国際空港のような様子で、前の飛行機が離陸するのをじっと待っているような感じです。ここまできたら、あとはもう、本人も、家族も、看護師様も、みな無事に着陸(成功)するのを祈るしかありません。
ぼくの場合は自分で動けるので、ストレッチャーから車いすに乗りかえて、呼ばれるのを待ちます。
「じゃ、行きますよお。」
と、声がかかると、視界がさっぱり開けない僕ですので、覚えがあるのは壁と天井だけですが、手術室に入ってゆきます。
このときの緊張感というのは、楽器の演奏でステージに上がる時よりも、はるかに怖いものです。
手術台に上がると、すぐにテレビで見るようなマスクが、にゅわっと出て来て、麻酔が始まります。
「くそ、なんとか少しでも長く意識を保ってやろう!」
なんて頑張ってみましたが、それはまあ、無理というものですね。
あの先に手術室に入って行かれた方の手術が、無事成功した事を祈っています。
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