第10話   下宿の怪

 これまた四十年は前のお話。

 大学生時代、ぼくは、とある、城下町で、しかも名高い温泉町にて下宿生活をしておりました。

 四人が二階に住む、賄付きの下宿でありました。

(よろしければ「謝罪詩編集」の第一話をご参照ください。)

 ある、物悲しい秋の夜・・・ 

 深夜の二時過ぎという

 まさに、草木も眠る丑三つ時。

 向かいの部屋の同期生が、ぼくの部屋の入り口を、

 どん・どん、と叩くのです。

「おい、起きてくれ。変なのがいるんだ。」

 

 ぼくは、ねむけまなこを文字通りこすりながら、向かいの部屋にと

 入ったのでありました。

 部屋の電気は落ち、真っ暗です。

「あれあれ」

 彼は言いました。

「なんだあ?」

 下宿の前の、道路の上に

 人影が二つ。

「叩いたんだ、この二階の窓を、叩く手が見えた。」

 下宿の壁は垂直に下がっていて、下から這い上がれる様な、踏み台になるところもない。

 黒い人影は、顔もはっきりせず、形もあいまいだったのです。

 そうして、一つの影が言ったのであります。

「酒飲みに行こう。」

「は?」

「酒飲みに行こう。」

 もともと気の小さい僕は、カーテンの陰に隠れ気味。

「いやあ、あのもうこんな時間なので・・・」

 と、一つ年上の同期生が言ったのであります。

 すると

「君たち●◎大学?」

「いえ、◎×大学です。」

「じゃあ、いいじゃん、勉強しなくたって、」

「いえ、もう、門限過ぎてますんで・・・・・」

「ふうん。そうなのか。じゃあね。ばいばい。」

 その二つの黒い影は、すーっと向こうに消えて行きました。

 茫然とした二人ではありましたが、ぼくは聞きました。

「おい、足元あったか?」

「いや、良く見えなかった。しかし、こわー。はっきり見たんだ、この窓を叩く手を!手を! どうやったら、叩ける?」

「いや、絶対、無理。」

「ついて行ったら、どうなったんだろう?」

「ううん・・・・・・・。」

 ある、明け方迫る温泉町の、中心部で起きたこの事件の謎は、まだ解明されておりません・・・。

 しかし、その下宿も、取り壊されて、すでに無いのでありますが。


 その、数日後、さらに明け方近く。

 下宿の屋根の上を、バタバタと走る音がする!

「いたた!」

 と、大きな声が響き

 バリバリという音が轟きわたったが、その後、突然ぱたっと静かになりました。

 まあ、これは、人間様の仕業に違いないが、しかし、なんでそこで音がぷっつりと途切れるのかは、よくわかりませんでした。

 

 その、下宿からはもうすぐの、名高いお城の周囲には、かつての「刑場跡」があり、そこでは怪奇現象が絶えないのであるという、ある教授のお話は、今でも忘れられませんが、これはまた、いつの日にか・・・・・。

 本日、おしまい。



























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